第65話エンドレス・マルチ・バッドエンド

屋敷の中を逃げ回るダンケルクだったが悪夢は終わらない。この世界には生者など存在しないのだから......。


 壁は白骨化した骨や腐肉へ変化しており、腕が飛び出してきて掴みかかってきたり、ウジュウジュと腐汁を噴出してきたりと不快感と危機感を煽るような環境を走りぬけキッチンへと辿りついたダンケルクだったが、コック達が忙しなくナニかを料理しているようだ。


 「これは公爵様、このような場所にどのような御用で?」

 

 特に足音や気配を感じさせるような事をしたわけでもないのに振り向くコックに動揺したダンケルクだったが、フラッシュバックのように映像が脳裏を過ぎる。あの鍋の中身は......。


 「今日のメニューは生首の煮込みですよ......貴方のね」

 「う、うあああああ!!」


 コック達に囲まれて滅多刺しにされるダンケルクだったが、先ほどのフラッシュバックで一つだけ思い出した事がある。この死は初めてでは無いと。

 体をバラバラにされて色々な形で料理された記憶を思い出したダンケルクは、次の光景を幻視する。

 覗かなくてもわかるのだ。鍋の中で煮込まれていたのは自分の生首だったのだから。



 「っはあ!ここは......」


 私室のベットで覚醒したダンケルクだったが、その手に抱いていたのは女性の死体だった。

 

 「ひぁあ!?どど、どうなっているのだ!」

 「戯れに殺された私達がそう思わなかったとでも?」


 起き上がる死体、ベットの周囲からも続々と立ち上がる女性の死体、周囲を囲まれて私刑されるがどんなに痛みを感じても意識を失う事は無い。

 各々が自分の死因になった武器を所持しており、頭を斧でカチ割られた女性、剣で串刺しにされた女性、ナイフで腹を割かれた女性、花瓶で殴り殺された女性と死因は様々だが、その武器がそのままダンケルクに帰ってくるのだから堪らない。


 殺されては再生、殺されては再生の繰り返しだが、命乞いする暇も無く攻撃される。


 「ひあ、ああ、やめ......やめろぉおおおお!」

 「「「「「貴方はそれを聞いてどうしたのかしら?」」」」」

 「そ、それは!」

 「なら仕方が無いわね」「そうですよね」「問題無いわね」「再開ね」「張り切ったじゃないの」

 「あ、ああ......あぁああああ!!」


 ミンチになるまで破壊された頭部が再生すると、今度は刎ね飛ばされて踏みにじられる。女達の嬌声と打撃音が響き、部屋中にダンケルクの悲鳴が鳴り響き、血が撒き散らされる。

 繰り返された惨劇を部屋自体が語るように繰り返される殺戮劇は、その被害者が次々と現れては再現されてダンケルクに思い出す事を強要する。

 もう何ヶ月、何年繰り返されたか分からないが女性達の姿が消えた事で、ようやく苦しみを終えたダンケルクだったが安心する事は許されなかった。


 部屋の外からコツコツと靴音が響くと部屋の前で止まる。コンコンとノックの音が鳴り響くが中に入ってくる気配が無い。


 「公爵様~、公爵様~」


 聞き覚えのあるメイドの声が響くが、当然返事をする訳が無い。彼女も死人であり、その先には死しか待っていないだろう。

 あわててベッドの下の隠れたダンケルクだったが、扉の開く音に緊張する。


 「おかしいですね~、ここに居るはずなのですが~」


 息をする音すら漏らすまいとバクバクする心臓を押さえながら口元を押さえる。


 「公爵さま~どこですか~」


 コツコツと足音がなり、ダンケルクを探して広い私室を探し回っているようだ。


 「どこだぁあ!」


 ズドン!と音が響き、シーツの隙間から見える机が粉砕されたのが分かった。


 「ここですかぁ?」


 バゴン!と破壊されるクローゼットには見た事も無い巨大な斧が振り下ろされる。......メイドでは持つ事も出来ないサイズなのだが。

 相手の正体が不明になった事で不安が増し、ダンケルクは心音がドクンドクンと高まるのを感じた。

 椅子、花瓶と関係無い物まで破壊を始めたナニカだったが、徐々に足音が近づいてくる。


 (フー、フー、早く何処かへ行ってくれぇ!)


 コツコツコツ......足音が止まったが、諦めたのか扉の外に向かって歩き出した事にダンケルクは安心した。

 ガチャ、バタンと扉が開いて閉まる音がした事に、やっと危険が去ったとベットの下から這い出したダンケルクは自分の勘違いに後悔する。

 

 「公爵様見ぃいつけたぁあああああ!」


 狂気を帯びた形相のメイドの上半身がフヨフヨと空中を浮いており、周囲を様々な武器が浮遊して旋回している。ガチャリと開いた扉の向こうから歩いてきたのは下半身だけだった。


 「駄目ですよぉおお?貴方が私を2つに分けたんじゃないですか~」


 過去の映像がフラッシュバックする。呼びに来たメイドを陵辱したダンケルクだったが、何を思いついたのか彼女を散々嬲り者にした。

 壁に掛かった剣を抜き放つと、倒れている彼女に振り下ろしたのだった。


 「2つ体があれば働きながら私の相手も出来るじゃないか......でしたねぇ?」

 「あ、あれは」

 「それでは公爵様もご一緒にどうですか?仕事をしながら休む事も出来ますよぉおおおお!!」


 体中を殴打され、無理やり引き起こされては繰り返される暴力の嵐、最後に視界に映ったのは腹部に向かって振り下ろされた剣だった。



 次に気が付いた場所はもっとも愛用した場所である。拷問を繰り返し行った地下室は洗い流したはずの血で染まり、部屋中に血痕が浮き上がっている。


 「痛っ......手足が」


 鉄釘で壁に貼り付けにされたダンケルクは、両手首足首に鉄杭が貫通している事に気が付くと逃げ切れない事を悟った。

 

 「あら?お目覚めのようですね。館の皆様とお楽しみになられたようで良かったですわ」

 「イーリス!クライン・イーリスぅう!!」


 壁に貼り付けにされながらも怒りは収まらないのか、イーリスの名前を叫ぶダンケルクは怒りで思考が染まっていた。


 「あらあら?貴方の行いがその身に帰ってきただけですわ。それもほんの一部ですのに......救いようがありませんわね」

 「お前が!お前のせいで私はこんな目に!」


 これは話が通じないと感じたイーリスだったが、どうせこのまま復讐を終える気などないのだからどうでも良いかと思った。


 「では、まだまだ予定は詰まっておりますので、またお会い致しましょう」


 ニコリと笑ったイーリスは腰から短剣を引き抜くと、ダンケルクの眉間目掛けて投擲する。

 スコンと眉間に深々と突き刺さった短剣に気が付いた時、ダンケルクの意識は途切れたのだった。

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