01裏:為替の動き 1日目
はっ。
えーっと。私は、なにをしていたのかしら。
……。
…………。
あ、思い出した。確か、マンホールの蓋作りを
さて、と。なにかわかったかしら。なにもわからなかったのなら、失敗謝罪料金をもらいたいのだけど。もちろんそんなものはないけれど、個人的に無理矢理払わせることは不可能ではないわね(もちろん株本人に。ほかの会社の人には迷惑はかけられないわよ、さすがに……)。そんなことを考えつつ、辺りを見回す。明らかに人の気配がない。当の株の姿も、当然見えない。
「まさか……」
あまり考えたくはないが、数秒で最悪な結論に辿り着く私の思考。
「株!!」
逃げたのでしょう。しょせんはただの株ね。しかし困った。なんの収穫も無いままに、終わってしまった。唯一幸いだったのは、礼金が後払いのことでしょうね。無駄金を使わずに済んでよかったわ、ほんとに。次会ったら、絶対ぶっとばしてやろう……。
うちの工場、特に私が今いる作業場には、たくさんのマンホールが床に置いてある。いや、置いてあるというより、埋まっている。意味は無い。すべて下水道に繋がっていることは繋がっているので、もし凄まじい量の下水が流れ込んで来た場合、作業場が終わりを迎える可能性は、なきにしもあらず(-_-;)。
とりあえず、なんだか疲れてしまったので、ひしゃげたゴミの形をしたパイプ椅子に腰かける。そして、改めて自分の他人格について考えてみる。
私がいくつの人格を有しているのかは、私自身もよく知らない。唯一知っている人格は、マンホールの蓋を作るときの人格のみなのだ。この人格が前に出てくるのは、この作業場でマンホールの蓋を作るときだけだからあまり周りに影響は無いものと思われる。
株に私自身の監視を頼んだのは、今の人格以外を見張ってほしかったからなのだけれど。人の話を遮ったかと思えば、無駄にマンホールの蓋作らせるし。本当になんなのよ!?あーイライラする。
……それにしても、やっぱりマンホールを作ってるときの記憶がないのよね。なにがあったかわからないなんて、とてつもなく怖い。株に少しでも期待した私が完全に悪いのだけど、残念に思うのは気のせいではない。……ま、いいや。
色々ぐちゃぐちゃと考えた結果、特にすることもない私は、マンホールの蓋製造を再開するのであった……。
******
――そして、別人格は目覚める。
******
どうやらまたマンホールを作り始めたようだな、我が主は。
私の名はFX。宿主に寄生することで命を繋ぐ、精神生命体だ。
私の異能力、《
宿主がマンホールの蓋を製造するときのみ、能力の使用が可能となるのだ。
こんな非常に扱いにくい能力など、あまり使えたものではないが、今は、そんなことが嘘のようにぴったりと私と合致した肉体を手に入れることができた。なんという幸運だろう。
この世界では、極端に我が同胞の数が少ない。調査を行いたいところではあるが、なにせ、私がこの肉体を自由に操ることができるのは、我が主がマンホールを製造するときのみなのだ。
マンホールを作りつつ、思考を継続させる。
先ほど消した株という者。なんの特徴もないつまらんやつだった。この現在の思考と切り離し、ついさっき起きた出来事を再生する。少し気掛かりなことがあったのだ。
『ガコン』
気配には感づいていたが、大きな音が聞こえたので、私はおもむろに音源を確認した。どうやら、あの男が鉄の棒に接触したようだった。特になにも感じないが、厄介だ。精神生命体の存在を、
「……こっちへ、来て」
対象が動きを見せないのは、あらかじめ予想していた。もちろん、逃げようとしていることも。
「そっか……それが、あなたの答えなのね。……残念」
まあ良い。どちらにせよ、この者に選択肢など存在していない。この者は、今から消える運命にあるのだから。
「……ごめんね、株くん。…………私のために、消えて?」
そう言葉を発し、能力を発動させる。
「異能力、《
人間には聞き取れないスピードで、そう呟く。
対象の半径10メートルに、無数のマンホールが音もなく現れる。
「……open's gate 」
全てのマンホールの蓋が消失し、無数の穴が残る。対象の消滅を確認。とりあえず、難を逃れることができた。
回想終了。対象消滅を確認したときの記憶が全く無いように思えたのだが、私の思い違いだったようだ。
安心したした私は、マンホール製造を無心で継続するのだった。
to be continue.....?
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