役割
「みんな君に興味があるんだよ」
ケイにそう行ったのは一人の少女だった。
ケイと同じ学校のクラスメイトになったその少女は親身にケイに話しかけた。
「街の外から来る人間は本当に珍しいから」
ケイがこの街に来て、そして高校二年のクラスに入って、すぐに色々な人間が話しかけて来た。ケイはそんな扱いを受けたことがないから、すぐに気分が悪くなったが、そんな中、彼女は助け出してくれた。
「どうして、みんな僕のことなんか構うのだろう?」
今は人気のない校庭の外れで、自分を助けてくれた少女と二人きりだった。
彼女はツンとした顔立ちをしていて、どこか強気な印象を持っていたけれど、物腰がとても柔らかく、嫌な感じは微塵もしない。それどころか、大抵の人が彼女に好感を持つだろうと思えるくらい穏やかな笑みを浮かべながら彼女は首を傾げた。
「街の外から来る人なんて、滅多にいないの。私たち子供はみんなこの街の外を見たことがない。一歩も外に出たこともない」
「僕は街の外のことを何も覚えていないんだ」
「街の外の記憶は消されてしまうから。もちろん、それはみんなわかっていると思う。それでも、珍しいものをみんなが求めているからね。きっとしょうがないんだ。きっと君が慣れる頃には、みんなも落ち着くと思う。あなたも大変だね。記憶を消されて、誰も君にことを知らない街に放り込まれてしまったんだから」
彼女は少し気の毒そうに言ったけれど、それは安い同情ではなかった。この街の人間は共感性に長けている。誰もが他者に正しく心を寄せることが出来る。だからこの街では争いに発展するような不和は発生しないように出来ている。
「だからあなたも自己主張をしなくちゃ。嫌なことは嫌だと言えば、みんなあなたを困らせるようなことをしない。この街の住人はみんなそう。だけど、知らなかったこととは言え、あなたも迂闊だったと思う。街の外から来た人間は、あまりおいそれとその出自を明かしてはいけないの。街の外から来た人は特別だから」
「なぜ街の外から来た人間は特別と言えるんだろう?」
「自然に考えたら簡単なことだもん。街は必要な人間以外を招かない。街の基本的な機能は街で生まれ育ってきた人間で全て賄っている。それでも外から人が招かれて来るということは、その人には何か特別な役割が充てられているということ」
「特別な役割」
ケイは反芻してみたけれど、特に思い当たるようなことは思い当たらない。そもそも、それを予測する過去という材料が彼には一つもない。
「この街の人間には、それぞれ役割が決められている。私もそうだし、君もそう。その役割を果たすために、私たちは生まれて来たんだ」
役割とはなんだろう。そうケイは考えたけれど、何も思い当たることがない。
だからケイは彼女に問いかけた。
「君の役割は何なんだろう?」
「さぁ。それはこの街しか知らない。これから私がどうなるかも、君がどうなるかも、私たちにはわからないけれど、この街は知っている。だから、私たちはこの街で生きるしかない」
「何だか、それは寂しい気がする」
僕がそう言うと、彼女は大きな瞳をまん丸にして、僕を見た後に、また笑った。
「やっぱり君は変わってる。そんなことを言う人は初めて。だけど、誤解しちゃダメだよ。この街は立ち振る舞いさえ覚えれば、誰もが幸せに生きることが出来る街なんだから」
それは本当の幸福なのだろうか。
ケイはそう思ったけれど言葉にすることはできなかった。
「私の名前はルイ、あなたは?」
「ケイ。名前は覚えてる」
「ケイ、私がこの街のことを教えてあげる。だから、早くこの街に慣れて、幸せに暮らしてね」
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