ユア

4歳になった私は幼稚園に通うようになり、

そこで一人の女の子ととても仲良しになった。

名前は”結愛(ユア)”。

母親同士が仲が良くなった流れで、私と結愛は知り合った。

とても優しくて面白い、大好きな親友になった。

結愛にも私と同じく、2つ上の兄”陸(リク)”がいて、

私の兄も陸と仲が良かった。

幼稚園の2年間は、ほとんど結愛と遊んでいた記憶ばかりだ。


ある日、結愛の家で遊んでいると

結愛はどこからか、両手で抱えるほど大きなハムスターのぬいぐるみを持ってきて、おかしなことを言い始めた。

「この子は私の弟なの。

本当は、生まれてくるはずだったんだけど、

ママのおなかの中で死んじゃったんだって…

お兄ちゃんとお姉ちゃんもいたの。」

当時の私には、はっきりと理解はできなかったが、

なんとなく、悲しいことがあったんだと感じて

「そうなんだ…」と、そのハムスターのぬいぐるみを撫でた。


あとでママから聞いた話によると、

結愛の家庭環境はあまり良いものではなかったらしい。

父親のDV。

結愛の母親は、結愛と陸の他にも

何度か妊娠していたことがあったが、そのほとんどを中絶していたらしく、

結愛と陸は母親が必死の思いで守り、生んだ子供だったそうだ。

幸いにも、父親は結愛と陸には手を出さなかったらしい。

むしろたまに見かける結愛の父親は、見た目こそ派手で怖い印象だったが、

結愛に接するその態度は優しく、まさに父親そのものだった。


結愛の両親が離婚をしたのは、私と結愛が小学生に上がった頃だった。


ユアは変わらず面白くて優しかった。

…でも、どこか影のかかったような雰囲気をまとうようになっていた。

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