第78話ライムたんマジ女神

 イーリスの復讐を終えてレッドストーンへ帰ってきた俺だが毎日、毎日、毎日、毎日繰り返される襲撃に難儀していた。

 あれから3年という月日が経ったにも関わらず、ブラコンシスターの猛攻は留まる事を知らない。むしろ、嫁を2人連れて帰って来たからこそ激しさを増したという方が正しいのかも知れない。


 「あっつ苦しいわ!ええい!離れよ馬鹿姉ぇええ!」

 「良いではないか、良いではないかぁあああ!」


 グイグイと顔を押しのけるのもなんのその、ミーシャは腕を避けてケイを補足すると躊躇い無く抱きついてスーパーイチャイチャモードに突入する。

 説明しよう。スーパーイチャイチャモードとは、ミーシャのミーシャによるミーシャの為のケイが脳内でミーシャを誘惑した末、理性を塗り潰すようなアレコレをしたり、されたり、強要された事によって、現実のミーシャまでが暴走してケイに襲い掛かるという......ともかく危険なモードである!なんてうらやましい!けしからん!。


 イーリスとエリスは辺境へ移住するに当たって薬やら食料やらを王都の各地で大量に購入したのだが、その中には【獣化薬】という薬があった。


 【獣化薬】「レアリティ HR ハイレア」

 獣に姿を変える事が出来る秘薬......なのだが、未熟な錬金術師が調合した不良品。

 中途半端に変化する為、獣では無く獣人化する。

 耳と尻尾が生えて個人差はあるが体に獣の様な体毛が生える。

 ええい!まどろっこしい!モフモフや!モフモフやでぇえええ!



 「おい!【百科事典】ウィキペディアは仕事をしろ!鑑定神はどんなシステム組みやがったぁあああ!」

 「うっほ~!ケイケイ!モフモフしてもええんやでぇえええ!それ以上もOKなんだからぁああ!」

 「もが......胸が、むう、胸に殺されるぅうう!エリス!イーリス!なんとかむぐ......止めろぉおお!」


 大事な姉故に無理に剥がす事も出来ず、されるがままになっているのだが、ミーシャはどんどんエスカレートしていくばかりである。


 「嫁として姉を止めるべきなのでは?」

 「お姉様には言っても無駄でしょう。どうせ未来は決まっているのですから、ケイ様も腹を括って嫁として迎え入れれば良いのです」

 「えぇええ!?それならライムも嫁?になる!」


 エリスの疑問に淡々と答えるイーリスだったが、足元から上がった声に真剣な表情となる。

 

 「ふむ、ライムちゃんは子供過ぎますね。もう少し大きくなってから相談致しましょう」

 「えぇええええ!?そういう問題ですか?もっと違う考えじゃなくて?」

 「むぅ!ライム子供じゃないもん!お買い物だって一人で出来るもん!」


 真剣に答えるイーリスに驚愕して突っ込みを入れるエリスだったが、子供扱いに怒ったライムが反論を述べる。


 「ライムさん?大人だったらケイ様とお風呂に入れなくなってしまいますね」

 「ふぇ?駄目!ライムはお兄ちゃんと一緒にお風呂に入るよ!」

 「では大人とは呼べませんね」

 「むむむむむ!残念だがライムは子供だったし......あ!でもでも、お父さんとお母さんは一緒にお風呂に入るよ!」


 ライムの反論を一蹴したイーリスだったが、思わぬ反論が待ち受けていた。意義あり!である。ナルホド。


 「う......ですが、お父様とお母様は結婚してらっしゃいますし、毎日ご一緒される訳ではありませんよ?」

 「ならライムも結婚だぁあ!それなら大丈夫だよ!イーリスお姉ちゃんにも文句言われなくて済むよ!」

 「うーん、困りましたねぇ。ケイ様?どうしますか?」

 (どうしてこうなった!?イーリスさんも押しが弱すぎます。そこはもっと強く否定するべきですよぉ)


 フンスと意気込むライムを押さえ込む事が出来ず、難儀したフリをしたイーリスがケイに意見を求める。ハラハラしながら見守るエリスだったが、自分からは特に何も言えずにイーリス頼みである。無責任か。


 「姉に溺れるが良い!ふふふ、ケイは観念してお姉ちゃんをハーレムに入れるべきです!ふはははは!どうです?この尻尾は?狐みたいにモッフモフでしょう?モッフモフやでぇ!」

 「くぅ!ここまで苦戦した相手がこれまでに居ただろうか?いや居ない。って、いいから離せぇ!」

 

 姉を退けるのに忙しくてケイはそれどころでは無いようで、話すら聞いていない様子を確認したフリをする。  イーリスは「仕方が無いとばかりですねぇ」とゴソゴソとポケットを探ると目的の秘密アイテムを出す。


