第8話 こちらのパイなんていかがでしょう?

「今日はいつもと違う匂いだな」

「分かる!? 今日のはカスタードを主に使てるの~。いつもより甘いよ」

 会って早速、取り出してもいないパイのちょっとした変化に気が付いた。それに驚きつつ、私はそれを取り出す。

「甘っ」

 一口食べてそう言ったもんだから、

「ごめんなさい、甘いの苦手だった?」

と、焦る。だけど二口目で完食してしまった。

「いや、想像より甘かっただけ。それに……昨日より上手くなったな」

「……!!」

 まさか褒めてもらえるとは思ってなかった。どうやらニヤけていたらしい。

「変な顔すんな」

と、言われてしまう。

私は照れながら両手で頬を覆った。

「でもさ、王子様にそう言ってもらえるなんて……えへへ」

「……こんなことされても、そうやって笑っていられるわけ?」

「へ?」

 急に彼の目が冷たくなったかと思うと、突然押し倒された。

 ……顔、近い。

「この状況、分かる? 脳内花畑女」

 不敵な笑みを浮かべる。む、名前……。

「私、ルージュっていうの。それに脳内花畑なんかじゃないよ」

「……お前分かってねぇな。食われてぇの?」

 笑みが消える。

 "食われる"って、それってつまり……。

目をパチパチさせて考えた結果。

「ぜひ……♡」

「…………」

 王子様に引かれた。

彼は私の上から退くと、手を引っ張って私を起こした。

その後、頭に手をやり、ため息をついた。

「オレ、狼なんだけど」

「ほう。それが?」

私は普通の顔を装って聞き返す。

 "狼"とは……狼族ってこと? それとも……『男は狼だぜ』って意味なのか!?

後者だとしたら、イタイ。自分で言っちゃうとかイタすぎるよ、王子様!

「……もういい。花畑に言った俺が馬鹿だった」

「花畑じゃないです~、全く失礼な……ってなんか、顔赤いけど?」

 私は彼の顔をじっと見つめる。手を伸ばしておでこに触れようとすると、手を掴まれ止められた。

「手、熱いよ。王子様も風邪?」

「うっせぇ。んなんじゃない。もしそうでも一晩寝りゃ治る」

 その言葉で私は立ち上がった。

「じゃ、また明日」

「は?」

「一晩寝て治して、また明日会って下さい」

「あ、おいっ」

彼を半分無視して、私は帰った。


「~~~~なんで押し倒したりするの」


顔を真っ赤にさせながら。

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