第10話 その風邪、もしかして? -2-

「アイツ……村に来た獣医が風邪気味だったんだ」

 2日ぶりに会う王子様はすっかり良くなったのか、ボロボロと愚痴をこぼす。

「そっかそっか~」

 私は愛想笑いをして、今日作ったパイを手渡す。

「だからオレまで……ん、美味いな、これ」

 彼は一口頬張るとそう言った。

「それは良かった! これはブルーベリーパイね」

「あ、それとな、昨日のレモンとハチミツのやつも美味かったからな」

やっぱり二口目で彼はパイを食べきってしまうと、持っていた手の親指を舐める。

その仕草が妙に色っぽい。

「花畑、顔が赤いぞ? お前も風邪か?」

 見惚れていた私に気付くと、彼はどこか嬉しそうな表情をして、手を伸ばしてくる。

 ……私がしたのと同じように。

 そしてその手は私の頬に優しく触れた。

「違う……風邪なんかじゃないよ」

 距離の近さに鼓動が速くなる。声も震える。

「何で拒まねぇの……?」

「だって……」

 私は彼から視線を逸らした。コツンと、フードを被ったままのおでこと触れ合う。

無意識に目をギュッと瞑った。

「……明日、午後1時にここな」

 一言呟くと、彼は私から離れていく。

「えっ……」

「キスでもすると思ったか? これだから脳内花畑は」

前もしたような意地悪な顔をすると、彼は森の中へ歩いていく。

 その後ろ姿を見つめながら思う。

 私が王子様にずっと会いたかった理由ってなんだろう。

ずっと想っていたのはどうして。忘れられなかったのは……。

「……この気持ちが分からないや」

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