第9話 その風邪、もしかして? -1-

 午前11時。私はおばあちゃんの家を訪ねた。

「おばあちゃん、風邪は?」

「とっくに治ったよ。今日はどうしたの?」

 突然の訪問でも、笑顔で迎え入れてくれる。

「あのね、友達が風邪みたいで……。おばあちゃんはどうしてた?」

「あらあら、それは心配ね。私は軽かったから、寝てたら治ったわ。今日はその子に会うの?」

「うん、会う約束してる」

「それなら、ハチミツレモンがいいかしら」

「ハチミツレモン?」

 私は同じ単語を繰り返す。

するとおばあちゃんは言った。

「作ってみましょうか」



               *****



 それを作るのにあまり時間はかからなかった。

「お友達、早く良くなるといいわね」

「本人はすぐ治るって言ってたんだけどね。おばあちゃん、ありがとう、また来るね!」

「えぇ、またおいで」

そんな会話をしておばあちゃんの家を出た。

 向かうはただ一つ。

「いざ、花畑へ!」

 作り立てのハチミツレモンを、落とさないよう配慮して歩き出す。

 早く元気になってほしい。その一心だった。だからなのか、足取りも軽い。

花畑までの距離がいつもよりも短く感じる。

 そこへ着くと、再会した時と同様、寝転がっている彼の姿があった。

「王子様?」

 私はそっと近づき、声をかけた。

「…………」

返事がないので、常に被っているフードに手を伸ばすと、

「ひぃっっ」

彼の鋭い瞳に気が付き、手を引っ込める。

無言で体を起こし、私の方へ顔を向けた。ものっすごく不機嫌そうだ。

「……もしかして、喉とか痛い?」

 恐る恐る聞くと、こくりと頷いた。

 か……可愛いっっ。

いつも強気な王子様がなんだか素直で、率直に思う。

「はい、これ。風邪にいいって」

私はハチミツレモンを入れ物ごと渡す。

そして、

「じゃ、これ食べてしっかり寝て元気になって! 2日後に会いましょう! 明日は会いません! 以上、またね!!」

また言い残し、私は家へ向かう。 

 今日会う約束なんてするんじゃなかった。私のせいで風邪、悪化しちゃったんじゃないかな、とか。

 反省が頭の中を駆け巡った。

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