完璧な住人たち

この街のあらゆる構築物に一切の無駄がないように、この街に住む住人にも一切の不足がない。

もちろん個人個人に焦点をあてれば、それぞれに短所と長所が用意されているが、それは組織集合体となることで調和されていた。

この街にはいくつかの区画が用意され、それぞれの区画に最適化された人材が配置され、機能している。

学区には当然ながら学生と教師、学校としての機能を充足させる事務員などがおり、逆にいえばそれ以上の人間はいない。

こうして規定の時間を過ぎれば、学生たちの幾らかはすぐに居住区へと戻り、幾らかは商業区へと遊びに行く。


人間の往来の中で、ケイはぼんやりと考えた。

この街に、果たして欠陥らしい欠陥はないのだろうかと。

一切の過剰もなく、一切の不足もなくこの街は機能している。

そこにどうしようもない違和感と、ある種の恐怖と、一定の怒りがこみ上げてくるのを感じていた。

なぜそんな感情を抱いたのかはわからない。

この街の異常なまでの完成度と、それ故の不条理さがそうさせるのかもしれない。

まだ私は全くこの街に慣れていない。だからそんなことを考えるのだと自分に言い聞かせた。そして、先ほどのクラスメイトの女の子の言葉を思い出した。

私はこの街で正確に機能し、何らかの役割を果たし、幸せに生きて行くことができると彼女は言った。

本当にそんなことが可能なのだろうか?

こんなつまらない疑問を抱くのは、私が外側からせいなのだろうか?

果たして、この街の外側はどうなっているのだろう?

幾らかイメージしてみても、何も想像がつかなかった。私の記憶はこの街から始まっているのだから、想像のしようもない。

あたりに目をやると、それほど混んでいない電車の中に西日が差していた。

車窓の外ではぽつりぽつりと街灯がついていて、いくらかの電気自動車と人々が行き交っている。そこに電車が交差して、幾らかの振動と、我慢できるくらいの音が響いた。

車内の人々に目をやると皆一様に落ち着いていて、あるものは外の景色を眺めて、あるものは本を読んでいた。


居住区は電車で一五分ほどかかるが、駅前にはいくらかの商業施設があり、

帰路につく人々の往来があった。

その中に一人の男が立っていた。ケイの方を向いて屹立する姿は異常な印象を与えた。その男は街に適合していない異常な存在だった。


その男はケイに告げた。


「王を束ねよ、この街を護れ」


その言葉をきっかけに、ケイの意識は遠ざかっていった。

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