審判



「アシュ先生……わかりました。あなたの助力を得ることは諦めましょう。ただ、生徒たちにはあなたの素晴らしい授業を受けさせてやりたい、どうか教師は続けて頂けないでしょうか」


 ライオールが深々と頭をさげる。


  もちろん、アシュの助力を得られないのは痛い。しかし、彼の側には必ずミラの存在がある。彼女は心優しき人形。もしものことがあった時、必ず生徒たちを守ってくれるだろうと確信していた。


「そうですよ、アシュ様。だいたい、あなたがいてもいなくても敵は襲ってきますから」


 ミラが淡々とつぶやき、それにナルシスト魔法使いが反応した。


「……ふぅ、ミラは相変わらずの人形だな。僕がここにいて、襲ってくる? 僕を誰だと思っているのかな?」


「だって、アシュ様ってこのナルシャ王国で全然知名度ないんですから。ねえ」


 そうライオールに同意を求める。


「え、ええ。そう言えば、ここに来てからあなたの名前はあまり聞きませんな」


 彼女の真意がわからず、とにかく同意をしておく。大陸の名だたる国家は、アシュ=ダールの存在自体を禁忌としてきた。国家間でも秘匿とされ、裏の世界でのみ語り継がれている存在だ。


「……」


 アシュ、黙る。


「だって、この国に来てからロクな発明してなかったじゃないですか。やっぱり不老でも、脳ミソは衰えるんですかね。ねえ」


 再び、ライオールに同意を求める。


「い、いや。そんなことは……」


「相変わらず、ライオール理事長は人格者ですね。最近のご活躍、耳になさってますよ。半年前にあのレッサーデーモンの討伐体に加わったんですよね? やっぱり、バイタリティがどこかの誰かさんとは違いますよね。ライオール理事長がここにおられるんだったら、どっかの誰かさんがいてもいなくても……ねえ、どっかの誰かさん」


「……僕が、ライオールに劣るとでも?」


 アシュはボソッとつぶやいた。


「い、いえいえいえ! そんなことは――」


 慌てて否定するライオールに、ミラは再び口を挟む。


「そんなに謙遜なさらないでください。全然、謙遜なさらないくせに最近パッとなさらない方が可哀想になってしまうじゃないですか。その魔法使いとしての腕だけが取り柄どこかの誰かさんが」


「……ふふふふふ」


「なに笑ってんですか、気持ちの悪い」


 ミラは淡々と言いきる。焦るライオール。


「いいだろう。人形風情が。僕がライオールよりも数段優れた魔法使いであることを証明してやろう。教師を続けようじゃないか。そして、無謀にも、僕のような偉大な魔法使いがここを襲ってくるような無知な輩にはキチンと僕の偉大さを見せつけてやろうではないか」


「口ではなんとでも」


「……見事だよ。さすがは僕の創った人形なだけある。ここまで、この僕をバカにできるのは、世の中で君ぐらいのものだろうよ。あはは、あはははははは」


 明らかに笑っていない笑いを浮かべ、メチャメチャキレるナルシスト魔法使いであった。


「そうですか。お褒めいただきまして光栄です。では、帰りましょうか」


 そう言って、ミラは扉を開けた。


 やめると宣言していたアシュを見事にやる気にさせたミラの手腕であった。


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