第61話誰が呼んだかレヴィアたん!

 転移した俺は、ドラゴン達の群れの中でも一際大きい個体を見つけると声を掛けた。

 4メートルの体長がある竜の目線に浮かび上がった俺を目に留めた竜がこちらに反応する。 


 【守護竜 ブリザード 】LV 47456 種族 シヴァリスドラゴン


 「シヴァリスの眷属だな?攻撃を止めて泉へ帰ってくれないか?」

 「泉を汚した不届き者を生かしておく訳には行かぬ。邪魔をするな!」


 まるで人間風情がとでも言わんばかりに会話を打ち切ると、こちらに向けてブレスを放ってきた。

 蒼き水竜の放つブレスは、ダイヤモンドダストの如く吹き荒れる氷の嵐そのもので、防御した俺は無傷だったが、背後の平原は氷の柱が無数に突き立つ表現へと変化していた。

 現実世界のようにホワイトアウトを起こすほどでは無いが、環境変化を発生させる力を秘めているので、継続してそこら中に放ち続ければ、辺り一帯が融ける事の無い氷原に変わるだろう。


 「おいおい、シヴァリスのヤツはどんな教育をしてるんだ?相手の力量も計れない癖に守護竜を名乗るのかよ」

 

 ブレスを受けて吹き飛んだと思った俺が無傷でそこに浮いている事に驚愕したようだが、強硬な姿勢を解く事は無く、さらに威力を高めたブレスを放とうと力を溜めているのが分かる。


 「目の前で我が主を愚弄するとは愚かな......よもや生きて帰る事が出来るとは思っておるまいな?」

 「トカゲ風情が随分と思い上がったものだな?いや、井の中の蛙ならばトカゲですら無いか?」

 「人風情が高位存在たる竜を前にして気が狂ったか?消し飛ばしてくれるわ!」


 限界まで収束された冷気のブレスを放つブリザードだったが、今度は後ろまで冷気が届く事も無く、眼前に晒された結果を見て愕然とした。

 尋常では無い魔力が吹き荒れて魔法陣が描かれると、中から何かが飛び出してブレスを受け止めているのだ。


 【レヴァィアたん】LV 98409 種族 異海の魔王


 「ケイ!久しぶりだねぇ!元気?元気だった!?」

 「問題無いぞ。それよりもブラックホールを生み出したつもりが、魔力を喰らい尽くして現れた説明を」

 「簡単だよぉ!躾のなってないトカゲをぶっ飛ばしにきたのさ★」


 残像を残して掻き消えたレヴィアたんがブリザードの下に現れる、それと同時にズン!と鈍い音が響くとブリザードが宙に浮かび上がった。

 ブリザードが悲鳴を上げて反撃しようとするが、何時ぞやのレヴィアたんの如く抵抗する事すら出来ずにボロ雑巾にされていく様は、見るもの全てに恐怖を植え付けただろう。

 逆に体を凍らされながら殴られ続けて砕け散る鱗、飛び散る血、折れる牙......同情の涙が止まらない。

 

 「こらトカゲ!クタッとしてないで早く眷属を泉に帰らせなさい!どうせ自分達が人間の罠に嵌まっていいように使われた事も気付いてないんでしょ?」 

 

 力の無い声で「クォー」と鳴き声(泣き声?)を上げると、こちらを見守っていた竜達が一斉に踵を返して急いで泉へと帰っていく。

 自分達の長が抵抗も許されずに屠られた現状を見せ付けられて、恐怖に染まった視線を彷徨わせていたが、逃げ道を提示されてその提案に飛び乗ったという所だろう。


 「ちょっと教育してくるね!」という言葉と共にズルズルとブリザードを引きずって走っていくレヴィアたんであったが、この調子だとティアマト形態に戻ってシヴァリスも教育と言う名の折檻を受ける事になるだろう。


 (ケイ様!主ですよね!?助けてくださいよぉ!)

