第16話「しょうかく」
「サルベルさん、錬金術って知ってますか?」
遺跡から帰る道中ミナセはサルベルにそんな質問をした。本のお陰で錬金術が認知されている事ぐらい分かってはいるのだが、今の一般的な認識を知りたくて聞いてみた。
「錬金術ですか? 知ってると言っても条件が揃えば何でも作れるって事と、その技術は遠い昔になくなった事ぐらいですかね」
「え、なくなったんですか?」
サルベルが言うには錬金術は昔話にも載るぐらい遠い昔の術で、選ばれし者しか受け継ごことができず、いつしか錬金術を使えるものはいなくなったらしい。錬金術に適しているドワーフ族でさえ1人しか出来なかった幻の術だそうだ。
それに錬金術の全てが載った本も時代の流れと共にどこかへ消えてしまったという話だ。錬金術で作られた道具が残っているので、そういった術があることは確かだったのだが、使える者がいないのでおとぎ話の様な世界だそうだ。
ちなみに錬金術を駆使して作られた
そのため国同士の条約で戦時に
なるほど。なくなった事は初めて知ったけど、他は俺がインプットされた情報とさほど変わりはないか……。
しっかし、1つで国家予算レベルとかどんだけだよ。あれ? もしかして俺もがんばれば作れるのか? いや、まてまて。作れたとしても買う人がいないだろうし、仮にいたとしてもそんな物ポンポン作ってたら絶対問題が起きるだろ。
よし! 作れたとしても無計画にばら撒くのだけはやめよう。
「まぁ錬金術できる人がいるならドワーフ族の人達が黙ってないでしょうね。あの人達、鍛冶に関する事なら何でも知りたがる鍛冶バカですから。最後の錬金術師が残した知識もなくなってきているんで、是が非でも知りたいでしょうしね。まぁドワーフの鍛冶技術と錬金術が合わさったら、とんでもない武器できそうですし。もしかしたら
また3日かけて戻り王国の冒険者ギルドにつくと、サルベルが遺跡攻略の報告をしていた。その間にミナセ達は中にいた魔物の報告と、魔石の換金などをしていた。ミノタウロスの魔石は貴重らしくお金にも余裕があったので換金せずにそのまま持っていることにした。鑑定人は非常に残念そうな顔をしたが、ミナセはこの魔石を使って錬金術を試してみたかったので断ったのだ。
錬金術の本も一応、報告はしたのだがミナセが適性があったことは伝えなかった。基本、冒険者が見つけたものに関しては犯罪が関わっていない限り発見者のものなので、錬金術の本はそのままミナセに戻された。
「失われた技術が載った本なのだから、ギルドで保管したいのでは?」と聞いた所「え……でも、中身白紙ですし……」とむしろハズレ遺跡で可哀想にといった目で見られてしまった。
まぁ、ミナセも説明が面倒だったのもあって本の使い方などは報告しなかったのだが。
その後、紫色の魔石のようなものを鑑定してもらった所、持ち主同士の以心伝心が可能な魔法が込められた石だそうで、プレートに込められたメッセージ魔法の上位版といったところだろうか。
「ただこれは原石の状態ですので、それこそさっきの錬金が使えないと加工ができないものですね……」
ギルドにいた鑑定人は可哀想なものを見る目から同情するような目でミナセ達を眺めていた。たしかに錬金術の適性がなければ本も魔石も何も役にはたたない。仮に売ろうとしても錬金の適性者が見つからなければただのガラクタなので、商人だって買ってくれる事はないだろう。何も知らない鑑定人から見ればミナセ達は苦労して遺跡を攻略したのに、ミノタウロスの魔石しか得られなかった可哀想な冒険者に見えただろう。
「で、でも大金は手に入ったんですし残念な事ばかりではないですよっ」
報告を終えそんな様子を見ていたサルベルもフォローをいれてきたのだが、実は錬金が使えるミナセにとっては特に残念な事はなかったので、にこやかな笑顔で対応した。だが、それも苦笑いに見えたらしくさらなるフォローを入れられたのだが……。
え、俺の中で1番の爽やかスマイルで対応したのに……。心の中のイケメンに謝って!
