第28話「これはべんり」

「じゃあ俺はここから行く所があるから。ミナセ達は王国に戻るんだろ? まぁ、王都ではお前ら有名だから変なことはないと思うけど、何かあったら衛兵ギルドに行けよ」


 国王からの命が何なのか分からないが、ウィディと話し終わったブレイクは心なしか浮かれている様だった。全員、用は済ませたため帰ろうとすると、忙しいと言っていたウィディに酷く絡まれたのはウザい思い出である。


 ちなみにウィディから羅針盤は何もしなければ、ただのコンパスになるという情報ももらった。それとサチの事はありがたかったが、やっぱりウザいものはウザかった。


 ブレイクさんとお別れかぁ。何か寂しいな……やっぱ自分より年上がいると何か安心するんだよなぁ。


 若干の心細さを残してミナセ達はブレイクと別れた。


 さて、ここから王都まで順調に進んで2週間程の旅になるのだが、正直歩くのがしんどくなってきた。いくら暑さが軽減されたとはいえ、移動は自力だ。


 なるべく考えない様にしてたけど、この足の長さじゃ歩くの辛くない? いや、元の体も純日本人体型だけどさ。もっと魔法で空飛んだりとか、移動が早い乗り物とかないのかなぁ……ん? 待てよ、風の魔法で空とか飛べるんじゃない……? 俺、天才かっ!!


 さっそくミナセは風の魔法を展開する為、頭の中で想像した。イメージは風船から空気が抜けた時の様な感じで、勢いをもっと殺して……。


 --バシュン!!!!


「いやあああああああああああああああ!! これは想定外だあああああああ!!!!」


 ミナセはお星様になった。訂正、ミナセは空高く飛んでいった。雲を突き抜け大空から見た景色は壮大だった。世界はこんなにも広いのかと……自分はなんてちっぽけな存在なのかと。


「おお…………異世界でも自然の雄大さは変わらないんだな。真っ青な空とオレンジの地面のコントラストがなんとも……って言ってる場合じゃねえええええええええ!!!!!!」


 上に物を投げれば落ちてくる。それは異世界とはいえ同じだった。ミナセもご多分に漏れず今度は地面に向かって勢い良く落ちていった。クータローの重力操作がなければ、危うく白猫の柘榴仕立てが出来上がる所だった。


「じゅんちゃん、何がそんなに嬉しかったの?」


「ハァハァハァ……いやっ、嬉しくて飛び上がったわけじゃないからね! どうみてもご主人大ピンチだったよね!? 自業自得なんだけどさっ」


 ミナセは奇行の理由を説明すると猫達が次々に案を出してきた。


『氷魔法でスケートリンクの様にし、その上を滑っていく』

 肉球が張り付き、危うくモザイクものになりそうになる……却下

『岩の上に乗り、それを射出する』

 脳みそが置いてかれそうだったのと、着地点で大惨事が起きる……却下

『ブラックホールで転移する』

 そんなに距離が進まず、歩いた方が楽だった……却下


「じゃあー、僕の炎で……」


「却下!!!!」


 最終的に氷魔法でスケートリンク状にし、土魔法で作った台車に乗り、風魔法を射出して進む方法が1番よかったのだが、結局、魔力の消耗が激しくいざという時に戦えない為、却下になった。


「そんな簡単にいかないか……。もっと魔法鍛えないとダメだなぁ」


 そう言いながらミナセは手の上に展開した風の玉を、鬱憤を晴らす様に思いっきり上に投げた。当てる対象物がなければそのまま消え去るはずだったのだが……。


 --ギャッ!!


 --ドサッ!ドサッ!


 そんな声と共に空から2匹の魔物が落ちてきた。1匹はすでに息絶えたワームで、どうやらもう1匹の魔物がワームを運んでいる所にミナセの魔法が直撃したらしく、運んでいた方の魔物はフラフラと立ち上がると、明らかに怒りに満ちた目でこちらを睨んできた。


 大きな翼に鋭利なくちばし、逞しいライオンの下半身をもったその魔物は……。


「グリフォンじゃん! うわー、俺グリフォン好きなんだよねっ。大好きな猫と猛禽類合わせるとか夢の生き物だわー。うわー、かっこいいなぁ……あ、ごめんなさい」


 なぜグリフォンが目の前に現れたのか、その原因を興奮のあまり一瞬、忘れていたミナセは、威嚇の声を聞いて自分の失態を思い出した。


 --グガアアアアアア!!


