第21話「大魔王の正体」

「ぐ、攻撃が当たらん」

「それに呪文も全然効かないよー」

 トウマとイリアは片膝をついてケイオスを睨む。


「フ、どうした? もう終わりか?」

 ケイオスは腕を組み、笑いながらそこに立っていた。


「ね、ねえトウマ。特典であいつの攻略法とか見えないの?」

 イリアが縋るように尋ねるが

「すまん、さっきから見ようとしてるが、どうすればいいのか」

 トウマはゆっくり首を横に振る。

 すると

 

「余の事を調べようとしても無駄だ。後付けの力などでわかるはずがない」

 ケイオスは口元をニヤリとさせながら言う。 


「え? て、てめえはいったい?」

「余は全てを混沌へと導く者だ。さて、もう死んでもらうとするか」

 ケイオスの掌に黒い気の塊が集まっていく。


「あ、あれはさっきのよりも数倍、いや数十倍は」

「……トウマ」

 イリアが意を決したかのような目でトウマを見つめる。

「な、何だよ?」

「短い間だったけど楽しかったよ。だからさー、最後に」

 イリアはトウマの唇に己のそれを……

「!?」

「じゃあねー」

 イリアはそう言った後、ケイオスに向かって歩いて行った。



「ん? もしかして余と共に自爆でもする気か?」

 ケイオスはそう言って身構える。

「ううん、あんたじゃたとえ自爆呪文でも大したダメージにならないでしょー、でもさー」

 イリアの全身から魔法力が溢れ出していた。


「な!? それはまさかぁ!」

 ケイオスは驚愕の表情となって叫ぶ。 


「これなら通じるはず……」


「え? あ、ああ!? やめろイリア! それは」

 トウマはイリアが何をするのかわかった。


「構うもんか……大魔王ケイオス! あたしと一緒に消えろー!」

 イリアの全身が強く輝き、その光がケイオスを飲み込む。


「ウギャアアアアアーーーー!」 


 ……やがて光が止むと、イリアとケイオスの姿はそこに無かった。



「あ、あれって魂のエネルギーを相手にぶつけ、双方共に消滅するという究極秘術……だがあれは二度と転生出来ない。魂が消えるんだから」


 トウマはその場に蹲り


「イリア……俺は……ウワアアア!」

 大声で泣き叫んだ。



 しばらくして

「……勝つには勝ったが、イリアが、皆が」

 落ち着いたトウマがそう呟いた時


「まだ終わってないぞ」

「え!?」


 トウマが顔を上げると、そこには


「ケイオス!?」


「……今のは効いたぞ。だが余を消滅させるには至らなかったようだな」

 ケイオスは全身がボロボロになっていたが、まだ生きていた。


「な、だが今のお前なら」

 トウマが立ち上がって剣を構えるが


「フフフ、余はこの世界がある限り消えはせぬぞ」

 ケイオスがそう言って不気味な笑みを浮かべる。

「え? ……ケイオスって、まさか」

「やっとわかったようだな。さあ、余の最終形態を見せてやろう」

 ケイオスが両手を天に掲げると


 ズトオーン!


「うわああーーー!?」

 玉座の間が吹き飛び、トウマはその爆風に巻き込まれた。




「……ぐ? あ」

「勇者よ、大丈夫か?」

 トウマが目を開けると、そこにはあのトラックのロボットが跪いて彼を見下ろしている。そしてその側には満身創痍のミッチー軍がいた。


 どうやら大魔王軍は彼らの手で全滅したようだ。


「ここは、城の外?」

「そうだ。だがその城が突如爆発し、そこから君が飛んできたのを私が受け止めたのだ。いったい何が?」

 ロボットが尋ねる。

「大魔王ケイオスが……」


「あ、ああ! あれは何だ!?」

 トウマが言い終わる前に誰かが叫んだ。


- フハハハハ……この姿を見たからには生かして帰さんぞ -


 城があった場所には

 黒い顔に白い目と大きく開いた口、山のように大きな黒い体の魔物がいた。


「あ、あれが大魔王ケイオスの最終形態?」

 トウマがケイオスを見ながら言うと

「最終形態と言えばそうだが、あれもまた仮の姿だ」

 ロボットが首を横に振って言う。

「え? なあ、それどういう事だよ?」

「あれはこの世界の意志が悪意を集め、それを象ったものだ」

「……じゃあやはり大魔王ケイオスって?」

「ああ。私も正直違っていてくれればと思ったが……そうだ、あれは」


- そうだ。余はケイオス。この世界の意志であり大魔王でもある -

 ケイオスが答えた。


「この世界の意志が何故大魔王に?」


ー フハハ……この世界は多くの世界の欠片が、悪しきものが集まって出来たもの。全ての世界から捨てられて、忘れられていくものが……何故だ、悪しきものがこの世に居てはいかんと言うのか? ならぬなら何故生み出された? -


「何故って、知らねえよそんなの」


- そうだろうなあ。……まあいい、全てが混沌になれば聖も悪もなくなる……それを余が成し遂げてやるわ! -

 ケイオスは少し泣いているようにも見えた。


「……ケイオス。少しは同情するが、それでも世界を混沌にされてたまるか!」

 トウマが身構えるが


- フハハハハ、完全覚醒していない貴様など余の敵ではないわ -


「く、でも覚醒って俺にもどうやればいいかわからんし」


「勇者よ、すまぬ」

 ロボットが突然謝罪する。

「ん、何で謝るんだよ?」

「私が目覚めたように、八人の戦士がいれば君も目覚めるはずなのだが……すまない、私がそれを言っておけば先に手を打てたのに」

「そうだったのかよ……あ」

「どうした?」

「なあ、俺さ」


- ふ、何を喋っているのか知らんが、思い残す事がないようにしてやろう -

 ケイオスはその場で身構え、動かずにいた。



「そのような事が?」

「ああ。調べても見えないし……え?」

「どうした?」

「いや、今頭に何か浮かんだ気が?」


- む? ……させぬぞ! -


 ケイオスはトウマ達目掛けて黒い気を放った。


「え? ……ああああ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る