第29話「わたしがかみだ」
さて困ったぞ。何でこんな状況になったのかもう一度、考えてみよう。
グリフォンと別れ、行きとは反対側のルートで下山をしていた。ここまで来れば残り半分の道のりに、俺達はウキウキ気分で進んでいた。
途中魔物は襲ってきたが、そんなものは余裕で倒し、何も問題はなかった。なかった筈だ! 問題は湖近くになった時だ。猫達と談笑しながら歩いてたら1匹のトカゲの魔物が現れたんだ。何かジーっと見てくるなとは思ったけど、いつも通りサクッと倒そうと思った。が、いきなり叫ばれた。
しかも「キャー!」ときたもんだ。いつもなら問答無用で襲ってくる魔物が、女子の如く叫びワナワナと震えたのだ。こんな愛くるしい見た目の俺を見てだ。俺も猫達もポカーンとしちゃったよね。
その声を聞きつけさらにトカゲの魔物が増えたんだが、皆、手には盾と槍を持ち革鎧で武装していた。さっきの叫びは増援の為か! なーんて考えてたんだけど、俺は思ったね。あれ、これリザードマンじゃね? って。
そのリザードマン達は俺達を見てヒソヒソ何かを話してたんだ。最初に叫んだリザードマンは一際、大きい黒いリザードマンに何かを話してて、そのままどこかへ走っていったんだよ。ヤバイ、ほんとに増援されるんじゃって思ったんだけど、黒リザードマンが一歩前へ出て、片膝をついたんだ。
「私は蒼き竜族の狩猟長、フォーフェンと申します。我が部下の無礼な態度をお許し下さい獣神様」
どう見ても俺に言ってるよね? 俺いつのまにリザードマンの知り合いが出来たっけとか思ってたら、黒リザードマンが集落で歓迎の準備をしてますので、どうぞとか言って俺達を案内し始めたわけですよ。
猫達も殺気は感じないとか言って、ついていっちゃうしさ。ご馳走ご馳走って鼻歌歌ってるの俺、聞こえてるからな!
で、今です。多分この集落で1番大きな小屋に連れられて、何やら台座に作られた椅子の上に座らされ、目の前にはリザードマン達が頭を下げている状況です。
異世界人生2度目の大困惑ですっ!
ここまで流されるままに、というか猫達の食欲のままに連れてこられたミナセ達はなぜだか崇められていた。だが残念なことにミナセ達の前に並べられた食事は、生魚のオンパレードで猫達は残念な顔を隠しきれていなかった。
1番前には青く輝く鱗が美しいリザードマン、その左右にはフォーフェンと銀の鱗のリザードマンが座っていた。青いリザードマンは顔を上げると陶酔しきった目を向けてきた。爬虫類特有の変化のない顔なのに、なぜだかそれが分かるほど、ミナセに忠誠を誓っている顔つきだった。
「獣神様……私はここの族長のセイリューと申します。まさか獣神様が我々、リザードマンの前に最初に現れてくださるとは……。貴方様のお心に沿えるよう全身全霊、忠義を尽くす次第でございます。さしあたってはパオパオ湖で採れた、最高級の魚を召し上がって下さい。只今、下のものが各族長に伝令を出していますので、しばしお寛ぎを……」
そう言い終わると給仕役と護衛役らしきものを残して、リザードマン達は頭を下げながら部屋から出ていった。残されたミナセ達は目の前でピチピチ跳ねる魚を見つめながらフリーズしていた。
「……ご主人、すみません。私まったく概要がつかめないのですが……」
「いや、俺も一緒です。獣神様ってなんぞ?」
「よくわかんないけどー、これ食べていいって事でしょー。でも僕、生はあんまりなんだよねー」
ミナセとコアが現状を理解しようと、頭をフル回転させている中、チュータローは魔法で魚を焼くとおいしそうに食べていた。味付けがなくても中々の美味らしく、それを見ていたボタンとクータローも自分のも焼いてもらって食べていた。
うまうまと食べる猫達を見て、ミナセもとりあえず話しを聞かない事には何も分からないと思い。自分とコアの分の魚を焼いて食べることにした。
「あぁぁ……素晴らしい」
え?
