第30話「わたしがかみだ2」

「ジュン之大神なんてどうでしょう?」


「ダサいダサいー、やっぱ強い感じも出して、大魔神ジュンでしょ」


「……聖なる白銀の牙セイクリッド・アルギュロス・ファングジュン……」


「「…………」」


「もう長いしー、ゴッドでいいんじゃなーい?」


「「「それだっ」」」


「それだ、じゃねぇ!!!」


 ミナセ達は寝る場所が出来たと言われ、最初に入った小屋とは違う場所に案内されていた。中に入るとふかふかの布団があるわけではなかったが、多分この集落で1番の寝具を用意してくれたのだと思うものだった。


 さて猫達が何で盛り上がっていたかと言うと、リザードマン達が獣神と崇めるのを見て、もっと主人に合ったカッコイイ呼び名があるのでは? と、互いに新しい名前を提案しあっていたのだった。

 若干1名、中二病満載な名前を出して空気が固まったが、それは本人の名誉の為にもつっこまないでおこう。


「えー、ゴッドー。だって暇なんだもーん」


「さらっと定着させようとしないでね、チュータローさん。何か明日、族長さんが集まる所に向かうって言ってたし、ちょっと散歩でもしてあり余った体力消化してきなさい」


 グリフォンタクシーのお陰で、体力があり余っていたチュータローはミナセに言われるがまま、外に散歩に出かけた。さすがに1人じゃ不安だった為、ミナセはクータローにも一緒に付いていくように話したのだった。




 外に出てなんとなく集落を観察しながら歩いていると、すれ違ったリザードマン達が頭を下げていた。獣神のお付の方という認識で、どうやらチュータロー達も崇められているらしい。

 正直、猫達からすれば自分達の扱いがどうであれ関係ないのだが、主人が特別扱いされてる姿は嬉しいものがあった。


「ねぇ、クーちゃん。あのトカゲも遊んだら尻尾取れるのかなー? 気になるねー……ちょっと遊んじゃう?」


「……ダメ……」


 さらっと物騒なことを言うチュータローに、クータローは慣れたもんだと窘めていた。ぶーたれるチュータローをほっといて、何やら人だかりができている所を眺めていると、チュータローも気づいたらしく、「わーい」と言いながら走っていった。


「…………はぁ…………」


 この深い溜め息がクータローの苦労を表している。年齢は若干チュータローのが上のはずなのに、自由奔放な性格に小さい頃から付き合わされている内に、こんな事になってしまった。実はご主人は“苦労する太郎”という意味で、自分の名前をつけたんじゃないかと思いながら後をついていくと、そこには木や葉っぱで装飾された、大きな輿があった。


 2人が近づいてくるのに気づいたリザードマン達は、作業の手を止めると全員で膝をつき頭を下げた。


「ねぇねぇ、それなーにー? 何か乗せるのー?」


「これは獣神様を族長会議の場所まで、お乗せする輿でございます。神々しい獣神様に相応しい様、装飾しているのですが……神使様から見てどうでしょうか……?」


 神使様に聞くなんてなんて恐れ多い事を、と他のリザードマン達はややざわついた。だが、チュータローもクータローも何でざわついているのか分からないし、どうでもよかったので聞かれた事に答えようと輿を眺めていた。


「……ご主人、あんまり派手なのは……」


「ダメだねっ、もっともっと飾っちゃおう! もうピッカーってなるぐらいにさー!」


 クータローの忠告はチュータローによって虚しくかき消されていった。リザードマンも「おおおおおお」と感嘆の声をあげ、チュータローの言葉通りに動き始めた。発言した本人はというと「ぼっくもやるー!」と元気いっぱいに輪に混じっていった。


「……チュータロ、あんまりやると……」


 止めようと声をかけたが、クータローは知っていた。こうなったチュータローはご主人でも止めきれないと。心のな中で主人に謝罪すると、端っこでチュータローの活動を見守るのであった。チュータローがバッグから遺跡で拾い、換金せずに持っていた魔石を取り出しているのが見えたが、クータローは何も見ていないと言わんばかりに目を瞑ったのであった。




