Episode6 自己紹介

「話し合う時間は三分だ」


 ビーっとどこからともなくアラーム音が鳴る。

 3分のカウントダウンが開始された。


 だけど何を何を話し合うんだ?

「話し合えって言われても、何を話し合えばいいかわからないよね」

 先に口を開いたのは女優の比良津榎奈だった。


 う~んと悩んでいると、失恋女性が立ち上がった。

「こういうのはまず自己紹介でしょ。私は黒瀬麗奈くろせれいな、広告代理店で働いている、OLです」


堂々とした振る舞いに、自然と拍手がなる。

「年齢は?」

と女性に対しては失礼な質問を榎奈がする。

「に……にじゅうはち」

と引きつりながら答える失恋女性、もとい、麗奈。

「え~、見えな~い」

陽子にティッシュをあげていた女性が明るめに言う。

「あ、ありがとう……」

相変わらず顔を引きつる麗奈。


「はーいはーい次私~!」

先ほどの冷たい態度とは裏腹に、ウサギのようにピョンピョンと飛び跳ねながら自己紹介を始める榎奈。

「みんな知ってると思うけど、今をときめく女優の比良津榎奈です!」

「あのっ!」

左隣にいた美人店員がスマホを取り出す。

「私大ファンなんです。一緒に写真を撮ってもらってもいいですか?」

「いいよ~」

あっさりとしたファンサービスに驚くが、うらやましいと思った人はごく数人だった。


美人店員が写真を撮ってもらい、スマホを嬉しそうに眺める姿を、みんなはボーっと見つめた。

その視線に気づいた美人店員はすみませんと謝りながらスマホを直した。

「私は青華静香あおかしずか、26歳です。コンビニでバイトしてます」

「やーっぱり先輩だったかー」

静香の左隣にいたニート店員がやる気なさげに言う。

「やっぱり、おとめちゃんだよね! いつもと見た目が違うから気づかなかった」


というのも、おとめはコンビニにいた時よりも髪がさらに爆発していて、さらに『我は自宅警備員』とかいうふざけた言葉の入ったTシャツを着ていたからだ。まさにニート人生を満喫した人のための服。


そっすよねーと本人もご納得の様子。


「静香さんと同じコンビニでバイトしてます。29歳、堕雌だめおとめでーす」


「だめおとめ!? なにその変な名前! あははははは!」

笑いのツボだったのか、おとめの本名を聞いた瞬間笑い転げる榎奈。

ほかの人もつられてクスクスと笑い始めた。

「私が親だったらそんな名前にはしないなぁ。まず、堕雌なんて苗字初めて聞いた」とティッシュの女性。

「しかも、その名前の通りに成長しちゃって」と麗奈。



「はいはい、笑われるのもなれてますよーだ」

案の定おとめが拗ねる。


「ごめんごめん、次は私かな」

そう言って立ち上がったのはおとめの左隣にいたティッシュの女性。


「私は佐藤実由さとうみゆ、25歳の主婦です。旦那は証券会社で働いています。あと息子の悠が家で待っているので早く帰りたいです」

実由はこの中の何人かが怒りを爆発しそうな発言をした後、丁寧にお辞儀をした」

「悠くんは何歳なの?」と静香が聞く。

「1歳なの」と答えると、

「じゃあ、早く帰らなきゃね」と静香。


「うわーここに勝ち組がいるー」

ほわほわした空気の中、嫉妬を爆発したおとめ。

「呪いたい」

という麗奈のつぶやきも部屋中に響き渡ってしまった。

「も、もお~そんなこと言わないでよ~」

実由は場を和ませるため冗談気味に返した。


落ち着いた麗奈は自己紹介はこれで全員できたかと質問する。

「あのー……」

そんな中、ゆっくりと手を挙げたのは陽子。彼女は影と同化したかのように、忘れ去られていた。

「あ、ごめんね!」と麗奈は罰が悪そうに謝る。

陽子は慌てて眼鏡を外し、立ち上がった。

バサッ

「あー……」

膝に置いていたデッサンが床に散らばってしまい、それを拾っていく。

残りの5人はそれを静かに見守った。

全部拾い終わり、もう一度きちっと立つ。


「私は緑川陽子、17歳、高校三年生です」

「受験生か~大変だね~」

と実由が懐かしそうな目で言う。

「そうですね……。あの、ティッシュの件はありがとうございました」

「いいのよ」


「17歳にしては昭和っぽい名前ね」

実由と陽子の会話を遮ったのは榎奈だった。

疑いの目がすべて陽子に向けられる。


ビ―――!!

「はい、そこまで――」

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