8.かわりゆく日常

 ……二月といえばやっぱり、あの日なわけで。



 登校時はおとーさんが通勤がてら車に乗せて行ってくれる。

 それに近所なアスカをいつも無理やり便乗させる。

 後部座席で隣にいるアスカは、背筋を伸ばして固まっていて、なんだか微笑ましいと同時に、気兼ねしなくてもいいのになあって、残念でもあった。

 ほんとになんでこう謙虚なんだろう。

 学校に着くと、

「行ってきます」と言うわたしと、

「ありがとうございましたっ、行ってきます!」

 と言うアスカに、おとーさんは笑顔で行ってらっしゃいって言って、手を振ってくれる。

 そしてわたしは徐行していくおとーさんの車を見送りながら、笑うのだった。

「なんでそんなに緊張するのー」

「いや、だってこう、やっぱりなんか申し訳ないでしょ」

 むむー、なんて言ってるアスカに、

「アスカにはもっと図太くなってほしいなあ」

 なんてわたしは言う。そして、

「……そーんなことじゃ、チョコ渡せないよっ」

 なんてコソコソと言う。

「ななななな、なに言ってくれるのっ、私頑張るんだから……!」

 アスカの顔がすこしあかくなった気がした。

 あんまり茶化すとかわいそうなので、わたしはふふっと笑って、アスカの背中をぽんと押す。

「応援してるよ」

 言いながら笑いかけると、

「うん、頑張るっ」

 アスカは少し真剣な顔でそう答えた。

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