今日1番のショックを受けながらミナセ達は、冒険者ギルド長から話しがあるというので奥の部屋に案内されるのであった。
なんだろう、何か問題でも起こしたっけ? ギルド長って事はお偉いさんだろ。しかも冒険者のお偉いさんとかムッキムキの恐いおっさんとかだったら俺泣くかもしれない。嫌だなぁ俺あんまり偉い人と話した事ないから緊張するんだよなぁ。
応接室の様な所に通されると、すぐに恰幅のいいおばさんが入ってきた。お茶でも出してくれるのかと思っていると、なんとそのおばさんが冒険者ギルド長であった。
「あっはっは! こんなおばさんがギルド長でビックリしたかい? これでも昔は敵なしの冒険者だったんだよ。おっと、まずは名乗らないとだよねぇ。私はガーベラって言うんだ。冒険者ギルドの女神っていったら私の事だよ! そこのお嬢ちゃん達もべっぴんさんだけど私には負けるかねぇ。あっはっはっ。まぁまぁ、座ってゆっくり話でもしようじゃないか」
大阪のおばちゃんか! と思うぐらいの弾丸トークと、とても昔強かったとは思えない見た目だったが、邪魔そうに茶髪の前髪をかきあげた時、額に大きな傷があるのが見え一応、戦闘はした事があるのかなと思った。
そんな事を考えながら額の傷をじっと見つめていると、その視線に気づいたガーベラと目があった。
「あぁ、この傷かい? 昔ドジったときに魔物にやられてねぇ。まったく美人が台無しだよ」
今度こそ本当に苦笑いを浮かべていると、まったくそれを気にした様子は見せずにガーベラはよいしょと言いながら椅子に座った。
「さて、おばさんは話しが長いって言われない様に簡潔に話そうかね。あんたらはビギナークラスからシルバークラスに昇格だよ」
「えっ、いきなりですか? まだ何も依頼を受けていないのですが」
まさかの昇格に万年平のサラリーマンだったミナセは何か罠があるんじゃと少し警戒をした。いままで昇格とか表彰とかから無縁だった男の悲しい性である。
「あっはっは、そんな警戒しなさんな。まぁ異例ではあるんだけどね、サルベルから聞いた話しによると半日で遺跡を攻略したそうじゃないか。どんなに簡単な遺跡でもそんな早く攻略はできないもんなんだよ。そんな腕のある冒険者がビギナーだっていう方がおかしいじゃないか。シルバークラスでもまだ足りないとは思うんだが、そこは色々あってねぇ……。まぁまずは2クラス昇格ってことで」
そのままプレートの交換と手続きの説明を一気にしゃべるとガーベラは「さぁ行った行った」と部屋から追い出した。ミナセの頭の中ではまだ昇格のことすら飲み込めていないのに、あっという間に終わってしまった。
こ、これがおばさんパワーなのか……。確かにすごい冒険者だったのかも。
部屋に呼ばれてから5分足らずで終わった話しの勢いにミナセが見当違いな事を考えながら、まるで台風にでも直撃した後かの様にぐったりしたのであった。
「こんなに早く話しが終わるなら別に呼び出さなくてもよかったんじゃ……」
そうポツリとボタンが愚痴をこぼした。
ボタンの気持ちもわかるけど、ガーベラは異例と言っていた。ギルド内には冒険者は少なかったけど、他人に聞かれると困る事があるんだろう。それにどうやらガーベラは自分達の顔を見たかった様にも思えたな。まいったなぁ、あんまり目立ちたくはなかったんだけど。
バタバタとミナセ達を部屋から追い出したガーベラは、出ていった扉を見つめながら真剣な顔になっていた。そこには確かに昔、腕をならした冒険者の顔があった。
ミナセの考えは当たっていた。今回の件は他人に聞かれてはまずいものであったし、それにどうしても異例の昇格をした冒険者達を自分の目で見てみたかった。見たい理由がガーベラにはあった。
そのまま疲れた様に椅子に座り、ガーベラは誰かに話しかける様に呟いた。
「ったく……あんな若造達にいったい何をさせる気なんだよ。これだからお前の様な頭の固い年寄りは困るんだ」
********************
「陛下、ご報告があります」
ブレイクは【遠見の水晶】を片手に、国王の元にまた来ていた。ブレイク自身もこんなに早く国王にニ度目の謁見をするとは思っていなかったのだが、ミナセ達がありえない早さで遺跡を攻略した為、急いで報告をしにきたのであった。