 

 声が聞こえるのと同時に正面の空間に亀裂が生まれ、シヴァリスが顔を出す。

 

 「うん......無理だね♪」

 「そんな!?助けてくださいよ......にぎゃあああああああ!」


 空間を突き破って顔を出したシヴァリスだったが、背後から伸びてきた腕に耳を捕まれて自ら生み出した空間の裂け目に引きずり込まれていった。運命からは逃げられなかったよ......というヤツである。


 

 突如として泉側から現れた竜達の襲撃を受けたダンケルク達だったが、防壁魔法と魔道具による防御魔法の連発で難を逃れたようだった。

 突然の攻撃だった為【女神の楯アイギス】が姿を消した事は疑問に対する疑問よりも、無事帰る去っていく竜達にダンケルクは安堵のため息を漏らした。

 九死に一生とはこの事だろうと思いながらも、離脱していった襲撃部隊を警戒しながら丘を塞ぐ落石の除去を始めた。


 「理由は分からんがドラゴン達が引いて行った今がチャンスだ!土砂の撤去にかかれ!」


 ダンケルクの掛け声に反応した騎士達が周囲を警戒しつつも作業に取り掛かる。

 消耗した体力と魔力を複合回復薬で癒しつつ、土魔法で道を広げていく姿は流石としか言いようが無い。先ほどのドラゴンの群れを前にした時すら恐慌状態にならなかったのは、自信と経験から来る誇りがそうさせるのだろう。


 

 ダンケルクの様子を遠くから伺う影が一つ。望遠鏡が映し出すのは、100%死ぬはずだった公爵の姿だった。

 これまで生きてきた中でも指折りの看破で計画を見通し、そこに自らの企みを乗せたのだが、見事に失敗に終わった事に驚愕するリトアであった。


 「これは予想外ですね。まさか守護竜を退ける力を持った存在が敵とは......こちらの存在に気付かれた可能性すら視野に入れておかねばなら......」

 「ご明察の通りだぜ?俺もお前みたいな策士が相手に居るとは予想していなかったよ」


 突然背後に現れた気配に飛び退いたリトアは懐から札を取り出して投げつける。


 【神魔結界札】「レアリティ SSR」

 強力な魔力で相手を封じる力場を発生させる札。

 対単体での拘束力は強大で、ドラゴンすら赤子の如く容易く捕らえる。

 結界の力をそのまま破壊へと変化させる事が出来るので、中に囚われてしまえば生きて出るのは難しい。

 砕いた魔石を龍の血液で溶かしたインクを使用しており、世界樹の皮に結界魔法の刻印を刻んでいる。

 遥か昔、神族と魔族が争った時代に使用された決戦兵器だが、現存する数は極めて少ない貴重な品物。


 札が光を放ち効果を発揮すると、強力な結界が発生して俺を覆った。

 バリバリと稲妻が宙走りながら構築した結界は輝きを増していき、内部では光の鎖を生成して俺を捕らえた。


 「油断しましたね?自信家の相手ならば姿を現すと思っていましたよ?手痛い出費となりましたが、貴方ほどの力と智謀を持つ人ならば、その蓄えも人並み外れているのでしょう?」


 我が掌で踊れと言わんばかりの自身に満ち溢れた言葉だったが、ふと思い立った俺はこう言い返した。


 「孔明の罠か......俺も焼きが回ったようだ」

 「コウメイと言うのが何か知りませんが、我が智謀には敵わなかったという事ですよ」

 「蓄えねぇ......これとか、これとか?これなんかも?」


 アイテムボックスからドサドサと零れ落ちるアイテムの山、山、山。

 聖剣、魔剣、聖杖、魔槍、聖杯、宝玉、王冠、聖鎧、賢者の石、オリハルコンインゴット、エリクシル、アムブロシアー、ネクタル......見た事も無いような財宝が雪崩のように空から零れ落ちてくる。


 「おや?黙ってしまってるじゃないか。予想通りだっただろう?」

 「あ、ああ......貴方は一体何者なんだ。どうして!子供にしか見えないその外見も不思議だが、なによりもその反則的な財宝の山は何なんですか!この大陸にある全ての国の宝物庫を開帳してもそんな馬鹿げた量の宝物は出てきませんよ!」

 「何か悪い事でもしただろうか?アイテムボックスの内容量からしてもまだ1/100000も見せてないんだが?......なぁ?聞いてる?」


 降り注ぐ財宝の雨は邪な気持ちなんか全て押し流してしまった。 

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