第二話 学校
あいつの防ぎようのないイビキの所為で満足に睡眠を取ることが出来なかった。耳を防げば余計に身体の中で反響してえらいことになるし、起こそうと「うるせぇ!」と言っても全然起きない。
結局、気付いた時には眠りにつけていたのだが、起床時の身体の怠さ、眠気が凄まじい。疲れが全く取れなかった。
これが毎日続いたら精神崩壊するんじゃないかと本気で思う。
「正汰くん随分眠そうだね。大きな
「あいつのイビキで全然寝れなくてな……ふわぁ……」
「あいつ? あいつって?」
「あっ、いや、なんでもない。こっちの話しだ」
この子は
本人は童顔で低身長であることを気にして、髪をロングにしたり大人っぽい服を着てみたりと常日頃から大人っぽさを意識しているらしい。
本人には自覚が無いようだが、胸だけはかなり大人っぽい。つまりデカい。総じて、非常にけしからん体型である。
いつも俺の事を気にかけてくれて、過保護すぎる所があるがそんな千尋に俺は
朝の通学路、千尋と雑談を交わすこの時間が何よりも好きで、この時間が無ければ一日学校で居眠りをするか、このままUターンして家に帰るかだろう。もはや俺の一日の活動源となっている。が、それはあいつによって邪魔される。
「でね、昨日見たわんちゃんがね! こーんな小っちゃくてすごく可愛かったの!」
『この娘かわいいでござるな。グフフ、ぺろぺろしたいでござる』
「黙れ」
「えっ……、あ、ごめんね。うるさかったよね……?」
千尋は目をうるうると潤ませると、俯いてしまった。
「あああああ! ち、違うんだよ! こっちの話しだよ? 千尋の事じゃないよ!」
しまった。つい反射的にあいつの声に反応してしまった。あいつの声は千尋には聞こえない、俺にしか聞こえないんだ。
「本当に……?」
「ああ! 千尋がうるさい訳ないだろう! この世の全ての騒音が千尋の声だったら世界から騒音問題は無くなる。断言しよう」
「な、何冗談言ってるの正汰くん!? ……ふふっ、でも良かったぁ。正汰くん怒ってなくて」
表情が次第に明るくなり、いつもの笑顔に戻った。
ちなみに、さっきの俺のセリフ、結構ガチです。本気で思ってます。千尋の声に不可能はない。
昨日の倉庫内での憑依があり、色々な不安を抱えていたが、寝れば案外憑依が解けるかもしれないという微かな希望を抱いていた。だが残念なことに俺に憑依したあいつはいなくならなかった。
まだ紳士的で良い奴そうなら許容してやらなくもないがあいつは違う、ただの変態だ。ケンシローと呼んでくれてもいいとかなんとか言っていたが誰が呼んでやるか。
千尋と雑談を続けていると、いつの間にか学校の校門の前まで来ていた。
俺の通う学校は
中学で千尋は学年一位の成績だったにも関わらず、「正汰くんが心配だから私も一緒に行く! 私がいないとだめなんだから」という理由だけで俺と一緒の高校を選んだ。千尋のこの決断は学校側に激震を与え、緊急の職員会議が開かれる程だった。もったいないことするなぁと思いつつも、嬉しかったりする。だって俺のために一緒の高校を選んでくれた訳なのだから。
だが、もし、本当の本当に、こんな理由で俺と同じ学校を選んだのなら、千尋には悪いけどそうとう頭ぶっ飛んでると思う。
この学校は、校門から校舎までの長い道を何本もの花のアーチが連なっており、季節ごとに花の種類が変わる。花のアーチ目当てにこの学校へ入学する人もいるらしい。確かに迫力はあるが......。
「いつも思うけど、この花のアーチいらなくないか? 土地の無駄使いだ」
「そんなことないよ? 私お花大好きだもん。毎日お花のアーチをくぐれるなんて素敵じゃない」
やはり女の子はお花とかこういうのが好きなのだろうか。俺には良さがさっぱり分からない。
校門から校舎までの距離が無駄に長いことにいらだちを覚えているうえに、トドメの花のアーチときた。俺みたいな奴には苦痛でしかない。どうせ花のアーチにするんだったらその下にベルトコンベアーを設置して欲しいところだ。
『拙者は好きでござるよお花。見ていて癒されるでござる、うふふ』
「本当にうるせーなお前は! 何いきなり女子力アピールしちゃってんの!? そもそもお前に需要なんてねぇんだよ!」と声を大にして言ってしまうところだったが、痛い奴になってしまうので抑える。
俺達は長いアーチをくぐり抜け校舎へと到着し、3階にある自分達のクラスへ向かった。
俺と千尋は同じクラスで1年5組だ。座席は俺が窓際の一番後ろで千尋は俺の前の席。隣同士がよかったが席替えで決まったのだからこればかりはしょうがない。近いだけでもラッキーだ。
ちなみに俺の隣の席は人数の関係上で空席になっている。
「ホームルーム始めるぞー」
担任の竹林だ。みんなには竹やんと呼ばれており、短髪でいかにもな体育会系の風貌をしている。ちなみに俺の苦手なタイプだ。
「こら
ベシっと音立てて、竹やんが出席簿でわざわざ叩き起こしにくる。周りの笑い声がやかましい。俺はしかたなく状態を起こし頬杖をついた。
毎度毎度ぶっ叩きやがって、いつか体罰で訴えてやるからな。
「そんじゃ月城が起きたところで本題に入るぞー」
『この流れはあれでござるよ。あれ! 転校生! 転校生が来ちゃう感じの流れでござるよ』
またあいつがなんか言ってるが無視。変に反応して誤解を生まないためにも重要なことだ。
「今日はな、みんなに新しいクラスメイトを紹介する。入れ」
「え、まじかよ!?」
本当に来やがった。あいつは預言者か!?
ゆっくりと引き戸がスライドされる。
ガラガラガラ——
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