 一際大きな威嚇音を出すとグリフォンはミナセ達に向かって飛んできた。自慢の鉤爪でミナセの首を落とそうとするが、チュータローが炎の魔弾を放ち、その爪を弾いた。魔弾を受けた前足は炎に包まれ、グリフォンは慌てて上空に避難し、炎を消していた。

 上空なら大丈夫だと思っていたのか、そのまま様子をみていたグリフォンに、チュータローはさらなる魔弾を撃ち込み始めた。

 グリフォンはそれを華麗に避けながらくちばしから閃光を放ってきた。それを土壁で防御し、重力操作で身軽になった体を駆使しながら、水や炎の魔法を撃ち込む。猫達は互いに協力しながら戦っていたのだが、ミナセはそれを見ながら顎に猫手を置き考えていた。


「これだ!! 皆、グリフォンを殺さないでくれ」


 意図は分からないが主人がそう言うならと、猫達は致命傷を負わせない程度の攻撃にシフトし、じわじわとグリフォンを追い詰めていった。動けないほどの怪我を負うわけでもなく、ただただ体力が奪われていく攻撃にグリフォンは徐々に動きが鈍くなっていった。


 魔力が切れたのか閃光を撃ってくる事もなくなり、その場から動かなくなってしまった。それでもくちばしでの攻撃は止めず、弱々しいながらも戦意はなくしていなかった。


「そろそろかな? 皆、攻撃ストーップ!!」


 ミナセの声に猫達がピタリと攻撃を止めると、ミナセはゆっくりとグリフォンに向かって歩いていった。野生の勘なのか近づいてくるミナセを見ると、グリフォンは諦めたように頭を垂れた。


「お、よしよしいい子だ」


 念のため風のシールドを張りながら、そっと頭を撫でるとグリフォンはミナセの目をみつめ、小さく鳴いた。魔物の言葉なんて分からないが、ミナセは降伏をしている様にみえた。そしてグリフォンににっこり笑いかけると、サムズアップをした。


「へい、グリちゃん。ちょっとそこまで乗せてって!」



 ……………………



「ご主人……そんなに歩きたくなかったんですか……」


「いや、違うよっ。空を飛ぶとか男のロマンじゃん!? 夢と希望の冒険ファンタジーじゃん!? 俺、そんな邪な考えしてないからねっ。あ、そんな目で皆見ないで……」


 グリフォンすらも呆れた目で見つめてきて、ミナセはそっとフードを被るのであった。




「ご主人っ、あれ見てください! ワームがあんなにいますよ!」


「じゅんちゃんじゅんちゃん、もっと高く飛んでみようよー」


 おいお前ら……さっきの目はなんだったんだ! 俺よりはしゃいでるじゃないか!


 あの後、グリフォンにエルフから貰ったペンダントを使ってある程度、回復させると背中に乗せてもらい、王都に向けて飛んでもらう事になった。言葉が通じているのか不安だったが、このグリフォンは賢く方向は合っているので安心して空の旅を満喫していた。


 しかもその速度も中々のものだった。あっという間に砂漠ゾーンがなくなり、ドワーフが住んでいた山付近にまで来ていた。


 ところが山の上まで来るとグリフォンは下降していき、山頂に降り立ってしまった。


「グリちゃん、目的地はまだ先なんだけど……どうしたの?」


 さすがにこれだけの距離を4人と1匹乗せてはきつかったかな?


 だが、どうやらそうではないらしく降り立った周りの岩陰から、同じようなグリフォンがわらわら出てきたのであった。その中にいた2羽の小さなグリフォンが、ミナセ達の周りにやってきた。するとミナセ達を乗せてきたグリフォンと顔をこすり合わせ甘えた様な声を出していた。


「あ、まさかこれグリちゃんの子供か?」


 --クルルルル


 ミナセ達を乗せてきたグリフォンは申し訳なさそうに鳴くと、ミナセの目をじっと見つめてきた。その澄んだ目をミナセも見つめていると、何となくグリフォンが伝えたい事が分かった様な気がした。


「あー、いいよいいよ。てか、この子達のために狩りしてる最中だったのか、ごめんね。ここまで来れれば十分だから家族と一緒にいていいよ。家族は大事だもんな」


 言葉は通じないはずなのだが、なぜかミナセにはグリフォンの気持ちが分かってしまった。人外同士、なにか通じるものがあるのだろうか?

 グリフォンもミナセの言葉を聞いて、頭を下げてきた。それを撫でながらミナセ達は感謝の気持ちを伝え、グリフォンの群れを後にするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る