4.ヤマイハキカラ?

 ──もしもそうだとして、今までたくさん不幸だなって思っていたのなら、これから幸せになれるのかなあ。




 月曜日だけのセッション。

 不思議とアスカには鉢合わせない彼。

 アスカにはどう説明していいのだかよくわからずにいたけれど、なんとなく話したくなって、切っ掛けをずっと探していた。

「……何か最近、サユキ生き生きしてるきがする~」

「ふぇ!?」

 ……そう見えるのなら、その要因は絶対に月曜日のセッションなのだろう。

 驚きはしたけれど、これはいい切っ掛けをもらった気がした。

「えっと……何か月か前から、あの第三音楽室にピアノ弾きに来るひとがいるんだけど、その人のピアノに合わせてヴァイオリン弾くのがすごく楽しくて、だから浮かれてるんじゃないかな」

「ほほう!」

 アスカの表情がいつにもまして輝いた。

「そういえばここ数か月倒れてないし、そのひとに元気をもらってるのかもしれないね」

 なんで何か月も言ってくれなかったのーとかじゃなく、そう言って喜んでくれるアスカの存在が、もう奇跡みたいに見えた。

「けどじゃあ、夏休みとかじれったかったんじゃない?」

「家でヴァイオリンの練習いっぱいしてた。なんかそれだけで楽しくて。危うく宿題全部終わらないところだった」

 それを聞いてアスカは吹き出した。

「私が遊びと宿題かねてサユキの家にちまちま行ってなかったら、危なかったんじゃない?」

「絶対そうだと思う」

 えへへ、と私も笑う。そして誤魔化すようにアスカのほうの話題を振ってみる。

「そういえば、アスカは村瀬くんとどーなの~」

 同じ部活で、いろいろ接してるうちに片思いをしているのに、最近気づいたらしい。

「それがねー……!!」

 アスカは両手を胸の前で組んで、目をきらきらさせながら言った。

「なんと土曜日にふたりでラビットランドに行くのです! デートなのです!!」

「すごい……! アスカも頑張ってるね!」

 アスカの顔を眩しく見ていたら、急に素に戻ってアスカが言う。

「『も』ってことは、そのピアノのひとは男子??」

「!?」

 どうしてそうなるんだろう。

「サユキも恋しちゃってるんじゃなーいのー?」

 アスカがにやけている。

 恋……?

 よくわからない。

「その人と一緒に演奏するのはとても楽しいよ。でも、恋なのかは分からないなあ……だってわたし、あの人が何年生の誰さんか、まったく知らないもの」

 それを聞いてアスカの目が点になった。

「……どゆこと?」

「名札してるとこ見たことないし、なんか、わたしもそのあたり聞く必要もない気がしてる」

 それを聞いて、アスカは首をかしげて多少考えてから言った。

「な、なんか謎な関係だね……よく言えばミステリアス? もしかしてその人ユーレイとか」

 それにわたしは吹き出した。

「もし、わたしが死んだあと幽霊になるとしたら、あれだけ元気で、毒づいてるようでもその実励ましになる、なんていうステキな幽霊になりたいなあ」

 笑いをこらえながら言うわたしに、アスカは思い切り笑いながら言い放つ。

「あんたのその性格じゃ、そんな天邪鬼はできないでしょう」

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