苦戦


 対戦形式は5対5の団体戦。半径100メートル四方の石畳に、ナルシャ国の生徒たちは横並びで陣取る。一方、ダルーダ連合国の生徒たちは主将であるルードを中心に逆三角を描くような形。


「試合開始!」


<<火の存在を 敵に 示せ>>ーー炎の矢ファイア・エンブレム

<<水の存在を 敵に 示せ>>ーー氷の矢アイス・エンブレム


 審判の声とともに、リリーが各々の手で魔法を繰り出す。


 先手必勝。


 メンバー最速でシールを描くことができるリリーは、魔法を放つ速度に絶対的な自信を持つ。彼らが魔法壁を貼る前に、なんとか2人を倒そうと画策する。


 が。



<<土塊よ 絶壁となりて 我が身を守れ>>ーー土の護りサンド・タリスマン


 数秒も遅れていない速度で、両端の敵に土の魔法壁を張られ、たちまち魔法が霧散した。


「くっ……」


 思わずリリーは呻く。


 各々で同じ魔法壁を張ることで、魔法詠唱速度を劇的に縮める高等技術。もちろん、よほど2人の相性がよく、また長年の修練を重ねなければ実践で使うことなどできない。


 さらに、


<<火の存在を 敵に 示せ>>ーー炎の矢ファイア・エンブレム

<<光の存在を 敵に 示せ>>ーー光の矢サン・エンブレム

<<木の存在を 敵に 示せ>>ーー風の矢ウインド・エンブレム


 返す刀で真ん中の敵3人が、魔法を放つ。


「きゃーーーーーーーーーーーーっ!」


 リリーに集中放火がきて、必死でそれを躱す。


「ちょ……ちょっと魔法壁ぐらい張ってよ!」


「ま、まあ避けられたからいいじゃん?」「と言うより、あの程度の魔法は避けられるってわかってたから」「もちろん信じてたわよ。信じているが故の、傍観よ」


 ダン、ミランダ、ジスパがそれぞれ言い訳を始める。とにかく、魔力の節約をしたい。自分を守るためだけに魔法壁を使いたいチームワーク皆無メンバーである。


「リリー……どこか調子悪いの?」


 いつのまにか、彼女の隣にいたシスが尋ねる。


「そ、そ、そんなわけないじゃない! 絶好調よ、絶好調!」


「「「なら、いいじゃん」」」


 3人の声が一斉に揃う。


 普段なら、魔法を放たれても、当たる前に魔法壁を張って防げるほどの実力を持つリリー。その圧倒的強がりが故に、誰もが彼女が弱っていることなど気づかない。


 そんなやり取りをしている間に、ダルーダ連合国の生徒たちは再び陣形を変更する。


 五星陣。


 主将のルードを真ん中にして、各々が詠唱チャントを開始する。


「ふむ……彼らは陣形の使い方が非常に上手いね」


 観客席のアシュは、感心しながらダージリンを口に運ぶ。


 魔法使いにとって戦闘における陣形は、非常に重要かつ効果的なものである。位置関係によって、魔法の効果が異なることは誰もが周知する事実なのだが、陣形を状況毎に変更させることは長年のチームワークが必要となる。


「ちょっと、ダン! そこ、私よ」「ば、ばか。そこは臨機応変にしろよ」「ちょっと! そっちに詰めすぎじゃないの!?」「3人とも喧嘩するなー! 早くしなきゃ魔法が……」


 このように、即席で一週間練習したところで、実戦で陣形変更などできるものではない。いや、そもそもシス以外はチームワークの『チ』の字もないような連中である。


 一方、ルードはそんな彼らの不出来な陣形を眺めながら、ほくそ笑む。やがて、他の4人から魔力を注がれ、手をかざした。


「……これで終わりだ……喰らえ!」


<<光なる徴よ 聖なる刃となりて 悪しき者を 断罪せよ>>ーー光の印サン・スターク


 光の矢サン・エンブレムの上位互換の魔法。通常の単体で放つものと異なり、無数の光の矢が、リリーたちに向かって襲いかかった。





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