幕切れ


「フガッ」


 光の印サン・スタークが放たれた瞬間、フェンライの豚鼻が得意げに鳴り響く。まさに、勝利への凱歌。彼の頭の中で、アシュへの罵倒が数千ほど駆け巡る。


 しかし。


「ククッ」


 同時に、闇魔法使いは笑みを浮べる。


 無数に繰り出された光の矢がリリーたちに触れる直前、彼女たちの動作は見事に一致していた。


<<聖鏡よ 愚者へ 過ちの洗礼を 示せ>>ーー真実の扉トゥルー・レパンド


 出現した透明な鏡は、その光の方向を反転させて、ダルーダ連合国の生徒たちに襲いかかる。


 反射魔法。


 属性の波長を合わせることで、相手の魔法をそのまま返すという光魔法。その波長を合わせるには高度かつ繊細な調整が必要であり、失敗すれば無防備で攻撃を喰らうことになるので、使用する者は少ない。


 しかし、この天才たちは迷わずそれを選択した。


 理由は、ダルーダ連合国主将であるルードが最初に光魔法を放ったこと。瞬間、リリーたちはその波長を予測した。そして、ルードが光の印サン・スタークの詠唱を開始した時、密かに波長の調整を始めた。魔法が放たれた時には微細な調整まで完璧に終わらせていた。


「ブヒッ」


 思わずフェンライが豚鼻を鳴らす。まさに、危険への雄叫び。一回戦で負けることなどあれば、恥そのもの。国中の笑い者は必至。


 襲いかかる無数の光の矢に対し、一瞬慄くダルーダ連合国メンバーたちだったが、すぐさま対抗策を発動した。


<<土塊よ 幾重にも重り 味方を護れ>>ーー土陣の護りサンド・タリスマン


 土の護りサンド・タリスマンの上位互換。五人のメンバー全員が息を合わせることによって、超速的な魔法壁を張り巡らせる。


 無数の光は、その強固な土壁によって止められた。


「ブヒーッ」


 思わず安堵の豚息をつくフェンライ。まさに、小屋でのひと時。なんだ驚かせやがって。やはり、我が国は最強だと再認識。


 しかし。


「ククッ」


 再び笑みを浮かべた闇魔法使いは、その細く長い指で、元豚侯爵の視線をある方向に導く。


 ホッと安堵の表情を浮べながら、リリーたちを見据えるダルーダ連合国メンバーだったが、彼らは見過ごしていた。


 シス=クローゼの存在である。


 それは、冷静に見れば滑稽なほどだった。すぐ真後ろにいる彼女の存在に彼らが誰も気づかない。


 観客たちから見れば滑稽なほどの。


 しかし、それほど彼女の動きは自然で、軽やかで、速かった。


 ゴスッ。


 鈍い音ともに、背後からの打撃で主将のルードが崩れ落ちる。


「な、なんだーーっ!?」


 そう喚きかける他メンバーの懐に入った鋭い拳撃はいとも簡単に、その身体を崩れ落ちさせる。


「ひ、卑怯よ魔法じゃないなんーー」「お、おいお前ーー」「こんなバカーー」


 残りの3人が負け惜しみを言い終わる前に、シスは電光石火の拳で彼らを地べたへと沈めた。


          ・・・











 一瞬にして静寂が舞い降りた。

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