第4話 運命の出逢い -1-
自分の町を出て15分。
秋の色に染まった森へ辿りつく。この森を抜ければ隣町までもうすぐだ。
ここは土の一本道が続いているから、迷うことはない。
私は躊躇うことなく歩いていく。
「あっ……!」
ふと見上げると、木の上で遊んでいる2匹のリス。
無意識のうちに笑みがこぼれた。
そのまま進むと、広い花畑へ差し掛かる。そこはいつでも季節の花で彩られている。
そして……私と王子様が出会った場所♡
今日も黄色の花やピンク、紫の花たちがそこを華やかにしていた。
「わぁっ……」
相変わらず美しく、また感嘆の声を漏らす。
最初は嫌々ではあったけど……外に出て良かったかもしれない。
何気なく花畑を見回すと、フードを深く被った人が一人、寝転がっていた。
「王子様!? ……ってそんな都合よく会えないよね」
勝手に期待して、勝手に落胆する。
少し距離もあるし、何よりもフードのせいで顔を確認できない。
「ぐぬぬ……」
私は諦めて真っ直ぐ隣町へ向かうことにした。
でも、どうしてあんな所で眠っているのか……。体格的に男、だったよね?
諦めたといっても、私の頭の中はあの人でいっぱい。歩きながら呟く。
「……ということは、あの人が王子様? それなら、あそこで眠ってるのもうなずける」
考えつつ足を進める。だから、私は気が付かなかった。
自分の背後から近づく気配に。
それは、花畑をあと半分で抜けるという時。
突然肩を掴まれた。
「おい」
「ぅおっっ!?」
「「……」」
え、ちょっと待って。私、今、女子とは思えない声出たよね!?
恐る恐る私は後ろを振り返ると、
「あれ?」
さっきまで花畑で寝ていた人物がそこにいた。
フードから覗く瞳は緑色。何を思っているのか分からない、ただただ冷たい視線。
そしてその目にかかるは、
「……!! 銀色っっ! あなた、やっぱり王子様!?」
「……は?」
興奮する私に彼が返したのは、言葉ではなく文字だった。
「ほ、ほら! 10年前に私のこと、狼から助けてくれた……」
まさか会いたかった人が、目の前に現れるなんて。必死に当時のことを伝える。
「……10年も前のこと? 人違いだろ、オレはお前の王子になった覚えはない」
眉間にしわを寄せてそう言われた。
だけど、このときの私は打たれ強かった。
「でも助けてくれたのは否定しないんだ!」
それが嬉しくて彼に近づくと、不機嫌そうに目を細めた。
「んなこと、今更どうでもいい……」
「なら、どうして私を引き止めたの」
強気で言うと、
「お前、美味そうな匂いがしたから」
「……はい?」
よく分からないことを言われ、私は首をかしげた。
「それ」
「あ、アップルパイ!」
指さされたバスケットですぐに閃いた。
「食べる!?」
「え」
「2つ入ってるから! ね!? 私の分を食べて!」
「あ、おい」
私は彼の腕を引っ張り、花畑へと入る。
また2人ここで出会うなんて……運命だよ、これ!
喜びに胸を躍らせ、適当な場所で腰をおろした。
私はパイを1つ取り出し、彼へ渡す。
「これ! どうぞ!」
無言で受け取ると、彼は一口でそれを食べてしまった。
「え……」
私が驚いていると、
「匂い通り、美味いな、これ」
彼はフッと口元を緩めた。
さっきの表情からは想像できない柔らかな笑顔で、私の心は見事に打ち抜かれてしまった。
「あの、王子様! 明日もそう言ってもらいるもの、持って来るから!」
「は?」
「だから、今日と同じ時間、ここにいて!」
「ちょっと待てって」
「約束だからね!」
一方的にそう言って、私は再びおばあちゃんの家へと走り出した。
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