 「ケイ様はお忙しいご様子ですね。ライムさん、ここはおやつタイムといきしょう」

 「お、お、おやつなんかに誤魔化されないもん!」

 「ライムさんの大好きなクルミ入りのクッキーもありますよ?ブルのミルクと一緒に頂きませんか?」

 「ふぉおおお!クッキーなら仕方が無いなぁ!うん、いちじきゅうせんにしてあげるよぉ!」

 (ちょろい、流石は子供ですね。イーリスさんも誤魔化すのがどんどん上手くなってます!ライムテイマーは伊達じゃありませんね)


 勝手な称号を付けたエリスは、ライムに手を引かれて食堂へ向かうイーリスについて行く事にした。別にクッキーが目当てでは無い......はずである。

 

 「って、おい!待とうよ!誰がミーシャを止めるんだよ!わぁあああああ!」

 「秘技!モフモフ乱舞!可憐なミーシャの舞を受け止めるが良いわぁ!オーッホッホッホ!」


 姉弟の戦いはまだまだ続くようである。うらやましいから代わって欲しい。




 所変わって夜のお風呂場へ移動なう。兄妹は入浴中である。


 「ふんふんふーん♪お兄ちゃん!今度はライムの頭を洗って欲しいなぁ」

 「はいはい。しっかし、ライムの髪もずいぶんと伸びたなぁ」


 サラサラヘアーの銀髪は腰まで伸びており、メリッサ、レイン、ミーシャが徹底的にケアを施す為、いつでもツヤツヤでダメージヘア等という言葉とは無縁である。もっともそんな言葉があるかは別だが。それに、そうでなくともケイが作ったシャンプーが髪を傷める事など許しはしないのである。


 「お姫様、痒い所はありませんか?」

 「うむ、くるしゅうないぞ。お兄ちゃんは洗うのが上手いねぇ!」

 

 デレデレと髪を洗うケイだったが、ライムも洗われるのが気持ち良いのかトロトロに溶けてしまいそうに脱力を始めている。


 「こらこら、もたれてきたら洗い難いだろ?ちゃんと座りなさい」

 「にへへ~、ごめんなさ~い」


 ケイお手製のシャンプーは素材の価値など無視して作成した逸品であるが、使用者達は当然理解していない。使用後の違いは歴然としており、こちらの世界で流通しているオイルとは隔絶していた。というか次元が違う。

 老婆が使用したとしても若返って見える(現実に肌が若返るのだが)その瑞々しさと艶にうっとりする女性陣は、毎日の風呂が楽しくて仕方が無いのである。


 ケイ特製シャンプー「レアリティ LG レジェンド」

 アムブロシアー(劣)、絹林檎シルキーアップルルビ、ソーマ酒(劣)、紅玉瞳蜂蜜蜂ルビーアイハニービールビの蜂蜜、黒曜椰子オブシディアンパルマエルビの油を使用して作った一品物である。

 その気になるお値段はなのだが一回分で村1個分なのだが、ケイの秘密、内緒の言葉により知らされていない。

 大切な女性たちは常に華麗で美しくと、勝手に無理やり援護するケイの我侭から生まれたシャンプーだ。

 不死にはならないが、「肌年齢がもちもちな赤ちゃん肌レベルまで、レボリューションな効果でファンタスティックでアメイジングだぜ!」とはケイの言葉である。誰も理解出来ないからね?。


 キャッキャとはしゃぐライムをお姫様抱っこしたケイは、巨大な噴水レベルのサイズまで拡張した湯船に入る。

 ケイにもたれながら歌いだすライムの歌を聴きながらゆったり過ごすのは至福の時間である。ミーシャに教わったのだろう、大地の精霊を讃える賛美歌は高音から低音まで幅広い音を歌い手に要求するが、センスの良いライムは苦も無く歌い上げる。


 「~♪~~♪」

 「あらあら、ライムはご機嫌みたいね。ケイも一日お疲れ様」

 「本当ね。私達の前でも中々歌ってくれないのに」


 かけ湯をして風呂に入ってきたのはメリッサとレインだった。ケイは13歳になったというのにお構い無しである。実にけしからん。

 豊満な体を隠しもせず湯に入る2人だったが、ケイの反応にニヤニヤすると目配せをしてからかい始める。

 それもそのはず、こっちの世界は貞操概念とかそういう物が色々緩い、ボディが甘いぜ!なのである。


 「ケイもお年頃かしら?このおっぱいを吸って大きくなったのに。あっちも大きくするのかしら?」

 「おませさんね。父さんに似たのかしら、帰ってきたと思ったら2人もお嫁さんを連れてくるし」


 「大変遺憾である」とグレイならば言いそうだが、若くしてレインに手を付け、まだ若いメリッサまで嫁に迎えたリアルハーレム野郎である。言い返すなど許さない。絶対だ。「は、ハレーム?記憶にございません」とは言わせない。


