Episode3 緑川陽子

「受験か~嫌だな~」


デザイン画を眺めながら、コンビニまでの道を歩く。

今年から受験生になった私は、朝から晩まで勉強の日々……というわけでもなく、暇があればひたすらデザイン画を描いていた。おかげでカバンの中はそのデザイン画やファッション誌でパンパン。

わかる通り、私はデザイナー志望だから、専門学校に進学したほうがいいのだろうけど、世は少子高齢化社会。国公立の大学に進学するのは、今がチャンスと母に言われている。

国公立のほうが学費は安いから両親に少しは親孝行ができるけど、夢がデザイナーなだけあって、専門を学んだほうがプロへの第一歩になる。


そんなこんなで高3にもなって進路が全く定まらないのであった。


コンビニの中に入ると、クーラーが効き始め、心も体も生き返った。

アイスコーナーまで行き、一番冷えてそうなアイスを選ぶ。


レジに向かうと、

「次の方どうぞ~」

やる気のなさそうな店員さんにあたってしまった。

ああ~つまんねえなぁと言いながらレジをうっている。

「君受験生?」

カバンから少し飛び出た、唯一受験関連で入っていた、赤本を見た店員さん。

「はい……」

「偉いね~。うちなんか仕事せずに自宅警備員を貫いた結果、親からの仕送りがなくなって仕方なく仕事してるんだよね~」

「は、はあ……」

淡々と自分の個人情報を晒す店員さん。正直、どう返事をすればいいかもわからないし、どうでもいい。

「こら、おとめちゃん! ちゃんと仕事して!」

隣の美人な店員さんが注意をする。

なんてかっこいいんだ! 私はこの人に当たりたかった!

「はぁ~い」

反省のかけらもない返事。この元ニート店員さん、ダメすぎる。

「てかさー、なんでコンビニはセルフレジを導入しないんやろね〜」

元ニート店員よ、一個のアイスで時間かけすぎです。

「あんたみたいな人を働かせるためでしょ?」

「う、うう……」

さすがの美人店員さんの論破に、元ニート店員さんもうろたえた。

うん。こんな大人にだけはなりたくない。


「はい、お釣りです」

「あ……」

元ニート店員さんの手首に、私と同じホクロがあるのが見えた。

手首にホクロがある人なんて、滅多に見ないからびっくりだ。

やっとアイスを受け取り、私はコンビニを出た。





「おい、大丈夫か!?」


間に合わなかった。

実験台が逃亡し、部下が追いかけてくれたらしいが、その部下は血を流して倒れ、病院の一室まで送り込まれた。


俺が駆けつけられたのは事件が発生して数時間後だった。

情けねえ、逃がさないつもりだったのに……。


逃亡したあいつは、すでに若返り薬を飲み、容姿が別人になっているのだ。その容姿を最後に見たのは殴られた部下ただ一人。


「リーダー。私は大丈夫ですけど、殴られた時の記憶がなくて……」


「それは大丈夫って言わねえぞ」


静かに病室の扉を閉めた。


「少しでいいから、記憶にあるものを全部言ってくれ。全ての記憶がなくなったわけではないだろうからな」


「そうね……」


部下は頭を抱え、自分の記憶をたどっていった。


「あ……私、ハイヒールで頭を殴られました」


「いや、それはわかる」


「普通の人ならわかりませんよ」


あいつのことだから、自分が身に着けているものを凶器に使うだろうと思っただけだ。


部下はまた頭を抱える。


「手首に……ほくろがありました」


「うん、それもわかってる」


「リーダー?」


そろそろ怒りで爆発しそうな部下。

まあまあ、と彼女を落ち着かせる。

すると、何かを閃いたように、手をパンと叩いた。


「手首にホクロがついている女性を集めて、ゲーム形式で犯人探しをしてみてはどうですか?」


「それもいいなぁ」


最近暇してたから、そんな遊びをするのも悪くない。


「よし。一週間後ゲームを始める。準備を手伝ってくれ」


「わかりました!」




一週間後、はた迷惑なゲームが始まる。








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