第7話 王子様は約束を守らない? -2-

 あれから紅茶を飲んでゆっくりした後、おばあちゃんの家を出る。

午後3時半。私は自分の家へ向かい始めた。

 一人きりになると考えるのは、やっぱりあの人のこと。

 ……せっかくパイ、焼いたのにな。まぁ、教わりながらだったけど。

 昨日のテンションはどこへやら。気持ちを切りかえられないまま、あの花畑へと差し掛かる。

もしかしたらいるかも。そんな淡い期待を抱き、花畑へ視線を向けた。


――――そこには誰もいなかった。


「……昨日、約束だからねって言ったじゃん。王子様の嘘つき」

「誰が嘘つきだって?」

「えっ」

 後ろからした声に驚いて振り返ると、

「王子様……!!」

「うわっ」

喜びのあまり駆け寄って抱き着こうとすると、彼は後ずさりをした。

「……傷つくんですけど」

「飛びつかれるこっちの身も考えろよ」

「……すみませんでした」

「で、今日も美味そうな匂いしてるけど?」

「本当!? 美味しそう!?」

 単純な私は、その一言でテンションが上がる。

「はい、じゃぁこっち来て!」

 そして昨日と同じ場所へ腰をおろした。

「じゃーーん! 今日はパンプキンパイなのです!」

 バスケットから取り出し、パイを受け取ると彼はボソッと一言。

「変な形」

「しょ、しょうがないじゃん! ……初めて作ったの」

 私はしゅんとなりながら言う。

「……これ、お前作ったのか」

「そうですけど……変なら食べなくてもいいよ」

「味は美味いぞ」

「え」

 ハッと視線をそっちへ持ってくと、彼は既にパイをほとんど食べてしまっていた。驚いてるわたしに気付いた彼は、

「さっきの威勢のよさはどこいったんだよ」

と、悪戯に笑った。

「だって! そう言ってもらえるとは思ってなくって……。ちょっとびっくりした」

「あっそ」

 王子様はペロリと残りを食べちゃったかと思うと、すぐに立ち上がって帰ろうと立ち上がった。私はすかさず、パーカーの裾を掴んだ。

「明日、」

「は?」

「明日も、会ってくれますか……?」

 私の声は何故か震えていて、彼に聞こえてるか不安になる。

「美味しいって言ってもらえるもの、持って来るから、だから……!」

「なら期待しとく」

「……!」

「じゃ、また明日な」

 短く返事をしたかと思ったら、彼は右手をヒラヒラさせながら森の奥へ消えていった。

「うそっ……」

 驚きと喜びで、今の顔は真っ赤だろう。

 あの王子様と約束しちゃった……!

「……ひゃっほう!」

 私はスキップで家まで帰ると、早速何を作ろうか考えだした。

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