Episode 4 集められた6人

「あ、比良津榎奈ひらつかなだ」


コンビニで色々いざこざがあったせいで、少々溶けてしまったアイスを舐めながら、大通りを歩く。


この町のシンボルともいえる大きなデパートには、どでかく貼られた今をときめく女優、比良津榎奈のポスターがあった。9頭身と抜群すぎるスタイルから、スタイリストやデザイナーを魅了してきている。私もその一人。いつか自分のデザインした服を、比良津さんが着たらどんなに最高だろう。


ポトッ


「……ああああああああ!!」


ついに形を保てなくなったアイスは、私の指を濡らして地面をついた。


「大丈夫ですか?」


拭くものがないと困った私の目の前に、ティッシュを差し出す女性が。ティッシュを持った片手と、ベビーカーを片手に尋ねてきた。


「ありがとうございます」


差し出されたウェットティッシュは赤ちゃん用だった。ベビーカーの中にいる赤ちゃんは起きる気配もなくぐっすりと寝ている。


「あら、あなたも手首にホクロがあるのね」


ティッシュを受け取った手首を見つめる女性は、自分の手首も私に見せてきた。同じくホクロがある。


「ほんとだ! 珍しいと思ってたんですけど、意外とある人多いですね」


「おぎゃああああ!!」


赤ちゃんが泣き出したタイミングでその女性と別れる。近くにあったゴミ箱へティッシュを捨てると、近くで揉め合う男女の声が聞こえてきた。


「麗奈ー! 俺にはお前しかいないんだ。許してくれよ!」


「うるさいこの浮気者が!!」


パチンと気持ちのいい音が鳴り響く。


少子化のこの世こそ愛情のある家族が必要なはずなのに、浮気者は増加するばかり。子供の将来が不安になってくる。


修羅場の光景を横目で流しながら、家までの道を歩く。

家を着く頃には疲れ果て、そのままベッドにダイブした。

着替えなきゃいけないのに、お風呂、歯磨き、まだすることがあるのに……。

私の瞼は次第に重くなり、そのまま眠りについた。




ーーーーーーー




「……んっ」


寝付いてから何時間たったのだろうか。まだ少し重い瞼を上げた。


見えた景色は自分の部屋ではなく、見覚えのある人達が、円を描いて座っている姿。


「あれ、ここウチん家じゃねえ」


そう言葉を発したのはだらしないあのコンビニの店員さん。その左側には一緒に働いていた美人店員さん。そしてその左側は、


「え、なんで榎奈ちゃんがここに!?」


キラキラと輝いた目で問う美人店員さん。隣には間違いなく女優の比良津榎奈がいた。


「私だって知らないわよ。そもそも、あなたたちだれ?」


不機嫌そうな比良津さん。テレビで見るよりなんだか印象が冷たい。


「なんでこんな時に……」


比良津さんの右隣、そして私の左隣にいる、街中で彼氏に浮気された女性がぶつぶつと話し出した。


「まさか、悠を置いてきちゃった!?」


私の右隣で、だらしないコンビニ店員さんの左隣に座る人は、私にウェットティッシュをくれた女性。


合計、6人は窓もない白い空間に閉じ込められた。

私は全員の顔を見かけたことがあるが、それと閉じ込められた理由は関係あるのだろうか。パニックの中、思考を張り巡らせていると、


「はい、お喋りはそこまで」


加工された甲高い声が、部屋中に響き渡った。




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