第26話「それぞれの場所へ帰っていった」

 翌朝、トウマ達は玉座の間に集まっていた。


「皆に改めて礼を言うぞ。そなた達が来てくれなかったらこの世界は。そこで何か褒美を、と思ったが」

「いいですよそんなの。なあ」

 トウマが尋ねると、皆は頷いた。


「そうか。できればこの国の貴族としてずっといて欲しいが、それは無理な相談なのはわかっておるし……なので」

 王は側に置いてあった宝箱から九つの美しい宝玉を取り出した。


「これは我が国に伝わる魔法の宝玉じゃ、これをせめてもの礼として受け取ってもらえないだろうか?」

「え、それって大事な物なんじゃ?」

「そうだがこれくらいしか報いる術がない」

 王がそう言った後

「頂いておこうではないか。王様の顔を立てるという事で」

 小次郎がトウマに進言した。

「……ええ、わかりました。では遠慮無く」

 トウマは王から九つの宝玉を受け取り、皆に一つずつ分け与えた。



「それでは、皆さんを元の世界に帰しますね」

 王の隣にいた女神見習いが呪文を唱えると、目の前に光の扉が現れた。


「扉を開けたら元の世界を念じながら通って下さい、それで帰れますから」

「あの、僕はまだ」

 道彦が手を上げると

「わかってますよ。道彦さんはまた今度、という事で」


「にゃあ。早く政彦に会って、それから……それじゃ皆、また会おうにゃ~!」

 そう言ってマウは勢い良く扉を開け、そこを潜っていった。


「ああまたな……って待て!? お前忘れ物してるぞー!」

 トウマが扉に向かって叫んだが、返事はなかった。


「ん? マウちゃん何を忘れてったのー?」

 イリアがトウマに尋ねる。

「えっと、マウが最初に言ってたと思うけど」


 トウマはマウがこの世界で実の弟のように面倒を見ていた少年の事を話した。


「うわー、その子置いてかれたと知ったらグレちゃうんじゃない?」

「どうだろうな? だがマウなら自力でまたここに来れるから、すぐに迎えに行くだろな」


「では私もこれで」

 次は小次郎が扉の前に立った。

「ええ、小次郎さんも。あの人と出逢える事と無事の出産を祈ってますよ」

「ああ、ありがとう。昨夜聞いたが、子孫がいるのだから大丈夫と油断してはいかん、だったな」

「ええ。何がきっかけで歴史が変わるかわかりませんから。っと、一つ聞いてもいいですか?」

「ん、何だ?」

「マウに何を教わったのですか?」

「……それは言えん」

 小次郎はしかめっ面になった。

「あ、すみません」

「いや、いい。ではトウマ、皆。達者でな」


 小次郎もまた扉を潜って行った。


「房事の秘技、だなんて言えるか」

 その道中、小次郎はボソッと呟いた。



「ではわたし達もこれで~」

「ト、トウマさん。皆。またね」

「私もこれで」

 レイカ、ドシータ、マオリが扉の前に立つ。


「マオリお姉さん、ドンタさん、レイカさん。落ち着いたらまた遊びに行くからね」

 ニコが三人に話しかける。

「ええ。待ってるわよ」

 マオリはにこやかな顔で言った。


「ドシータよ、気が向いたらまたいつでも来てくれ。ここはお前の父の故郷なのだからな」

 王がドシータに話しかけた。

「う、うん。今度は妹や息子も連れて来るから」

「うむ、楽しみにしてるぞ」


 その後三人も扉を潜り、元の世界へと帰っていった。



 そしてニコが扉の前に立ち

「それじゃトウマお兄さん、イリアお姉さん、道彦お兄さん。またね」

「ああ、ニコも元気でな」

 トウマは屈んでニコと握手した。 

「うん。あ、一つ聞いてもいい?」

 ニコがトウマを見上げて尋ねる。

「ん? 何を?」

「僕っていつか誰かと結婚できるの?」

「へ? なんでまたそんな事を?」

 トウマは驚きながら尋ねる。

「皆を見てたらね、僕にも恋人がいたらなあと思っちゃったの。ねえ、どう?」


 トウマはしばらく考え込んでいたが

「ごめん。それは俺にもわからないよ。でもニコならいい人と出会えると思うよ」

 そう答えた。

「うん、ありがとお兄さん。じゃあ」

 ニコも扉を潜っていった。


「ねえトウマ、ホントにわかんなかったのー?」

 イリアが尋ねると

「ああ、わからなかった。もし一生独身だったとしてもその姿が見えるだろうに、何も見えないんだよ」


 いや、本当は一つ見えた。

 ニコが強大な魔物と戦っている場面だけが。

 あれはまだ見ぬ物語の場面なのか、それと違うのかもわからない。

 でもニコならきっと。


「あの、ちなみに僕は?」

 今度は道彦が尋ねる。

「ああ。道彦は何故か初恋の人とくっついてる姿が見えるんだよ?」

「え? それはないでしょ。だって彼女は……あ、もしかして似ている人?」

「いや、本人だよ。だから『?』なんだよ」

「うーん。まあそれは一旦置いときます。では僕は部下の所へ行きますね」

「ああ。頑張ってな」

 


「さてと、後はイリアだけだな」

 トウマがイリアの方を向くと

「えー? あたしはトウマと一緒にいるよー」

「は、いいのかよ? 元の世界には友達もお師匠様もいるんだろ?」

「だってあたしは勇者と対になる聖女だしねー。ねえー、いいでしょー?」

 イリアは口調は軽いが、表情は真剣そのものだった。

「そっか、イリアが一旦帰った後で改めて、と思っていたが……なあ、俺とずっと一緒にいてくれないか」

「……うん。あたしはトウマとずっと一緒にいるよ」

 二人はどちらからともなく抱き合った。



 その後、女神見習いが二人に話しかけた。

「ではトウマさん、イリアさん。お幸せに」

「ありがとうございます。あ、そうだ女神様。ちょっと聞きたいんですけど」

「聞きたい事ならわかってますよ。私はひょんな事からトウマさんが勇者だと知り、お師匠様と相談してこの世界に送ったんですよ」

「やっぱり。でもそれなら別にトラックに轢かれなくてもよかったんじゃ?」

「元のままでは勇者の力を発揮できませんから転生させたんですが、時間が無くて荒っぽい手しか浮かばずに……ごめんなさい」

 女神見習いは頭を下げた。

「いえ、いいですよ。おかげでイリアと出会えたし」

 トウマは手を振って答えた。

「ありがとうございます。これで少しは気が楽に。……ところでお二人はこれから何処へ行かれますか?」

 女神見習いが顔を上げて尋ねる。


「とりあえず俺が住んでいた元の世界へ。その後はいろんな世界へ行こうかなって」

「わかりました。あの、もし困った事があったら私に向かって念じて下さいね。出来る限りの事はしますから」

 

「ええ、ありがとうございます。イリア、行くか」

「うん。女神様、またねー」


 そしてトウマとイリアも扉を潜っていった。

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