もしかして夢を見ない限り戻れないとかいうオチなんじゃないだろうか



 正夢からの異世界トリップをやらかしてから結局、三ヶ月が経った。

 あたしは相変わらず、現代世界に戻れずにいる。

 トリップした日、先に進もうと決意してから歩く事三十分。幸いモンスターなんかに出会う事も無く、案外と近いところにンガポコ村はあった。

 そしたらまぁ。

 やはりというか何というか。

 あたしが辿り着いた日は、村に伝わる伝承だかなんだかで「予知と火の力を操る神子」だかなんだかが別の世界から現れる日だったんだそうで、もちろん、あたしがそう認定されちゃったわけで。

 ちなみに、最初に使った火の魔法。アレは結構強力なモンなんだそうだ。チートっぽいって言っちゃったけど、歩きながら考えてみると倒したのって数がいたとはいえ多分基本中のザコであるところのスライムである。もしかしたら、チートって程強い能力じゃなかったりして、とかちょっと不安になったりもしたのだった。

 で、その伝承とやらが予言しているのは神子が現れるって事だけじゃない。わざわざ神子とやらが単にやって来るってだけじゃないんだ、やっぱり。

 そりゃもう、王道中の王道。

 神子サマは、長く封印されていて今現在蘇った魔王から世界を救う為に別の世界からやって来てくれるって事らしい。

 そりゃ、都合の良い事で。

 そんなレクチャーをこれまたなぜか通じちゃう言葉で聞き終えて、更に都合よくこの村に訪れていた勇者とその仲間達と合流し(村に伝わる伝承を知っていたから滞在してたんだけど)、あたしは魔王退治の旅に出たのだった。

 そう。

 過去系。

 魔王の居場所も倒し方も、旅の途中で夢に見ちゃったもんだから、あっさり片付けて世界に平和を約束し、本気で伝説の人となっちゃったあたしは勇者達と別れて現代へめでたく帰還……というわけには、行かなかったのだ。

 全く、あたしの能力なのにあたしに厳しいって一体どういう事なんだろう。

 そんなわけで、あたしは結局未だに現代への帰り方を探しながら世界中を旅して回っている。伝説の神子サマって立場なので、世界をどんな風に動き回っても良いと魔王討伐の際に知り合った王様から許可が下りている。その時もらった許可証で、乗り物はタダだわ国境越えるのも一発だわである意味こっちのがチートなんじゃないかと思ったりもする。

 そんなこんなで三ヶ月があっという間に経ってしまったというわけだ。

 あたしは、宿のベッドに寝転がりながら、自分の世界の事を考える。

 こっちの生活は、思ったより悪くない。許可証のお陰で何の不自由も無く豪遊出来るし、食事も結構口に合う。いつ起きて、どこへ行くのも全くの自由。

 だけど。

 元いた世界では、あたしの存在は一体どーなっているんだろうか。

 ……これだけ王道街道突っ走ってると、これまた王道の、戻ってみたら時間が経過していませんでした、なオチになりそうな気が何となくするのだけど。

 それでもやっぱり、気にならないわけがなかった。

 あたしがこっちの世界に来た事には一応、理由があった。ンガポコ村に伝わる伝承の人物、それに当てはまっていた。

 だけどその伝承は、魔王を倒した後に神子がどうなるのか、という件までは触れられていない。あたしにとってはそこが最も重要なところだったりするのだけど。

「はぁー……」

 深いため息をついて、ふかふかのベッドの上に倒れこむ。思っていたよりも疲れていたのか、目を瞑るとすぐに睡魔がやってきた。

 睡魔に身をゆだね、緩やかに眠りに落ちる――。


 そして。

 久方ぶりに、夢を、見た――。


■□■□■


 ……寒い。

 ありえないぐらいに、寒い。というか、冷たい。

 あたしは毛布を肩まで引っ張りあげようと手を動かすが、肝心の毛布が見つからない。その代わり、指先が柔らかく冷たいものに触れる。

「ひゃっ!」

 思わず声を上げ、飛び起きた。今の刺激で一瞬で目が覚める。辺りを見回し、寒さの原因が嫌という程に分かった。

 視界に飛び込んできたのは、真っ白い世界。空からも、グラニュー糖のようなさらさらの白い結晶がしんしんと降り注いでいる。

「……雪とか、ありえないって」

 脱力して、呟く。ついさっきまで見ていた夢の内容を、あたしは鮮明に思い出した。

 つまり。

 夢の中で、あたしはこの場所にいた。

 しかも――。

 ふいに視線を感じ、そちらへ向き直る。目線の先には、いわゆる雪男みたいなのがおっかない顔をして立ち塞がっていた。

 またか。

 またなのか。

 現実世界でも、雪は降る。だが、こんな一面銀世界になるような場所はあたしは知らない。そしてもちろん、雪男なんてカルチャー系のテレビか本の中でしか見た事が無い。

 雪男は、いつだったか見たUMA特集の番組で想像されていた姿とほぼ同じような姿をしていた。案外間違ってないもんだなーとのんきな感想を持つ。

 それもそのはず。

 あたしは、こいつがこれから何をしてくるのか、そしてどう対処したら良いのか、全て知っているのだから。

 だけど、やっぱり。

 それ以降の事は、知らない。

 どうやったら元の世界に戻れるのか、やっぱり分からない。

 ……もしかして。


 夢で見るまで、現実世界には帰れないってオチなんじゃなかろうか。


 ……いやいやいや。

 もう、ありえ過ぎて、笑えない。

 頼むから、オチは笑えるものにしてほしい。

 そんな事を、切実に、本当に切実に願いながら。

 あたしは、二つ目の世界(厳密には三つかもしれない)での一歩を踏み出した。

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正夢を見る能力を持っていても流石にこれは行きすぎじゃないだろうか 柊らみ子 @ram-h

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