第75話決戦!ガードルートVSダンケルク

 「そうか......俺は......ブレンダ、アンナマリー......俺が目指したのは、俺達が語った夢は......」

 「全てを思い出したようだな。ガードルートよ!今こそエスペランサを手に己を取り戻す時だ!」


 若き日、ブレンダやアンナマリーと過ごした時間は掛け替えの無い物だ。

 いつか、自分達のように親の居ない子供が路頭に迷う事が無いように。飢えに苦しんで死ぬ人々が居なくなるように。奴隷だ平民だと同じ人間を物の様に扱う世の中を変えられるように。


 「全てを犠牲にして手に入れた希望なのだ!愛する女が与えてくれた2度目のチャンスを無駄にはせん!」


 アイテムボックスからエスペランサを取り出したガードルートは、封印処理を施された布を引きちぎり、強引にエスペランサを抜き放った。

 あの時と同じ暖かな光を放つエスペランサが輝くと、ガードルートの中に楔の様に刻み込まれた洗脳の後を吹き飛ばされ、全ての記憶が開放された。


 「俺が忘れていた大切な想いは取り返した。だが同時に自分を無くした俺が行った最低な行為も全て思い出した」

 「ぐぅ、人形のままで居れば幸せに生きる事が出来た物を......ガイウスが余計な事をしなければ!糞が!」

 

 ダンケルクは懐から取り出した洗脳の魔道具【サクリファイス】をガードルートに向けるが、ブレンダが残した【防魔のアミュレット】が洗脳の魔力を打ち砕く。

 洗脳を諦めたダンケルクはアイテムボックスからイクシードを取り出して構える。その動作を見て覚悟を悟ったガードルートはエスペランサに闘気を注いで闘刃を作る。


 「【獅子王】から受け継ぎ、血の滲む努力で練り上げた俺の真の剣技を貴様に刻み込んでやろう」

 「ははっ!虫けら風情がイクシードに勝てるものか!塵も残さず砕けて死ね!イクシードォーー!!」


 時間を凍結させる魔力を展開したダンケルクは、イクシードに連れられて超高速の世界へ侵入するつもりだった。しかし、エスペランサが輝きを放つとイクシードの操作した時間が凍結する。


 「馬鹿な!どうしたんだイクシード!?お前の力はエスペランサなんかに劣る物では無いはずだ!」

 「もう時間を操作する事は出来ない。この剣は俺が認識した全てを封印する力を持っている。その力は既に見せてもらったはずだ」


 ギリッと悔しそうに歯を食いしばるダンケルクだったが、何かを思いついたのかニヤリと口元を歪ませる。


 「俺の引き出しがそれだけだと思うなよ?」

 「どれだけ足掻こうが同じ事だ。幾ら天賦の才を持っていても、積み上げた物が違う!俺が生涯を懸けて積み上げた技術は才能だけでどうにか出来るものじゃない!」


 残像が残る程の槍捌きでダンケルクが攻撃を放つが、ガードルートの剣技は今までのレベルとは次元が違う。

 全ての記憶を取り戻したガードルートの剣は容易く槍を払い間合いを詰めるが、ダンケルクも達人の壁を破った高みに居るだけあって、そう易々と攻撃を受けてはくれない。

 石突きを支えに飛び上がると、振るわれた剣を紙一重で回避して反撃の蹴りを繰り出す。


 「ふん!はあぁああ!」

 「見えている攻撃に当たる俺だと思ったか!せい!りゃああああ!!」


 剣の腹で蹴りを受け止めた反動で後方に飛び、そこから全力で前方へ踏み込むと2連撃で反撃する。

 

 「ぬう!?なんと言う技の冴え!記憶を取り戻しただけでここまで変わると言うのか!見えているのに回避出来ない剣だと?」

 「我が剣技の真髄はこの程度では無い!ガイウス様が積み上げて俺が昇華させた剣技は闘剣を凌駕する」


 剣を覆っていた闘気は鋭さを増し、赤い闘気が完全に剣と一体化していく。


 「何だその技は!闘剣が奥義だと自慢げに語っていたのは嘘だったとでも言うのか!?」

 「それは過去の俺だろう。今の俺は剣聖ライオネルだろうと対等に戦える力を持っている!」

 「ならばその妄想を手土産に地獄へ行くが良いわ!イクシード!」


 イクシードの穂先が空間を突き破って消え、ガードルートの後頭部を串刺しにせんと背後の空間から現れるが、体を傾けるだけで回避するガードルートの表情は余裕に満ち溢れていた。

