第3話 アップルパイを届けに

 部屋から出ると、甘い香りがした。

 これは……アップルパイ?

 階段を下り、1階のリビングへ入る。

「おはよう」

 キッチンから私に向けられた、挨拶。

それに私も答える。

「おはよう、お母さん」

「また夜更かしでもしたの? 今日から連休だからって……」

"もう1時よ"と、お母さんは小言を言う。

 ……これだから嫌なんだ。ずっと楽しみにしてた秋の連休。

 とやかく言われたくない。

「昨日読んだ本、面白かっただけだよ」

 私なりに、当たり障りのない言葉を選ぶ。下手に喋ったらまたブツブツ言われてしまう。本当はもうちょっと早く起きて、王子様に想いを馳せてたんだけど、ね。

「……そう。じゃあ早速だけど、これおばあちゃんに持ってってくれない?」

 差し出されたのは、アップルパイの入ったバスケット。

 おばあちゃんの家は隣町。途中の森を通って1時間ちょっとだ。

「うん、分かった」

 本当は本とか読んで、家でゆっくりしたかったんだけど。

 私は早速、出掛ける支度をする。

服を着替えて赤いポンチョを羽織る。そしてブロンドの髪をシュシュでまとめる。

これで支度完了だ。

 バスケットに手を伸ばした時、お母さんは私に声をかけえた。

「あんまり遅くならないようにね? この時期は狼族が狩りを始めるから」

「分かった。それじゃ、行ってきます」

 伸ばしかけていた手でバスケットを掴み、私は家を出た。

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