第25話「皆に話す」

 そしてトウマはミッチーの方を向き 

「さてと、次はミッチーにも話そうか」

「え、僕に何を?」

「君の本名だよ」

「あ、それですか。でも僕、本当の名前ってあるのかな?」

 ミッチーが首を傾げると

「あるよ。ご両親は双子が生まれると知っていてね、二人の名前を考えていたそうだよ」

「そうだったのですか? 僕の事なんか知らないと」

「あまり触れてほしくなかったんじゃないかな。だから見えなかったのかも」

 ミッチーはしばらく無言になった。


「あの、それで」

「うん。ミッチー、君の名は『石見道彦いわみみちひこ』だよ」

「それが僕の名前……あ、道彦だからミッチー」

「そういう事。あの世界で君を本名で呼ぶとね、時空に乱れが生じるおそれがあった。だから君の育ての母親は『ミッチー』と呼んでいたんだよ。でも心の中ではいつも『道彦』と呼んでいたみたいだね」

「……そうですか。あの、教えてくれてありがとうございました」

 ミッチー、いや道彦が頭を下げる。

(それとね、あの方が『妖魔王』という悪の総大将だと伝わっている事に触れず、ただ僕の『育ての母親』と言ってくれてありがとう)

 道彦は心の中でトウマの配慮に感謝していた。


「ミッチー、いや道彦。あんたの事はあたしが皆に説明してあげるにゃ」

 マウが声をかけると道彦は顔を上げ

「ありがとう義姉さん。でも僕はもう少しこの世界にいますよ」

「え、何でだにゃ?」

「僕の元部下達が新たな道へ進むのを見届けたいんです」

「わかったにゃ。じゃああたしは先に帰ってるにゃ」


「さて、次は……うん、もう言えますね、ドシータさん」

 トウマがドンタ、いやドシータに話しかけた。

「う、うん。やっとまた。でも何で言えなくなってたんだろ?」

「それは俺にもわかりません、何故でしょう?」

 ドシータとトウマが首を傾げていると

「それはですね~、トウマさんのせいですよ~」

 レイカがそんな事を言った。

「え!? な、何で!?」

「トウマさんは物語を読んだ事忘れてたでしょ~。それが勇者の力として変な方向に影響しちゃってたという訳です~」

「そんなもんなの? あ、あのすみません」

 トウマは慌てて頭を下げた。

「い、いいってそんな事」

 


「さてと、次は」

 今度はマオリの方を向いた。

「君の心に秘めている事、それは誤解だよ」

 トウマはマオリにしか聞こえないよう、小声でそう言った。

「誤解、と言われても」

 マオリも小声で戸惑いながら返す。

「あの人は君を捨てたんじゃない。それだけはわかってあげて」

 トウマは真剣な目つきでマオリに言った。

「たとえそうだとしても、会ってみないと納得出来ません」

「うん、わかった。ああそれと」

「はい?」

「マオリはドシータさん達と同じ世界から来たんだよね」

 今度は皆に聞えるような声で言う。

「はい、お二人とお話してわかりました。それでですね、私しばらくはドシータさんの妹さんのところでお世話になる事にしたんです」

「そこにいれば会えるよ。どの位先かまでは俺にも見えないけど」

「ええ、わかりました。トウマさん、ありがとうございます」


「って、あの変態お姉さんの家に行くの? マオリお姉さん大丈夫かな?」

 ニコが物凄く心配している。

「大丈夫だよ、彼女は普段はいい人だって知ってるだろ?」

 トウマがニコを安心させるように言う。

「あ、そうだね。ところでトウマお兄さん、僕には何かないの?」

「あるよ。ニコはいずれある少年と一緒に別の世界を救うんだ」

「え、そうなの?」

「そうだよ。その時には俺達はいないけど、別の仲間がいるはずだ。だから頑張ってな」

「うん!」

 ニコは元気良く返事をした。


(実はこの物語ってまだこの世に誕生していないから、結末がどうなるのかは知らない。でも君達なら必ず救ってくれるって信じてるよ)

 トウマは心の中でそう言った。


「ねえトウマ、あたしは何かないのー?」

 イリアが自分を指さしながら尋ねる。

「ん? そうだな……それは後でいいか?」

「えー、何でよー?」

「まあいいじゃん。それよりさ、宴会の続きを」

「んー、わかったわ。でも後で教えてよねー」

「ああ。さ、今日はとことん騒ごうぜ」


 するとレイカが

「トウマさん、その前に王様にも一つお話を~」

「え? ああそうか。でもいいのですか?」

「いいでしょ~。きっともっと盛り上がりますよ~、ふふふ」


「ん? 儂に何の話があるのだ?」

 いつの間にか王がそこにいた。


「あ、王様? 何でここに?」

「主役の皆が席を外しているから不満の声が出ていてな、呼びに来たのだよ」

「そうでしたか。でもご自分で来られなくても、誰かに頼めばよかったのに」

「いや、儂がそうしたかったのだよ。で、話とは?」


「あ、それですけど。ドシータさんも聞いてくれますか?」

「う、うん?」


 そしてトウマは王とドシータに話した。

 

 ドシータの父親が王の弟だという事を。

 

「な、なんと? そなたは我が弟ユーダの子だったのか。ならば似ていて当然だな」

 王がドシータを見つめながら言う。

「で、でも父さんと母さんは、もう」

「それは前に聞いた。できればもう一度会いたかった」

「と、父さんもそうだったと思うよ。王様、いや伯父さん。オラ、他にもまだ家族がいたのがわかって嬉しいよ」

「そうか……ありがとう」

 王は涙ぐんでドシータを抱きしめた。


 その後王が宴の場でその事を話すと、レイカが言ったとおり宴が大盛り上がりとなった。


 


 しばらくして、トウマはイリアと一緒に城の外へ出た。

「よかった。ちゃんともてなされてた」

「ああ。ミッチー軍の皆も別の場所でな」

 トラックロボが胡座をかいて樽酒を飲んでいた。

 その周りで共に飲んでいたらしい兵士達が酔い潰れて寝ていた。


「お疲れ様でした、あなたがいなかったらどうなってたか」

 トウマが口調を改めて言う。

「礼を言うのは私の方だ。君達が来てくれたおかげでこの世界は救われた。そして私もこうして」

「それ、真の姿じゃないでしょ?」


「……見えたのか? それとも聞いたのか?」

「全部は見えてないですけど粗方は。あと聞いてないです」

「そうか。君も知っているのか?」

 ロボがイリアの方を見て言う。

「さっきトウマからちょろっと聞いたよー」

「そうか。だが他の者にはまだ言わないでくれ。特に彼には」

「うん。けどいつかは自分で話すんだよね」

「その時が来たらな……さ、そろそろ戻った方がいいぞ」


「ええ。じゃあ」

「お疲れ様ー」




「……その時は、皆で酒でも飲むかな」

 ロボが樽を掲げて呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る