ここまで来る間、城を護衛している兵士達も頻繁に訪れるブレイクに訝しげな視線を送っていた。とは言ってもフォルティス王に対する不信感ではなく、ただ単純に衛兵ギルド長が頻繁に訪れるという事は何か王都で問題が起こっているのかと思った程度だ。
「何だあれから3日しかたっておらんぞ。もうあいつらの力が分かったとでも言うのか?」
フォルティス王は笑いながら冗談のつもりでブレイクの訪問の訳を聞いたのだが、ブレイクはクスリともせずフォルティス王の目を見た。
「はい、奴らは遺跡を半日足らずで攻略しました」
「何とっ! 遺跡を半日でだと……。普通は簡単な遺跡でも3日はかかるというのに。そんなに強いのか?」
フォルティス王自身、遺跡には入った事はないが共に前線で戦った冒険者が途中で断念した話しを聞いた事があった。前線に出るだけあって腕はたしかなものだったし、とても勇敢な冒険者だった。そんな男が途中で諦めなければならないほど、遺跡というのは攻略が困難なものだと知っていた。
それにブレイクが報告してきた遺跡はフォルティスが王になってから1度も色よい結果がなかった遺跡である。
「えぇ、まずは魔法使いにはありえない身体能力を持っています。魔法がなくとも私と戦って互角……いえ、私が負けるかもしれません。それに、魔法の腕ですが……。無詠唱で魔法陣の展開をせずに使っていました。リッチ5体と戦った時も奴らは無傷、それにブラックホールの魔法を使っているやつもいました」
ブレイクの報告にフォルティス王はおとぎ話でも聞かされているのかと思ってしまった。魔法使いが生身の戦いでブレイクを凌ぐだけでもありえない話なのに、まさかの無詠唱で魔法陣も展開しないなどそんな完璧な魔法使い、夢物語でしか聞いたことがない。しかも魔法使いが魔法無しでブレイクと同等、もしくはそれ以上。それに加え伝説級の闇魔法を使うなんて……。
「馬鹿なっ。伝説級の魔法は全員が使えるのか?」
ブレイクにはミナセ達の実力を調べる様に動いてもらっていた。初めブレイクから実力者がいるという話しを聞いてフォルティス王はどうせそこそこの強さしかないのだろうと思っていた。腕を信頼しているブレイクからの話しでなければ行動にも起こさなかっただろう。
それが蓋を開けてみれば伝説級の魔法を駆使する肉弾戦にも長けた者だった。フォルティス王は驚愕と期待に胸を踊らせた。
「確認できたのは1人だけです。それも1番若い少年が使っていたので、もしかしたら全員使えるかもしれません。7階層からは魔物の瘴気が強いのか通信が途絶えた為、どのような戦いをしたか分かりませんが、ほぼ無傷で出てきたのでそう考えた方がよろしいかと」
「ふむ……諸刃の剣にならぬよう少し考えねばならんな」
顎に手を当てながら何かを考えると、ブレイクに新たな指示を出すことにした。
「ブレイク……あやつらが探しているサチという人物を探し出せ。ただし見つけてもあやつらには報告せずここに連れてこい。どんな奴かは分からんが、仲間というからには腕がたつやもしれん。精鋭を選び捜索にあたれ」
「はっ!」
こんな時の為にブレイクは部下の何人かを自分の忠実な犬に仕立て上げていた。もちろん他の部下にはそれが分からない様にだ。それを隠しながら腕はもちろん賢く忠実な犬を育てるのには苦労したが、裏の仕事をやらせるには十分に役に立つ部下だった。
ブレイクが部屋から出るとフォルティス王はまた何かを考えるように顎に手をやり空中を見つめた。その口元には三日月の様な邪悪な笑みに形どられていた。
「ビギナークラスのままだと使い勝手が悪いな……。まずは2クラス昇格させて様子を見ながらプラチナまで上げるか。あぁ、ガーベラがうるさそうだが……まぁ、しょうがないだろう」
冒険者ギルドのおばちゃんの怒鳴り声を想像するだけで頭が痛くなったが、次の手を考えてそれを頭の隅へと追いやったのであった。
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