第23話「ドワーフのむら」
シャルロットに案内を頼んだミナセ達は、魔物にこれまで1回も合わずに順調に進んでいた。これもシャルロットがエルフの行動範囲の森でなら、安全な道を知っていた為である。無駄な戦闘もなくスムーズに進んできた為もうすぐ森を抜け、あとは1本道の登山を残すまでとなった。
「では皆さん、ここからは道なりに真っ直ぐ行けばドワーフの村につきます。すみません、本当なら最後まで案内するのが礼儀だとは思っているのですが……」
「ここまで来れば十分だよ。それに送った帰りに魔物に襲われましたじゃ、何の為の護衛か分からなくなっちゃうしね」
最後まで案内したいと申し出たシャルロットだったが、ここから先はエルフの行動範囲から外れるため、魔物に襲われる確率がグッとあがるのだった。1人では戦えないから護衛としてついてきたミナセにとっては、それでは本末転倒なのでその申し出を断っていた。
「皆さん……本当にありがとうございました。皆さんがいなければ今頃、村は大変な事になってました。落ち着いたら私はまた王都に戻り冒険者を続けていきます。何かあればすぐにでも駆けつけますので、いつでも呼んで下さい……。本当に、本当にありがとうございました。気をつけて旅をして下さい。」
シャルロットは深々と頭を下げ、もう何度目になるのか分からないお礼をした。ミナセ達はその気持を受け取ると、手を振りながら先に進んだのであった。
「あーあ、もうおいしいご飯食べれなくなっちゃうねー」
チュータローさんや、もう少し違った名残惜しさを出して欲しいかな。でもたしかにあのご飯は美味しかったもんなぁ……。美人で料理上手か。俺にロリ属性があったら間違いなく惚れてたな。
「大丈夫だよっ。あたしシャルロットに教えてもらったから、これからもご飯は期待しててよっ」
胸をドンッと叩くと自信あり気にボタンは笑ったが、ミナセ達はこの旅でボタンの不器用さに気づいていた為、不安しか残らなかった。特にクータローは嫌そうな顔を全面に出し、ボタンからげんこつをくらっていたのだった。
1本道とはいえ岩がごろごろ転がっている道は、思ったよりも険しく体力が並のミナセはだいぶ苦労をしていた。そろそろ乳酸菌がこんにちはをしてきたミナセは、草木も少なく手頃にひらけた場所があったのでそこで休憩をする事にした。
「ふぅ、ここまで登ると景色がいいなぁ。一面森で緑の海みたいだ」
やや冷たい風が火照った体に丁度よく、爽やかな気分で眼下の景色を眺めていた。鳥たちの声も微かに聞こえてきて、これでお弁当とお茶があれば何も言うことはないのにとミナセは思っていた。
ヤッホーと叫ぶか迷っているミナセをよそに、まだまだ疲れがない猫達は山頂の方に目をやると、全員で顔を合わせていた。
「ジュン、上の方から何か声がするよ」
「それと風に乗ってお酒の匂いもするねー。たぶんもう少しでつくんじゃなーい?」
まだ先が長いならそろそろ抱っこでもしてもらおうかと思っていたミナセは、猫達の嬉しい知らせに顔を輝かせた。休憩もそこそこに地面に置いてたバッグを掛けるとミナセは声を弾ませ言った。
「まじかっ。この山にはドワーフしか住んでないって話しだったし、きっとドワーフだよな。よっし、じゃあ休憩はここら辺にしてもう少し登るか! よーし皆、ついてこーい!」
俺についてこいと率先して登る主人を見て、猫達は微笑ましい気分になっているのをミナセは知らなかったのであった。
少し登っていくとおっさんが盛り上がっている声がミナセにも聞こえてきた。聞こえるといっても姿が見える距離ではないのに、お酒の匂いがここまで漂ってきた。
おいおい、まだお日様が高いのにもう酒飲んでるのかよ。さすが酒好きの種族だけあるな。下戸な俺でも仲良くなれるのか心配だな……。会社でも飲めない奴は肩身が狭かったもんなぁ。
相変わらずの小心者な考えをしながら、声がする方へ行くとそこには大きな洞窟があった。どうやらその中で酒盛りでもしているのか、反響した声が洞窟の外まで響き渡っていた。
