第41話時を越える者と使役されし竜姫3

翌日からは散々だった。

 今までの静寂が嘘の様に慌しくなった。

 

 どんな形で終わるのかわからないが、後2日経てば終わりが訪れる。

 なのに、周りが私を放っておいてくれない。

 生きたくないのか?望みは何なのか?何が悪かったのか?......そんなの知らない分からない。どうしてこうなってしまったんだろう。

 今まで抑えていた感情を全てぶつけるかの様に、ありったけの思いをぶつけてくる4人の公爵達。


 自分に足りない物が何なのか見つからない。何がしたかったのか分からない。

 空虚な心の中に疑問が、自分への問いかけが生まれては消えていく。

 無味無臭の世界に苦味が生まれ、痛みを感じ始めた。


 あの悪魔が言った言葉にはどんな意味が隠れていたんだろう。

 

 「そうですか。私には貴方がもう一度違う選択を望む気がしたのですが......見込み違いでしたかね?」


 もう一度違う選択?私は何を見込まれたんだろうか......イライラする?不快なこの感情は、何かに対する苛立ちを感じたのはどれ位昔の話だろうか?

 

 「最後の日は3日後です。それまでに貴方がもう一度答えを見つける事を祈っています」


 誰かに期限を決められて、それが目前に迫る事に焦燥を感じる。最初は終わりを待ち望む空虚だけが支配していたはずが、今となっては自分に答えを問いかけ続けている。

 ラプラスが消えた場所を無意識に見た私の目には、溶けて消えたはずの砕けたオーブの破片が入った。

 

 キラリと光る破片が気になって、手を伸ばした私の意識は過去へ飛ばされた。

 王となる前の自分、四公爵と呼ばれる以前の友達との出会い。

 忘れ去った過去が胸の中に蘇る。あの頃は毎日が輝いていた。

 理想を語り、夢の実現に向けて走り続けた。


 そうか......形になった理想に飲まれて翼を失ったのね。

 私は......私はどうして大切な想いまで置き忘れてしまったのだろうか。

 建国してからも初めは楽しかった。それが大きな決断を迫られる事が多くなり、大を救う為に小を切り捨てる等と、自分の決断一つで沢山の命が失われ、救われる命がある。

 その重圧と痛みが心を蝕んでいき、私を壊した。

 昔に語っていた青い理想は、王を知らない私だからこそ言えた事だった。

 現実を突きつけられた私は決断を重ねる毎に壊れていった。


 国力が上昇して、大国と数えられる頃には私が真祖だという事が知れ渡り。国主達が不老不死を求めて頭を垂れる頃には、磨り減って磨耗した心が残された。

 ここまで来ると統治するのは私では無くても良くなり、次第に四公爵へと任せることが多くなった。

 彼女達も私の心労を分かっていたのだろう。

 

 その積み重ねが今に至る。

 

 「ローゼンシア様、お望み通り滅びの日をここに」

 「最愛なる我が主、貴方を救えなかった私に出来る最後の奉公です」

 「ローゼ様、本当はもっと一緒に居たかったです」


 「先に行って待ってますね。ローゼ、竜としての体裁を取り繕った芝居も楽しかったですが、やはり最後の時は人の姿で終わりを迎えたかった。誰よりも長き時を共に歩んだ者として、滅びを迎える時も共に」


 ラプラスが私の気持ちを四公爵に伝えたのが原因だった。

 彼女の能力で過去からの痛みを彼女達に伝えたようだった。

 

 「結局、誰が悪いわけでもなく私自身の弱さが全ての引き金になったのね。それに気づくのが遅過ぎたわ」

 「それに気付く事が出来たのならば重畳。契約以上の事をするのは悪魔としてどうかと思うのですが、最後のサービスです。貴方の行く末に幸福があらん事を」


 時間停止の術式と遠距離転移術式の起動までは確認したが、そこからは記憶が飛んでいる。

 彼女の術式は、代償を彼女の魔力と私達2人の魔力と生命力にしていた為、この時代に飛ばされてからも回復まで100年単位での時間を必要とした。

 そこから先は知っての通り、採掘するコボルトとオークがこの空間を発見したというわけだ。


 「愚かな私だけど、間違いを犯したままにはしておけない。貴方ほどの力があれば、時間の逆行も可能なのではないかしら?」

 「可能ではある、逆行する時間に応じて莫大な魔力を必要とするが不可能では無いよ」

 「それなら、貴方に従う対価として過去の改変を望みます。それが叶うならば全てを捧げましょう」

 「今に至る世界が崩壊する事になる。それは出来ないな」

 

 俺の答えが分かっていたのだろう。

 やはりといった表情で俺の答えを受け取った彼女は悲しみに沈む。


 「でしょうね。それがどういう事か分かっていて口にした私が馬鹿なの」

 「おいおい、話は終わっていない。条件付ならば手を貸しても良いぜ?」


 俺が口にした返答に、彼女は驚愕した。

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