激闘


「うおおおおおおおおっ」


 アシュの拳が、サモンの顔面を捉え何度も何度も殴りつける。一撃一撃が人間の頭ごと木っ端微塵にするような拳激。


 サモンはその拳を掴み、力任せにアシュを放り投げる。そして、態勢を立て直して反撃にアシュに向かう。


 その重い蹴りは、アシュの腹に直撃し数十メートルほど吹き飛ばされる。すぐに起き上がってわき腹を抑えるアシュはひそかに思う。


 これは……長くは耐えれんな。


 今のやり取りで、アシュは自らの力がサモンに及ばぬことを確信した。2人の差を分けたのは、覚悟の差。残り少ない命の炎を燃やすサモンの覚悟が、不老不死のみが使える超魔法を凌駕していた。


 アシュはそれでも、全力でサモンに向かって激闘を繰り広げる。サモンの命は残り少ない。そこに勝機を見出すしか選択肢が残されていなかった。残りの体力も省みず、全力を引き出してサモンに攻撃を仕掛ける。


 多少の被弾を覚悟しながら、アシュはそれでもサモンにダメージを与えるべく拳激を浴びせる。


 やがて、数分が経過したとき一気にアシュの動きが大きく鈍り、自らの身体に限界が迎えていることを悟る。それでも、無理やり身体を動かし、それを悟られまいとする。


「……それが貴様の限界か」


 アシュの繰り出した拳を受け、サモンが上空に向かって蹴りを浴びせる。そのままアシュは空中で態勢を立て直そうとするが、すでに回り込まれたサモンに背中を両手で殴られ地面に追突。


「がはっ……」


 大量の黒い血がアシュの口から吐かれて、地面へと舞い散った。そのまま、サモンはマウントを取ってアシュを何度も何度も殴りつける。


「貴様は……貴様はあああああああああああっ!」


 弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾だだだだだだだだだだだだだだだだだっ!


 その拳は、アシュの姿をみるみるうちに無残にしていく。やがて、立ち上がる体力も奪われた闇魔法使いは、そのつぶれかけた瞳でサモンの方を凝視する。


「……緑色……なんだね」


 アシュは、ボソッと口にした。


「……」


 それに耳を貸すまいと殴り続けるサモン。やがて、これ以上の攻撃は無駄と悟ったのだろう、立ち上がりアシュに背を向けてシスの逃げて行った方角の方を向く。


「君の……瞳……さ」


 その声にピクリとサモンの身体が止まる。そこで、アシュはまだサモンがこちらの会話に興味を示していることを知る。そして、彼がそのまま走り去らないように間髪入れずに話し続ける。


「……綺麗……だ。若い……頃は……モテた……だろ……」


「なにが言いたい!?」


「……娘……だろう?」


 胸倉を掴んで迫るサモンに、アシュはめいっぱい歪んだ笑顔を見せた。


「……」


「知って……いるぞ……」


 もう、多くは語れない。だから、その事実だけを伝えた。


「……なにが言いたい!?」


「……クク……わかる……だろう?」


 含みを持たせたセリフ。しかし、この場面ではサモンに有効だった。彼が自らの信念を曲げてまで隠した宝。神以上に唯一愛したアセルスの忘れ形見。


 


「貴様あああああああっ!」


 感情のままに再びアシュを殴り続けるサモン。しかし、同時に気づいていた。アシュ=ダールが不老不死であることを。自らの死がすぐそこに迫り、もはや自分にできることはないことを。


「……」


 すでに言葉すら挟むことのできぬアシュだったが、サモンの歪んだ表情を見て、精一杯微笑む。この聖者が死ぬ間際も苦しむように。アシュを一生恨んでも恨みきれぬように……アシュに気を取られ、少しでもシスとリリーが遠い距離へと行けるように。


「……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 自らの無力にサモンは大きく慟哭をあげた。




 









 

 

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