「たっだいまー!!」


 ん? やたらご機嫌だなチュータロー。おや、クータローが目を逸してきたぞ……あ、今チラ見して速攻で逸した! これは何かやらかしたな……


「君達、一体何をやってきたのかね? おじさんに詳しく話してごらん?」


「んとねー、トカゲさん達と仲良く遊んできたんだー! あの子達おもしろいねー」


 ミナセの予想とは裏腹に返ってきた答えは、ミナセにとって喜ばしいものだった。猫達が他人と仲良くなるのは難しいと思っていたが、ドワーフの村に続きここでも楽しそうにする姿は、ほっこりするものがあった。


「あ、ん……? そうか、仲良く遊んだのか! それはよかったよかった」


 クータローの行動がやや気になるけど、まぁ読めないのはいつもの事だし……。


「じゃあ、明日は早くに出るみたいだから今日はもう寝ようか!」




 朝になり、給仕役のリザードマンが起こしにきた。朝は比較的強いミナセはまだ眠る猫達を起こすと、出発の準備をした。そのまま給仕役に案内されるままついていくと、移動は乗り物にてと言われ、ミナセはついに王都で見た馬車に乗れるかもしれないと喜んだ。


 ウキウキ気分のミナセが着いたそこには…………スパンコールのおばけがいた。もとい装飾過多な輿があった。


「昨夜、そちらの神使様が、獣神様はこの様なものがお好みと聞きまして、我ら全精力を注ぎ作り上げました。お気に召されたでしょうか……?」


 セイリューがこちらを伺う様にミナセに話しかけた。周りにいるリザードマン達もミナセに気に入ってもらえるだろうかという不安と、神使様のご指導の元、作り上げた傑作品だという自信が入り混じった顔で見つめてきた。


「えぇ……あぁ、と、とても素晴らしいです、ね……」


 ミナセの言葉にリザードマン達は輝くような笑顔になり、互いの手を取り合い喜んだ。


 いやいや、あの顔で見つめられたら、とてもじゃないけど派手過ぎとか言えないでしょ。ってか、チュータローの仕業だな……昨日のご機嫌はこれの事だったのか!


「チュータロー、お前やってくれたな!」


 ミナセはリザードマン達に聞こえない様に小さな声でチュータローを怒ると、チュータローは首を傾げながら答えた。


「えー、じゅんちゃんが喜ぶと思ったんだけどー……ダメだったー?」


 あからさまにしょんぼりされ、ミナセはまさか善意の末の所業!? と焦ってしまった。だとしたら悪い事を言ってしまったと反省していたのだが、次に目にするものでその反省も撤回したのだった。


「では神使様方はこちらにお乗り下さい。フェンリルという魔物ですがこれらは飼育が可能な生き物でして、移動には問題ないかと存じます。我らの集落では4匹、飼育しているのですが、神使様とちょうど同じ数というのは何やら神のお導きに感じられますな……」


 そう言われ現れたのは4匹の狼のような生き物だった。3匹にこれまた目が痛くなる程に装飾された鞍をつけていた。そう3匹に、だ。1匹だけは質素ながらもしっかりとした鞍だったのだ。


「へいへーい、チュータローさんやい。これは確信犯ですねー。ご主人気づきましたよー……ってなんじゃいこれ! どうやってこんなキラキラにしたしっ」


「魔石がー余ってたから……えへっ」


 女子も真っ青のかわいい笑顔でごまかすチュータローに、ミナセはがっくりと膝をつくのであった。


「ってかお前達もこれは嫌じゃないのか??」


 そう、チュータロー以外の乗り物が装飾過多の魔石スパンコール地獄になっているのだ。これはコアあたりが叱るんじゃと期待をしたのだが、返ってきた返事は予想外のものだった。


「あ、いえ、鞍でしたら乗ればほとんど目立たないので特には……」


 クソッ! と言いながら地面を叩くミナセを見て、セイリューが「なにか不備でも……」と青い顔をしながら近づいてきたのだが、チュータローが「喜び方が独特なのー」と伝えると、満面の笑みで戻っていったのだった。


 そのままチュータローに抱っこされ、うなだれるまま輿に乗せられたミナセは「あー、ギャルのケータイってこんな感じだったなー」とどうでもいい事を言いながら、族長たちが待つ場所まで運ばれていくのであった。

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