第4話
最悪の目覚めだった。青白い顔の私を、朝一番で侍女と共に起こしに来たラナンは慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫!? 具合悪いの?」
冷たい小さな手のひらが私の額を覆う。自分にも空いた手を当てて熱を測っているようだ。
「熱はない……かな。ねえ、リーリア。お母様にお医者さまをお願いして」
「大丈夫よ……ちょっと夢見が悪かっただけだもの」
心配性なラナンに何とか伝える。本当に最悪な夢だったのだもの。
「本当に大丈夫ですか、キリエさま」
ラナンの連れてきた侍女のリーリアも心配そうな顔をする。私は頷く。
「本当に大丈夫よ」
しっかりと頷けば、とりあえずリーリアは引き下がってくれた。ラナンはまだ不満そうだったけど。
「そんなことより、お腹空いちゃった。ラナン、行きましょう?」
声をかければラナンは渋々頷いてくれた。まだ着替えていない私をリーリアが着替えさせてくれて、部屋の外で待っていたラナンと手をつないで広い廊下を二人並んで歩く。
「そういえば、お二方。旦那様がお戻りになってますよ」
「え! お父様が!?」
驚いたラナンにつられて私も驚く。父は、母の名代であちこちの都市へ視察に行ったりしている。長く留守にすることも多い。先月半ばから長期遠征という名の遠方への視察へ行っていた。それが戻ってきているという。
「日付が変わる頃にお戻りになったんですよ。お二人もスレイさまもお休みになられてましたし、旦那様もお疲れでしたから休まれましたが」
今は母様と兄様と三人でお茶を飲んでるとのことで、私たちは早足で食堂へ向かった。
*********
お父様に会って私は完全に確信した。私は、どうしてだかアストラル帝国の王族に生まれ直したようだ。時間を巻き戻した上にあらゆる変化が生まれた世界で。
「おかえりなさい、お父様」
嬉しそうに椅子に座ってくつろいでいたお父様――ディオン=アストラルにラナンは飛びつくように抱きついた。それをオレンジ色に緑色の瞳の美しい顔が嬉しさを隠さずに抱き上げて自分の膝に乗せる。
「ただいま、可愛いラナン。ちょっと見ない間にまた可愛くなったね」
「もう、お父様はそればっかり」
そう言いつつも嬉しそうにはにかむラナンは確かに天使のように可愛い。普段からラナンを可愛いと言っているスレイ兄様も笑顔だし、母様も笑っている。
「お父様……おかえりなさい」
「ただいま、キリエ。キリエも可愛くなったね」
ラナンを膝から降ろすとおずおずと近づいた私を抱き上げて膝に上げてくれた。優しく私の髪をなでると額にキスしてくれる。どうでもいいけど、すごくいい匂いがする。男の人なのに。
服越しにしっかりと筋肉がついていることがわかる。王の盾を務めてくれているクロノス伯爵には及ばないらしいけど、十分強いと聞いている。そんな父様の膝の上を堪能していると少し拗ねたらしいラナンはスレイ兄様に膝に乗せて欲しいとねだっていた。兄様は満面の笑顔でそれを受け入れて膝に乗せている。母様はそれをほほえましく見ていた。
「それよりキリエ、大丈夫かい? 昨日、木から落ちたんだって?」
しっかり報告されているらしい。とはいえ、娘二人に格別に甘いお父様はしかるというよりも心配の色が強いみたい。
「もう大丈夫よ。怪我もしなかったし」
笑顔で言えば、お父様も安心したのか優しく微笑んでくれる。
「それなら良かった。キリエは元気がいいね」
「元気が良すぎて困るわ」
はあとため息をつく母様の言葉は無視させてもらう。下手なことをいって更に課題を増やされたらたまらないもの。
「朝食の用意ができました」
そんな家族の団らんに老年の執事が恭しく告げてきた。それに母様は頷く。
「さ、二人も席につきなさい。朝食にしましょう」
お母様に言われて私はお父様に降ろされ、ラナンもお兄様に降ろされてそれぞれ隣の席に座る。見計らったように侍女たちが手に手に盆をもって朝食の皿を並べ始めるのを眺めていたらお腹が鳴っちゃった。それにみんなが笑って、穏やかな朝食が始まった。
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