 ガードルートの視線が攻撃によって逸れた瞬間、ダンケルクは小型の爆弾地面に叩き付けた。

 もうもうと上がる煙には猛毒と麻痺毒を調合した劇毒が仕込まれていたが、ガードルートが身に着けた【アンチポイズンリング】によって無効化される。


 「毒が効かないだと?ドラゴンすら泡を吹いて倒れ伏す劇毒だぞ!?」

 「皆の想いが俺を守ってくれる。俺は1人で立っているが、暖かなエネルギーがこの体を通して溢れ出てくる」


 ガードルートが放つ命の輝きが剣を伝い、溢れんばかりに剣から零れる。


 「その程度の能力など封印する必要も無いな。小細工も俺には通じない、貴様の引き出しはそれだけか?」

 「この俺を!俺を馬鹿にするなど......許さん!断じて許さんぞぉ!全ての魔力と引き換えに真の姿を見せよ!魔神槍イクシード!」

 「させるか!聖剣エスペランサよ!役目を果たす時が来たぞ!」


 漆黒の闇を纏い、禍々しい姿へと変化したイクシードがダンケルクにまで影響を及ぼし、ダンケルクまでが魔人化する。

 イクシードと同時に力を解放して、真の姿を現した封神剣エスペランサを手にしたガードルートが瞬時に攻撃を開始する。


 「神を屠る槍の一撃で魂まで粉々に砕けろ!」

 「実力で負たら武具の力頼みとはな、愚かな男だよ!お前は!」

 

 10万を超えるMPを注がれたイクシードの一撃は壮絶で、触れれば消滅を避けられない密度まで凝縮したエネルギーを穂先の一点に集中していた。

 半径1キロを消し飛ばす対軍魔法を超越した槍撃を、ガードルートはエスペランサの力で封印しようとするが、破壊と封印の力が拮抗してバチバチと火花を出しながらお互いを食い合う。


 「馬鹿な!全てを捧げてもエスペランサを超えられないとでも言うのか!?」

 「お前には分からないだろう。エスペランサの輝きは俺1人だけの力じゃない!この国に住む人々の祈りが、願いが生み出す希望の力だ!」

 「希望だ?怒りと欲望に勝る感情など存在するものか!イクシード!もっとだ!俺の全てを喰らい尽くせ!全てを捨てても俺は負けられぬ!」

 「まだ分からないのか!そんな感情は何も生み出さない!」

 「だからどうした、全てを破壊してから新たに生み出せば良かろう!破壊と再生は表裏一体。俺が国を滅ぼして生まれ変わらせてくれるわ!」


 ダンケルクの魂まで吸い尽くしたイクシードは、その全てを破壊のみへ変換し尽くして更に倍にまで出力を高めたが、ガードルートの輝きはその勢いを増し留まる事を知らない。


 「人は助け合える、支え合える!喜びを分かち合える事が何故分からない!孤独は何も生み出さない!」

 「王は孤独なものだ!ならばその力の源は他者に与えられる物では無い。その無限とも呼べる欲望から生み出されるのだ!!」

 「この分からず屋が!!」「そんな......そんな馬鹿な!?エカテリーナぁああ!」


 押し留めていた力を全て解放したガードルートとエスペランサの力は、瞬時にダンケルクとイクシードを包み込み、オーブの形へと封じ込めてしまった。


 「その優しさを少しでも民に分ける事が出来なかったのか!馬鹿野郎が!」


 輝きを止めたエスペランサを握り俯くガードルートの目に光るのは涙だった。


 「この決着、ガイウスが確かに見届けた。ケイ様達も見守っているだろう」

 「陛下、長らくの不明をお許しください。このガードルート、許されるならば生涯を持って王国に尽くす所存」

 「うむ、我が魂と引き換えようともケイ様の首を縦に降らせて見せよう。エルリックの為にも、この国の為にもお前の力は必ず必要となるだろう」


 無念の別れを迎えた2人はこうして再開し、新たな約束を交わす。

 インフィナイトに新たな英雄が生まれた瞬間だった。かつて果たされなかった約束が再び息を吹き返し、英雄は明日へ向かって歩き出す。


 「我が人生を未来への架け橋と成さん。ブレンダ、アンナマリー......俺はやっと理想への一歩を踏み出した。見守っていてくれ」


 アミュレットとリングを握り締めて愛する2人に祈るガードルートの戦いは始まったばかりだ。

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