調査


 数時間後、アシュたちはデルサス山のふもとにいた。緑が豊かで木々も多くある。木こりや狩人だけじゃなく、村人たちも薪木を拾いにやってきており、生活には必須の山と言える。雲ひとつない青空で、木漏れ日が至るところに照らされる。ここが死者の王ハイ・キングの縄張りでなかったらピクニックでも楽しみたいほどの陽気だが。


「さて、ロドリゴ君とナイツ君が命からがら逃げだした場所まで到着したわけだが、これからどうする?」


「「……ぐっ」」


 一言多いんだよ、と二人は心の中でつぶやいた。しかし、この性格最悪魔法使いにそんなことを言っても無駄だ。非常に短い付き合いではあるが、彼らは認識していた。この白髪男の性根は根っこの根っこから腐りきっていると。


 レイアは右手を顎に軽く添えて歩き出す。周囲には気配はなく、鳥などの声も聞こえない。一見、静寂を保ってはいるがそれは不自然であるかのようにも思う。


「本当にここで死兵が襲ってきたの?」


「ああ、間違いねぇ。実際にはこの先を1時間ほど登ったところだが」


 まるで境界線を引いたように、ある時点で死兵は追跡をやめた。


「……恐らく、山を降りないように指示されている。積極的に攻めてくる気がないのか……定石だと、まずは付近を探索して雑魚から狩っていくことだけど」


「しかし、5人で数千を超える死体を相手にするか?」


 ナイツの疑問は当然のものだった。昨日、二人で数十体は狩ったが例え5人に増えたところでという想いは拭いきれない。


「いきなり突っ込んでも、囲まれる可能性が高い。そもそも、あの砦まで辿りつく方法も発見できてない今、まずは一歩ずつ地道にやって行くのが近道だと思うわ」


「……わかった」


 若輩の小娘になにができると内心訝しんでいたが、思いのほか冷静だ。それに、言葉には出さないが互いの実力を確認するという意味も持つのだろう。これなら、従うのには依存はないと、ナイツはレイアを見直した。


 そして、しばらく歩いたところで。


「……おっと、もうおいでなすったか」


 ロドリゴが戦槌を構える。周りには数体の死体がいた。


「はぁ……君は報告すら満足にできないのかね? なにが『1時間ほど歩いたところで』だ。ここは未だ49分53秒地点だよ」


 闇魔法使いはいつものように皮肉る。


「う、うるせえ、だいたい1時間くらいだろ!」


「もちろん1時間の定義は人による。歩き方も違う。僕は紳士だ。細かく、クドクド、ネチネチ言うつもりはないよ。しかし、せめて誤差は前後10分だ。それすら外すようならば、その報告にはなんの意味もない。むしろ、誤情報は弊害をもたらす。君はパーティーを全滅させたいのかね?」


 細かく、クドクド、ネチネチと、エセ紳士は脳筋戦士を責め立てる。


「くっ……てめえ」


 ロドリゴが死兵でなく、横の闇魔法使いに戦槌を構えた時、死兵がその隙をついて襲いかかってきた。


 が。


 その首は一瞬にして舞った。


 それはまるで閃光のような光を放ち、


 パーシバルは抜刀した剣を静かに収める。


「……ヘヘッ、癪だがいい腕だな」


 そのまま地面に落ちてくる首を、ロドリゴが豪快に戦槌で砕いた。


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