 「もう!お母さん達うるさいの!」

 「そうだよ。俺をからかうのはミーシャだけで十分だよ」


 色々硬くしたケイとライムの言葉に「あらあら」「うふふ」とご満悦の2人も湯の心地よさに寛ぎだす。

 お尻に当たりそうなアレをライムに気づかれていないかヒヤヒヤしながらケイはホッと息を付くが、事態は急展開するのだった。


 「それに、ライムだってバイーン!ボイーン!って変身出来るんだから!」

 「はぁ!?」


 【寵愛】スキルを発動させたライムはキラキラと光りだした。突然ニョキニョキと手足を成長させていく。

 寵愛スキルとは、Masterする事で真価を発揮するスキルである。所持しているだけでは職業に変化があったり、選択肢が増えるなどの効果しかない。

 しかし、普通ならそこまでのレベルで寵愛を受け続ける事が無いこのスキルをMasterすると、寵愛を受けている相手の力を1割だけ使用する事が出来る壊れスキルなのである。

 ケイの力の一割、ドラゴンも指一本で粉々である。なるほど、よく分からん次元である。


 バイーンとたわわに実った果実を見せつけるライムは、ケイの体のサイズなど超えて180CMを超えるモデル体型に進化を果たした。

 湯に濡れて張り付いた髪も魅力的で奇跡的にアウトな部分を隠している、足元を確認出来るかすらも怪しいサイズに成長した胸、キュッっとしまった腰と重量感ある臀部がプリプリと目の前で揺れている。すらっと伸びた足のラインもケイの視線を惹きつける。ううむ、女神も裸足で逃げ出す美しさとは素晴らしい。ライム・オブ・ビーナスである。

 

 「じゃーん!どうだ!お母さんも超えるないすばでぃだぞぉー!」


 そうなのである、レヴィアたんが帰る前に警告を残していったのは、これからケイが狙われた場合に家族を害する者が現れる可能性の示唆だった。

 【寵愛】スキルの力を使いこなせるように修行するからと中身だけティアマトに戻した彼女は1週間ほど滞在した。ライムを徹底的に教育したのである。

 その教育の方向がどこに向いていたのかはケイも知らないが、ライムは持ち前のセンスで力を使いこなせる所まで成長した。その成果で別の所まで成長させる事が出来るようになっていたとは......素晴らしい。ティアマト様グッジョブである。

 

 (ふふふ、ビックリしたでしょう?私もビックリしたわ。こんな事するなんて、子供は大胆ねぇ?)


 頭の中にティアマトの声が響き、主犯が悪びれもせず言葉を伝えてくるのに唖然としたケイだった。


 (どうすんだよ?母さん達にバレちまったじゃないか!)

 (大丈夫よ。それに、これでライムちゃんとも結婚出来るわね。私に感謝しなさい?)

 (何でだよ!妹と結婚とか意味が分からんわ!)

 (何時まで日本人のつもりなの?ここはクォーツよ?そんな法律あるわけないじゃない。母親でも妹でも姉でも好きにすれば良いじゃないの!モラルなんてコボルトのエサにくれてやりなさいな)

 (ふぁんだってー!初耳だこらぁああ!)


 ある程度共通な部分はあるにせよ、国毎に存在する詳しい法律の勉強なんかしてないケイは愕然とする。こっちの世界で好き勝手するつもりだったケイが法律の勉強なんかするわけ無いのである。無ければ作る、邪魔ならぶっ壊すつもりだったのだから。


 (親もその辺りを貴方に教えるのが遅かったみたいね。まぁ、貴方の所に誰かが嫁いで来なくても、ミーシャかライムを宛がうつもりだったんじゃないかしら?ああ、でも母親でも相手が居る内はNGよ?グレイ殺しちゃ駄目だからね?ダメ絶対!)

 (殺させるつもりじゃねぇか!そんな事しないからね!?ってかこの後どうすんだよ)

 (なるようになるんじゃないかしら?それじゃね~)

 (おい!?え?ちょ......一方的に繋がりを切断しやがった)


 「あらあら?ライムちゃんたら立派になったわねぇ」

 「ケイ?ライムも嫁にするつもりだったなんて始めて聞いたわよ?どこでこんな魔法薬を買ってきたのか知らないけれど、子供を作る時は相談しないと駄目よ?グレイが興奮してうるさいからね?」

 「らぁいむはだいなまいとばでぇいでお兄ちゃんをのうさつだぜぇえ!ってレヴィアたんが言ってたよ!」

 「あんにゃろう覚えてろよ」


 ブクブクと顔まで沈み込んだケイは、硬くなったまま湯船に隠れてやり過ごすが、そんな時間稼ぎこそが時間の問題である。

 これからの姉と妹の扱いに苦労するのは目に見えている。

 前世の記憶と折り合いを付ける時期に来ているのかも知れないと1人煩悶するケイだが、それを知る者など勿論誰もいなかった。

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