第63話ゼストVSガードルート

 交差する白銀の輝き。見た目の大きさとは裏腹に、かなりの速度で振るわれる2本のグレートソードが奏でる旋律に合わせて刻まれるステップが地面を削り取っていく。

 

 「ふふふ、騎士なんぞどいつもこいつも格好ばかり立派で、中身が全然伴っていない奴ばかりだと思っていたが......アンタはやるじゃないか!」


 横薙ぎに振るわれた剣を受け流し、ニヤリと微笑んだゼストが声を掛ける。


 「ふん、当然だ。そちらこそ傭兵の分際で中々粘るではないか。俺と3合以上打ち合える人間が今までどれだけいたか」

 「部下達の命を背負ってるんでな。そう易々と倒れる訳にはいかんのさ」


 お互いに一撃必殺の斬撃を放つが、武器のランクも剣の腕も同レベルであり、身体能力も似通っている為に一進一退の攻防を繰り広げている。

 ガードルートが渾身の力で振り下ろした剣を受け流しながら、剣の腹を滑らせて接近するゼストが上段蹴りを放ち吼える。


 「もらった。はぁああああ!」

 「温い!王国の騎士達を束ねる器の深遠を見せてやろう!」    


 急激に剣のリズムが変わり、魔法と剣撃が同時に放たれる。かと思えば、時間差で魔法を放つ遅延術式まで多様してくるのだから、ゼストも攻勢から守勢に回る事を余儀なくされた。


 「くっ!流石に甘くは無いか......騎士団長に次ぐ実力というのは嘘じゃないらしいな」

 「アルベルトの強さなど生まれ持った魔力のおかげよ!同じ条件ならば勝利するのは俺だ!」

 

 触れてはならない話題だったのか、今まで以上の速度と威力で激しい乱撃を繰り出すと同時に激しく吼える。

 冷静さを失い始めたガードルートは威力や速度と引き換えに、自らの売りである精密な剣筋を犠牲にしてしまっている事に気が付いていない。


 「く!何という剣だ!押し返されるだと!?」(挑発して正解だったな。今までの精密な剣筋ならともかく、この単調な剣筋ならばどうとでもなる。頃合を見て一気に決めるか)

 「そらそら、どうした?先ほどまでの威勢の良さはどこに行ったのだ?」


 剣を振るいながらゼストを挑発するガードルートだったが、押されながらも攻撃を防ぎ続けるゼストに苛立ちを隠す事が出来ない。

 

 「そちらこそ、騎士団長よりも強いはずのガードルート様は、全力で戦っているのに傭兵1人倒す事が出来ないようだが......大丈夫か?」

 「殺す!貴様はこの手で必ず縊り殺すからな!」


 余裕の笑みを浮かべて挑発したはずの自分が、ゼストから再度の挑発を受けるなどと思いもしなかったガードルートは怒りを爆発させるとアイテムボックスから『とっておき』を取り出した。


 「今すぐここでくたばれぇええええ!!」 「怒りに我を忘れたか?隙だらけだ!!」


 ゼストの読みは早く、アイテムボックスに手を突っ込んだ瞬間には行動へ移っていた。全身を身体強化していた魔力を全て足へと注ぎ込み、ガードルートに向かって突撃したゼストは持っていたグレートソードを本来の姿へ戻した。

 淡く輝きながら真ん中で2つに別れた剣は2本のバスタードソードへ変化する。


 「実力を隠していたのは貴様だけでは無い!【ゼピュロス】」 『アネモイシステムの起動キーワードを確認しました』


 身体強化の急激な加速から、魔剣の力による爆発的な加速な加速が加わり、視界に残像を残してゼストが消える。鋏の様に交差して振るわれた斬撃は、腕を包む鎧に抵抗を許さなかった。

 アイテムを掴んだガードルートの右腕を切り飛ばしたゼストは、駆け抜けた体を一瞬で反転すると2本の剣を投擲する


 「【ノトス】!【ボレアース】!」

 「舐めるなよ!」


 風を纏った剣が螺旋回転をしながらガードルートへと襲い掛かる。腕を切り飛ばされたガードルートは瞬時に状況を把握すると、飛んできた剣に向かって剣を一閃する。

 しかし、2本の剣が狙っていたのはガードルート自身では無かった。ターゲットはガードルートが振るった剣だったのだから。

 ギギギギギギィンと激しい金属音が鳴り響いたが、最後にはバキィン!と破砕音が聞こえてガードルートの剣が折れ飛ぶ。


 「【エウロス】!」


 投擲された2本の剣から風の魔力が噴出して竜巻へと変わる、瞬時にガードルートを空中へと巻き上げた竜巻が消失すると同時に拘束する見えない鎖へと変化する。


 「う......動けぬ!何だこれは!離せ!離せぇえええ!」


 投擲されたはずの剣が瞬時にゼストの手に戻り、一振りの剣へと変化する。風を纏って神速と化したゼストがガードルートの眼前に跳躍すると、上段へ構えた【アネモイの神剣】を渾身の力で振り下ろす。


 「チェックメイトだ!実力を見誤ったのが貴様の敗因だ!【アネモイの断罪】!」 『魔力全力開放』

 「そんな、ば......馬鹿なぁあああ!!」


 防御する事すら許されない圧倒的な暴力を秘めた風の剣がその力を解放する。

 振るわれた斬撃はガードルートを断ち切るが、その凄まじい余波が地面へ着弾すると地面が大きく破砕した。勢いはそれだけに留まらず、そのまま後方へと伸びていき、アベンチュリンの泉へと続く一本の大きな亀裂を作ってしまった。

 風の魔力を纏ったこの亀裂は、後世において【風の道】と呼ばれ、泉から伸びる亀裂の終着点には大きな池が出来ており、水と風の魔力が混じった【風神の浄化水】と名付けられた特殊な素材を採取出来る場として、宿場町が形成されて栄えていく事になる。


 「あっちゃ~。ゼストに渡した剣がとんでもない自体を巻き起こしてるんだが......見なかった事にしよう」

 「ケイ様の御力の一部なのですから、ゼストはもっと誇りに思って力を振るうべきです。これでダンケルクの絶望に拍車が掛かった事でしょう」


 イーリスはにこやかに微笑みながらゼストに謎の要求をしているが、そういう問題では無いのだが......まあいいかな。嫁が笑えばそれが一番大切なのだ。うん。


 【アネモイの神剣】 「レアリティ LG」

 東西南北を司る風の神の力を秘めた神剣。その力は凄まじく、天を割り、地を割く風の魔力を開放すれば神を殺す刃にすらなる神器である。

 ある時は突風など様々な力として顕現する風の魔力を秘めるが、オデュッセイアで語られるように馬として顕現する事も可能。

 自己意識を持ち、擬人化する事も可能である。

 余談ではあるが、所持者の理想を形にして顕現する為、アメリアの姿に変化した神剣にデレデレして、いたずらをしていたゼストがアメリア本人に発見され、一晩みっちり粛清を受けた事はケイだけが知る秘密である。



 「俺もイーリスたエリスの形をした武器とか作ろうかな?」

 「もう二人が口を聞いてくれなくても良いのならご自由に」

 「え?ちょっと待って!それは......」


 歩き去っていく嫁を追いかける至高神の情けない姿が後世に伝えられる事はなかった。


 「ふふふ、いやぁ、流石の至高神ケイ様も嫁には形無しだニャー」


 覗き見る不届き者は居たようだった......。

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