第26話   帝

話しは健が転移された初日にまで遡る


ここはシオン、帝の居城である天楼閣内である



「帝!帝はおられるか!」



「エルドワーグ侯爵、いかがなされましたか?帝は今久美様と会談中ですが?」



「直ちに取り次いでくれ!天空人が見つかった‼」



「本当でございますか?」




「ああ、セルマから念話が入った」




「こちらでお待ちください、直ちに帝へご報告いたします」



コンコン‼

「帝、ご談義中失礼致します、取り急ぎご報告したい件がございます」



「いかがいたしましたか?」



「帝よりお話しの有りました、天空人様とおぼしき御方が見付かりました」



「本当に?直ぐに入りなさい‼」



「はっ!」



そこにいた帝は紛れもなく健が転移直前、峠の橋手前のコーナー直前にいた美女であった。


「それで、天空人様は今何処におられるのですか?」



「詳しい話しは今エルドワーグ侯爵様が参られております、直接お聞きになられるのが宜しいかと……」




「解りました、エルドワーグをここに呼んでください」



「はっ!直ちに」


女官は足早にエルドワーグ侯爵を呼びに行く



「久美、お話し中すみませんが……」



「いいえ!帝がずっと待ち焦がれていた天空人ですもの、私の事は気にしないで‼」



「ありがとう、久美……」



コンコン‼


「帝、エルドワーグ参上つかまりました」



「お入りください」


年の頃50過ぎだが歴戦の戦士を思い起こさせる初老の男性であった。

だが髭は濃いが頭は薄い……所謂脳天禿げ、業界用語ではザビエルとも言うらしい……


「はっ!帝、この度はご拝謁を賜り……」




「前置きは必要ございません、して、天空人様は今、何処いずこにおられるのですか?」


「グレムの街、ベラルーシへの街道沿い、セルマの経営する宿に、丁度リンドウの軍と戦をしている近辺に降り立ったと思われます」



「巻き込まれたと言う事はございませんね?」



「怪我などをしているとは報告を受けておりません」



「良かった……それに、我国境内に降りたってくださって本当に」



天空人とおぼしき若い女性、久美と言われる美しき女戦士がそこにいる、彼女は長い黒髪をポニーテールの様に結い、赤い騎士鎧の様な物を身につけいる。

「でも急いだ方が良いわよ‼私と違って、事情が何もわからずにこっちに飛ばされたんでしょ?どんな人か解らないけど、相当なフォルムの持ち主なんだったら、敵に介入でもされたら収集着かないわよ‼」



「そうですね、でもなぜ止まらずにあの様な事になってしまわれたのか……あの方の鉄の箱を操る技術ならば、十分に止まれる位地にいたのですが……」



「大方帝を見て、鼻の下伸ばしてわき見運転でもしたんでしょ……」


バレバレな健であった……


「そんな……ですが久美の言う通り、急がねば成りませんね‼エルドワーグ侯爵‼上意であります!」



「は!慎んで!」



「至急セルマ伯爵に申し伝えてください、天空人様を絶対に国内から出してはなりません!また、下賎な輩の領内にも同じです、出来るならばそれとなく士官を誘って見てください」



「無理強いは駄目よ!何度も言うけど現代人は自由意思で生きているの、下手をすれば帰って反発して、敵方に行きかねないわ‼」



「久美、何か良い案は御座いませんか?」



「そうねー……何かこちらに付かないといけない状況下にしてしまう方法を……エルドワーグ侯爵、何か他に情報はないかしら?どんな些細な事でも良いわ‼」



「そう言えば、セルマが妙な事を申しておりましたな?」

禿げた脳天を擦りながら答えるエルドワーグ、これが禿げた原因の一端なのでは?と思い込みながらも久美は



「妙な事?」



「ええ、何でも戦で使用されていた肉壁を連れて、天空人殿はセルマの宿に飛び込んで来た、と……」



「エルドワーグ侯爵、その言い方!その肉壁って呼び方、私の前でしないでって何度も言ったでしょ!もう2度とそう呼ばないで!」



「エルドワーグ!控えよ‼」



「はっ!ついうっかり……申し訳ございません、今後2度とは……」



「いいわ、続けて」



「はっ!して天空人殿はその負傷したジャーリアを診察してほしいと、ハサン公爵閣下へ申し出たよう、ですが閣下が診察出来ないと申し出た所、大変な激怒をされたご様子」



「なんとおやさしい、やはりあの方で間違いございませんね……」



「ですが……」



「それで?」



「これをここで申して宜しいのかどうなのか……」



「どんな些細な情報でも今は欲しいの、話して!」



「構いません、お話しください」



「はー……天空人殿はその……館内のその……」



「勿体つけないではっきり言って!」



「はっ!では……天空人殿は館内の女中達が階段を上がる時、下に回りスカートの中を覗くは、ジャーリアの娘の衣服を脱がす時、どさくさに紛れ、何度も胸を揉むは、あまつさへ、セルマの娘が天空人殿を見初めてしまったのを良い事に、セルマの娘の部屋へ呼ばれた時に下着を盗み、その下着の臭いを嗅ぎながら、その……自らの一物をまさぐっていたと……」



「……………………」

「……………………」



「そ…………その天空人…………大丈夫なのよね?帝」


「はっ、、はい、間違いなく、、あのかた、でした。そ、その、女性には余り、馴れておいででは無い、、のではないでしょうか?」



「ですから私は話しを控えて……」



「女の敵ね……良いわ、ならば少し思い知らせてあげましょう、こうなったらハニートラップよ!」



「ハニー……なんですの?」



「取り合えず帝も侯爵も、もうちょっとこっちへ、作戦会議よ‼」


「久美、あまり過激な事は、私にとってもこの国にとっても大切な御方なので」


「大丈夫よ!それより幾つかの作戦を伝えるわ!それでね……」


久美は二人に作戦内容を伝える


「しかし久美殿、この第一段階の、へんけいつつもたせ作戦!!と言うの、やる意味があるのですか?正直この様な見え透いた罠に掛かる様な御人がいるとは思えん」


「でしょうね!『まあ……1人掛かりそうな奴に心当たりがあるんだけど……』こんな単純な作戦に早々引っ掛かる奴は居ないと思うわ!

これはあくまでも様子見よ!その時の行動で次の作戦を決めるわ」




こうして健は見事に美人局作戦に落ちたのであった……


全て自業自得ではあるが……

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