恐る恐る洞窟の中に入ってみると、意外にも中は綺麗に整備されていて、魔法灯がいたるところにあり暗さなんて感じる事はなかった。ミナセは遺跡の中に似ているなと思いながら奥に進んでいった。奥にはレールが敷かれていたり壁にツルハシなどの工具がかけられていて、ここら辺は遺跡よりも炭坑を彷彿とさせた。
声がする方へ行けばいいと思っていたのだが、中は少し入り組み反響してるのもあって中々辿りつけなかった。何度か角を曲がりながら探していると、コアが足を止め耳をすました。
「ご主人、どうやらそこの角の先に居るようですね。どんな人達かも分かりませんし、私達が前を行くのでついてきて下さい」
休憩からここまでずっと先頭を歩き、なんとなく頼られてる感じがでてきたかも、と喜んでいたのだが、コアの言葉で今まで危険な様子はなかったから、先を歩かせてもらったんだと気づきちょっと凹むミナセであった。
角を曲がって行くとその先は開けた空間になっていて、そこには大勢の厳ついちっちゃい髭のおっさんがいた。樽から直接お酒を飲む者や飲み勝負をする者、全員が片手や両手に黄色の液体が入った容器を持ち、陽気に笑っていた。
あー、俺これ知ってるわ。年末年始にこんな光景よく見たなぁ。
会社での飲みの席で上司のご機嫌を伺いながら、後輩の悪意のない傍若無人ぶりに肝を冷やした時の事を思い出しながら、その光景をミナセは眺めていた。
「すみません、私達旅の者なのですが、ドワーフの皆さんにお頼みしたい事があり来ました。どなたか代表の方はいらっしゃいますか?」
部外者には入りにくい雰囲気の中コアの澄んだ声が響いた。するとさっきまでうるさいぐらいだったのに、ピタリと静かになると全員がこちらに向き直った。その中から代表者なのか一際腕が太く長い髭を三つ編みにした男がでてきた。
「おいおい、人間の嬢ちゃんがおいら達になんの用だいっ。まさか、またおいら達をとっ捕まえて鍛冶奴隷にしようってんじゃねぇだろな? たった50年でなかった事にできると思ったら大間違いだぞ」
え、なになに? いきなり険悪なムードなんですけど……。まさか人間達と揉めてますって事はないよね?
「あの、何の話しなのか……私達はただ頼み事を聞いてもらいたくてやってきただけで……」
コアもまさかこんな雰囲気になるとは思っていなかったので、一体どうしたらいいかと悩んでいた。
「お前らがやった事を忘れたってぇのか!? とにかく人間なんかと話すのも嫌でぇ、とっとと帰りな!」
三つ編みのおっさんがツルハシを構えそう言うと、後ろで静かにしていたドワーフ達も次々と罵声を浴びせてきた。人殺しや悪魔など身に覚えのない罵声を浴び、猫達がにわかに殺気立ってきたので、ミナセは急いでコアの前に立ち、説得を試みようとした。
「ま、待って下さい! 俺達は辺境の地に住んでいたので、何のことだかさっぱり分からないんです。とにかく話しだけでも聞いてもらえませんか?」
しゃべる白猫登場にさっきとは違った意味でざわついたが、人間族以外もいるという事で多少落ち着いたドワーフ達は、今度は不審の目で見つめてきた。三つ編みのおっさんもミナセを吟味する様に眺め、酒臭い息を吐くと持っていたツルハシを背中にしまった。
一応、話しは聞いてくれるって事かな? はぁ、俺と同じぐらいの身長とはいえあんなに筋骨隆々のおっさんに怒鳴られたら寿命が縮まるよ……。
周りのドワーフからカレブと呼ばれていた三つ編みのおっさんは、後ろにいたドワーフを静かにさせるとミナセの話しを聞いてくれた。とりあえず前に揉めた事のある人間族とは無関係という事は分かってもらえた様で、静かになっても武器だけは構えていたドワーフ達は、武器を背中や腰に戻していった。