声の出所に目を向けると、給仕役が口元に手を当てうっとりとこっちを見ていた。護衛役も今にも平服しそうな様子でミナセを見つめていた。
「えっと何かありましたか?」
「あっ、失礼致しました。あまりにも神々しいお姿だったもので……。さすがは我ら獣人族を導くお方だと思いまして」
おっとおっと、聞き捨てならない言葉がありましたよ。獣人族を導くだって? これは呑気にご飯を食べてる場合じゃないんじゃないかな……ちょ! 猫さん達や、まさにその通りみたいにうんうん頷かないでねっ。コアさんも納得顔しないのっ!
「すみませんが、何で俺がこんな待遇なのか教えて頂いてもいいですか?」
ミナセの質問に給仕役のリザードマンは何をいってるんだ? といった表情になった。あまり揉めたくないミナセはなるべく穏便に理由を知りたかったのだが、これはマズったか? と少し焦ってしまった。
「えっ、なぜその様な質問を……」
「無礼だぞ! 獣神様のお考えにお前の様なものの意見など必要ないのだ! 失礼致しました。なにぶん、まだ未熟者の雌でして……」
護衛役のリザードマンは給仕役を叱咤すると、頭を下げてきた。
「いえっ、あの……できれば詳しい話しを聞きたいのですが……」
「はい、では僭越ながら私がご説明致します。御存知の通り我ら獣人族は長年、統治するものがおりませんでした。お恥ずかしい話し、我の強い多数の種族からなる獣人族は我こそが王になるといい長を決めることができませんでした。そこで先祖が公平に決めようと神殿に向かい、神託を授かろうとしたのです。そこで受けたお言葉は『相応しい時が来た時、神の使いの獣が現れるだろう。その獣は人語を操り多大なる力を持ったものだ。その獣の姿が表す種族が王となり、最初に獣が訪れた種族が王を支える騎士となることだろう……』と」
どうやら神の神託とやらと、俺の姿が上手いこと一致したらしく、この様な勘違いが生まれたと。まいったな、全然俺、関係ないのにな。しかも、リザードマンが最初に会った種族で、騎士に選ばれたと喜んでるわけか……。うわーうわー、これ違いますとか言えなくない? 今更、しゃべれるのは腕輪のお陰ですーとか言ったらどうなるわけさ。いや、実際しゃべれるんだけど……神の使いじゃないしな。
ミナセの予想の斜め上をいった事実に、リザードマンに聞こえない様に隣にいるコアに相談をした。きっと頼もしいコアなら、この場を収める素晴らしい意見が聞けると思って。
「え? いいんじゃないですか、このまま勘違いされたままで」
えーっ! コアさん、えーっ!!
まさかの回答にミナセは目が点になっていると、コアがその先を続けた。
「特に私達には害がない事ですし、長年決まっていなかったのなら早く決まってよかったじゃないですか。本物の神の使いが来た所で、王とは代替わりするものです。ここまで神を信じているのなら素直に代替わりも従うでしょう」
それっぽい意見になんとなく納得してしまいそうになったが、何か違うと考えていた。だが、あの盲信に近い目が怒りに変わる所を想像すると、もうなるようになれ! とヤケクソになるのであった。
目の前の魚にやけ食い気味に食いついていると、小屋の中に新しいリザードマンが入ってきて、護衛役に何かを話していた。
「獣神様、他の族長にも伝令に行っているのですが、なにぶん陸地では我々の種族は足があまり早くなく、時間がかかってしまうそうです。申し訳ありませんが、しばらくここでお寛ぎ頂いてもよろしいですか?」
こっちの居心地が悪くなるぐらい下手に出てくるリザードマンに、了承の意を伝えるとこれまた深く頭を下げ「感謝致します」と答えた。
何とかならないかなとミナセが思っていると、猫達が「これが正しいご主人に対する態度だ!」と盛り上がっているのだった。
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