第62話リトア陥落

理解出来ない物でも見たかのように叫ぶリトアを見て、余裕の声を掛ける。


 「中々に良い読みだったよ。まさか計画をここまで邪魔されるとは思わなかったけどな」

 

 光の鎖を引き千切りながら右手を払うと、俺を閉じ込めていた結界が半分吹き飛んだが、神魔結界札が青く輝くと再度結界が形成されて閉じ込められてしまった。

 再生された結界と鎖の強度が前回よりも強化されているが、再度同じ動きで破壊する。今度は札が緑に輝くと更に強化された結界と鎖が形成された。


 「は、はは......ドラゴンでも破壊出来ない結界を破壊するのかよ!腕を振っただけで壊れるような強度じゃないんですがねぇ!?」


 プライドが破壊されたのか口調が乱暴になっていくリトアだったが、自分が焦っている事に気付いて感情を自制したようだ。

 結界に囚われている俺が脱出したらその顔がどうなるか楽しみだな。


 「出し惜しみはしませんよ。そのまま吹き飛んでください!」

 「さて、そう上手くいくかな?」


 球状に構築されていた結界だったが、リトアが札に起爆の意思を送ると同時に四角に形状が変化した。

 サイコロの様な形状に変化した結界だったが、6面それぞれの面に火・水・風・土・光・闇の別々の属性を発生させると互いに打ち消しあい始めた。

 属性が打ち消し合い消滅するエネルギーが増幅されていくと拘束が強力になり結界の強度も増していく。


 「これで終わりです!」


 激しく明滅した結界が縮小を始めると、視界が歪み始める。

 これで決まったと思っているようだが残念だな。絶望のどん底へ叩き落してやろうか。


 「終わらないけどね」

 「はぁ!?」


 拘束する鎖を無理やり引き千切り結界を殴り飛ばすと強い抵抗を感じる。

 殴った部分から全体へ向かってメキメキとヒビが広がっていくが、まるで時間が逆再生するように破損が修復されていく。


 「はは......ははは!そうだろ!?そうだよな?出てこられる訳が無い!」

 「そうかな?」


 2度3度と拳を打ち付けるとボゴンボゴンと衝撃が走り遂に結界を打ち抜いた。

 打ち抜いた穴からこちらに向かって炎が噴出するが、俺には効果が無い。


 「む?中々丈夫じゃないか?ふふふ」

 「おとなしく結界と共に消滅しろ!」


 更に収縮を始める結界を破壊すると、今度は稲妻が腕を突き抜けて全身に広がる。だが、この程度の威力ではダメージというダメージを受けることも無い。


 「流石にこれ以上遊ぶと痛い目に合いそうだな......らぁあああ!!」


 全身から魔力を爆発的に放射して全周囲に拳の連撃を放つとあっさりと四散した。

 本来なら結界を中心にその空間を崩壊させる術式が発動するのだが、破裂しそうになっていたエネルギーも残さず吹き飛ばした。


 「嘘だ!そんな馬鹿な事があって堪るか!大昔の強力な決戦兵器だぞ!?」

 「俺がそれ以上に強いって事だろうさ」


 尻餅をついて後ずさるリトアに向かって歩き出すと、最後の交渉に入る。


 「最後通告だ。良く聞けよ?お前に許されている選択肢は3つある」


 三本の指を立てて指折り数える。


 「一つ、このまま何もかも忘れて元の生活へ戻る。二つ、俺の配下に加わり今後の計画に協力する。三つ、ここで俺に吹き飛ばされて消滅する」


 俺の言葉にリトアがゴクリと唾を飲む。


 「1を選ぶならばこの依頼を受ける前の時間まで巻き戻してやろう。ただし、俺達に関わる一切の記憶を消去するし、次に敵対した時は問答無用で殺す。2を選ぶならば奴隷商を続けながら指示に従い行動してもらう。勿論だが、仲間になるんだから酷い扱いはしないと約束する。3を選ぶとは思わないが、もし選んだら来世が訪れる事は無い。魂まで粉々に消し飛ばす」


 ギラリと鋭い眼光を向けた俺だったが、リトアも格の違いがを思い知らされたらしく、即座に土下座して詫びの言葉を述べると頭を垂れた。

  

 「参りました。ケイ殿の傘下へ入ります」

 「その智謀を存分に生かしてくれ。これからの俺達にはリトアのような力が必ず必要になってくる」


 へたり込んだままのリトアに手を伸ばして握手する。


 「詳しい計画内容や俺や仲間については後から時間を設けてじっくり話をしよう」


 教育という名のお仕置きへ向かったレヴィアたんを心配しながらも、計画が次の段階に進むのは時間の問題だった。

 



 土砂の除去を行って疲労困憊にあるダンケルク達の一団に向かって、アメリア達が攻撃を仕掛ける所だった。


 「遠距離部隊は攻撃を止めるんじゃないよ!結界は展開できないように細工してあるからね!」


 俺が渡した結界封じの魔道具を使用したらしく、ダンケルク側の騎士達は結界で魔法を防御する事が不可能になっている。

 後は数の暴力で押し切りたい所だが、ナイト達は魔法防御も高いし装備も一級品だ。ジワジワと体力を削っているが、回復薬を飲んで耐え忍んでいる。


 「焦るんじゃ無いよ!アイテムだって無限じゃないんだし、後はゼストが上手くやってくれるはずだよ」


 アメリアがそう叫んだ直後に、ダンケルク達の背後から奇襲を掛けるゼストの攻撃部隊が現れた。


 「さぁ!決着にはまだ早いが、ここで一つ痛い目に合って貰おうか!」


 遠距離からの魔法支援だけではなく、地面に仕込んだ魔道具を起動させると地面に大規模な陥没が発生した。

 ズズンと3メートル程地面が下がり、直径30メートルの巨大な大穴が出現する。慌てて落下に備える騎士達だったが、ダンケルクや奴隷達の乗った馬車にダメージが入らないようにカバーを入れる。


 「自分だけを守っていれば良かった物を。どうせあっちはケイ様の手の上だから死人なんか出るはずが無い」

 「そのように余裕で居られるのは今の内だけだ!はぁああああ!!」


 ゴウッ!と風を切りながら振るわれたグレートソードに反応したゼストは、そのまま放たれた二度目の追撃を回避してゼストが後方へ宙返りする。


 「む!?かなりの腕と見た!襲撃犯の頭目だな?」

 「さてな......真実を聞きたければその剣で語れ。もっとも、お前にそれが出来ればだがな?」

 「抜かせぇええええ!!」


 ギィイイイイン!と剣同士がぶつかり合い金属音が当たりに響く。

 襲撃計画第一段階、ラストステップへと突入した合図だった。

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