「人探しの魔法具作りてぇって言われてもなぁ……。あのな坊主、魔法具を作るってのは簡単じゃねぇんだ。まず、魔法具に適した純度の高い魔石が必要だし、これは採掘でも魔物討伐からでも手に入らねぇ。おいら達は少量だがその魔石は持ってるが高ぇぞ。そんじょそこらの冒険者が出せる金額じゃねぇ。それに、それが払えたとしてもおいら達では側しか作れねぇ。中身を入れるには錬金術しかできねぇんだ」
「あの……お金なら余裕があるので払えます。まぁ、いくらかによるんですけど……。あと、錬金術でしたら俺が使えるので、教えて頂ければその中身ってのも入れれると思います」
その言葉にギョロリと睨むカレブに、ミナセは前にサルベルにドワーフに錬金術の話しは……と言われた事を思い出した。あまり口外する話しではないのは分かっているが、サチを見つけられるなら惜しんでる場合ではないと思ったのだ。
「坊主、もう少し上手い嘘をつくんだな。もう覚えてないぐらい昔から錬金術の使い手はいなくなったんだよ」
信じてもらえないミナセはバッグから遺跡で拾った錬金術の本を取り出すとカレブに渡した。中身は白紙なので意味はないかもしれないが、少しでも信じてもらえるようにと判断したからだ。
「これ、錬金術の本です。俺、適性があったらしくて、それのお陰で錬金術が使えます。ただ知識はあっても使い方がよく分からないので、教えてもらえればなぁと……」
受け取った本をまじまじと見つめると、カレブも後ろで話しを聞いていたドワーフもカタカタと震えだした。
「ぼ、坊主……本当にこれが錬金術の本なのか? 坊主が使えるって本当なのか?」
「はい……なので作れるならお願いしたいなぁっと思いまして」
ドワーフ達の様子にビクビクしながらミナセが答えると、カレブは俯き後ろのドワーフ達は互いの顔を見つめ、怖いぐらいの静寂がミナセ達を包んだ。
--うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!
実際には数秒だったがミナセからしたらだいぶ長い沈黙の後、ドワーフ達は雄叫びをあげた。ただせさえビクビクしていたミナセはその声に体が跳ね、全身の毛を逆立てた。猫達も一大事とミナセを守るように前に立ったが、ドワーフ達はそんなのも気にせずいきなり互いの肩を持ち盛り上がり始めたのだった。
「錬金術だとよ!! それがあればアノ部分がこうできてアソコがこうなって……」
「待て待て! だったらソコとこうして、こうやる事もできるだろ!」
「いやいや! そんな小さな事じゃなくて錬金術があるなら、もっとでかい事ができるだろ!」
次々、ミナセ達には分からない案を出し盛り上がるドワーフからは少し変態ちっくな雰囲気が醸し出されていた。目の前にいたカレブもミナセに抱きつき、わけの分からない独り言を呟いていた。
酒臭っ!! え、おっさんの抱擁とか頼んでないんですけど! ってか何だこの異様な空気は……一昔前に某電気街でこんな空気味わったような……。
「おい、坊主! 本当に錬金術できるんだな!? だったら協力してやるぜ。魔石の金もいらねぇから、そのかわりおいら達の手伝いもしてくれっ」
「え、あ、ありがとうございます! あっ、でもですね兵器とか人に害があるようなものだったら俺、手伝いませんからね」
「そんなムダなもん作るわけねぇだろ! そうかそうか、夢が広がるねぇ……おい、坊主さっそく取り掛かるぞ! こっちに来い」
なにやら頭の中で色んな夢を思い描いたらしく、鍛冶馬鹿ってこういう事かとミナセは引いていた。そんな事に気づかないカレブはミナセを奥にある工房らしき所に引っ張っていき、その後ろを大勢のドワーフが追いかけた。
猫達はあまりの変態空気と勢いに圧倒され、主人が連れ去られる光景を通報ものだな……と呆然としながら考えていた。「たーすーけーてー!」と奥からミナセの声が聞こえ、我に返った猫達は急いでその後を追うのであった。
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