第13話 彼は一体? -1-

「うん、上手にできた」

 今日は、朝から奮闘していた。

 オーブンから焼きたてのチョコチップクッキーを取り出し、1人で得意気に笑ってみた。

それらをバスケットに入れ、午後1時。

早いうちからやっていたのにこの時間である。手際が悪いのかもしれない。

「さて、行ってきまーす」

「また遊びに行くの?」

「うん、まぁね」

 お母さんへの返事の言葉と共に、私は家を出た。


            *****


 王子様は相変わらずいつもと同じ所にいた。

花畑へ足を踏み入れると、彼はこっちを向く。そして体を起こした。

「今日は……クッキーか?」

「すごいね、正解! なんで分かった?」

「鼻が良いから」

 私は彼の元へ行き、バスケットを開く。

王子様は1枚取り出し、一口食べると、

「美味いじゃん」

と、柔らかく笑った。

 たったそれだけで、私の胸は掴まれたように苦しくなる。

「それは、嬉しいな」

私も笑顔で答えた。

 彼が"もう1枚"と、手を伸ばした刹那、その手は止まった。

「どうしたの?」

 私は彼の視線を辿る。

 その先には、森。

 しばらく見つめる。すると、

「うわ……っ」

そこから3匹の狼が飛び出してきた。

 その瞬間、彼はまるで守るように、私の前へ立ち、右手で私を庇った。

「ガルルルル……」

 灰色の毛を逆立てて狼たちは低く唸る。

そんな彼らに気負いせず、王子様は堂々としていた。

「……お前ら、なんなの?」

彼が口を開いた。


――――――まるで、あの時みたいだ。


 私はまた、彼の背中に守られる。

 目の前の狼たちは、唸るのをやめた。

と思ったら、突然の風。

「……っっ」

咄嗟にバスケットを庇い、目を閉じた。

「で? その女、人間か?」

 吹き続ける風の中、声がした。王子様のものじゃない。

「そうだけど、お前らに関係ねぇだろ。手を出すなよ」

 これは王子様だ。

 やっと風が治まり、ゆっくりと目を開く。

 さっきまで狼がいた所には、灰色の髪をした3人の青年がいた。


彼らが――――狼族。

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