本来の実力


 一体の死体を行動不能にしたところで、ゾロゾロと死体が集まってきた。


「ちっ……やはり早いな」


 見たところ10体はいるか。ロドリゴが、瞬時に戦槌を大木の幹にぶち当てる。それはまるでマッチのごとく簡単に折れて死体たちに向かって振り下ろされる。数体は潰されるが、残りは避けた。


「そちらもいい腕だ」


 パーシバルは笑い。


 剣を持たぬ方の右腕を伸ばし。


 鋭利な刃を飛翔させる。


 それらは、死体の頭に炸裂して粉々に吹き飛ぶ。


「魔弩か……さすがはアリスト教徒、お金持ちだね」


 闇魔法使いは低く笑う。


 魔力の込められた魔石を矢じりに仕込んだ弓を魔弩と呼ぶ。腕に仕込めるほど軽量で腕輪ほどの厚さしかないので見た目でわかる人は少ない。アリスト教守護騎士は、近接では剣を、中距離では魔弩を用いて魔法使いを守護する。


 魔石はアリスト教徒の魔法使いが魔力を込めるが、素材の魔石は非常に高価でありアリスト教以外では高官や豪商の護衛でしか使われない。彼らは潤沢な寄付を背景に任務に対しての消費を惜しまない。


<<光陣よ あらゆる邪気から 清浄なる者を守れ>>ーー聖陣の護りセント・タリスマン


 その間、レイアが詠唱を終えて魔法を地面に向かって放つ。途端に光の柱が半径数メートルに拡がる。


「……」


 上位の魔法壁を広範囲に張り巡らせることは魔法使いにとっては至難の業だ。それを難なくこなす彼女に、ナイツは密かに畏敬の念を抱く。


「みんな、集まって」


 その声で、ロドリゴ、パーシバル、ナイツがすぐさま彼女の側に駆け寄る。


「ふぅ……これで、安全地帯はできた。ここから一体ずつ浄化していくしかないわね」


「なるほど……確実な手段だ。しかし、一つ問題があるな」


 アシュは神妙な面持ちをしてつぶやく。


「なに?」


「僕がその結界に入れない」


         ・・・


 攻撃されてしまえ、とその場の全員は願った。


「その魔法自体が、光属性が強すぎる。まさか、死ぬことはないが僕の魔力は弱っていくだろう。だから、僕は遠慮させてもらう」


 そう言って。


<<火の存在を 敵に 示せ>>ーー炎の矢ファイア・エンブレム


 アシュは炎で半径数メートルの木々を焼きながら、作業をしていく。なにをやっているのかわからないが、時折『フフフ』と笑っていてすごく楽しそうだ。


 そんな中、またしても続々と死体が来た。


 数体の死体がレイアたちに襲いかかろうとするが、光の魔法壁があるとわかると踵を返してアシュの方に向かう。


 が。


 死体たちは、アシュの周りでウロウロ徘徊することしかできない。


「……なぜ」


 ナイツは親指を噛んでつぶやく。


「気づかなかったかね? 彼らは光が射している地面を歩かない」


「……そう言えば」


 そんなところを見ていたのかと、不本意ながらも、同じ魔法使いとして感心せざるを得ない。


「光属性が有効なのは知っていたが、そこまで光を嫌うとはね」


 神妙な面持ちで粉々になった死体を眺める。アシュもまた死霊使いネクロマンサーであり、死体を多く操るがそんな特性はない。いや、むしろここの死体はかなりの年数が経過しているがその動きが衰えている様子はない。


「ふむ……素晴らしいな」


 闇魔法使いは興味深そうにつぶやく。


 そのとき、


「ぐああああああああっ」


 首元に鋭い歯を突き立てられて叫ぶ闇魔法使い。ブンブンと必死に首を振って突き放す。


 どうやら、死体の観察に夢中になり過ぎて、地面に影を作っていたらしい。


「はぁ……はぁ……ほらね」


「「「「……」」」」










 なにが『ほらね』なのか、まったくもってわからない一同だった。



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