第42話時を越える者と使役されし竜姫4
「ほ、本当に協力してくれるんですか!?」
「ああ、未来が大きく壊れるようなのは好きじゃないんだが、俺も少々試してみたい事があるんでな」
俺が考えたのはこういう事だ。
そもそもどうやって、過去と未来が繋がっている事を証明するのか?可能性の枝はというのは無限にあり、その時その時判断した事象が積み重なって構築されていく物だ。
パラレルワールドという言葉をご存じだろうか?並行世界、並行宇宙、並行時空なんかを題材にした作品はSFの中では特に話題になる事柄だと思う。
こちらの世界ではこういった概念はあまり知られていないが、魔法という物がある以上はこういった時間に対する解釈や理論を考える者は少なからず存在するのだ。
ここで俺が展開する理論は、現在を過去に繋げる事で、過去を改変する。
その段階で、自分が欲しい結果だけを抜き出す事は可能なのか?歴史が、世界が矛盾に対して修正を掛けようとする段階に介入する事は可能なのか?という事だ。
といっても、歴史を動かしたい訳では無く、人を救う事が根底にある実験だ。
本来死ぬべき人間が死ななかった場合、歴史に及ぼす影響力が強い人間は、現在を書き換えるだろう。
しかし、何も起こさずに誰にも知られないまま過去から現在へ移動した場合は、そこまで大きな変化をもたらすものなのだろうか?俺はそこが気になるわけだ。
おそらく、ローゼンシアとセレスタイトの死後は、殺害をした3名達は各々が相応の死を自分に課しているだろう。
彼女達を救う事は可能だ。その結果未来へ与える影響を帳消しにするにはどうすれば良いか?救った後に、本来存在しない人物がこの世界へ与える影響はどうなるのか?という事になるのだ。
そこを考えるに、全力を使って未来を改変しようとする俺というが存在する世界も同時に存在するならば、少しだけ時を改変する俺という存在が与える影響力という物は如何程なのか?
ややこしいが、俺がやりたいようにやった結果だけが俺の今であり、現在になる。という結論じゃダメなのだろうか?過去を変えた影響とか、ぶっちゃけどうでも良いんだが?という過程を投げた結果がどうなるのか知りたいのだ。
悪影響が出た場合に、時間を巻き戻したら世界はどうなるのか?主観的には過去に戻るんだろうが......俺が思うに、この結論は第3視点、第4視点からの観測者にしか理解出来ないのではないだろうか?
というか、この理論を考え始めるといつも思うのだが、俺がたった今過去を破壊したとしよう。
それを見ている誰かが居て、その誰かを見ている誰かが居て、その誰かを見ている誰かを見ている誰かが居てと......キリが無くなる話題である。
結局、世界というものに縛られる存在である以上は、それよりも上の視点に立って何かを成す事は不可能だ。
これは己の主観が全てというのが、一つの答えなんじゃないだろうか?
変化を感じ取れなかったら、その変化を観測しなかった者にとっては無かったも同然である。
俺はそれが怖いので、過去はなるべく変えたくないというのが、本音だ。
自分にとってのこれからが変化する事に関しては、自己責任って事で良いじゃないかとも思う。
今の俺にとって大切な存在が変わらず隣に居てくれるという事実以上に大切な事などありはしない。
それ故に、過去を改変するならば、慎重に準備する必要がある。
それから10日経った。
俺の全魔力を遅延術式で10日分チャージしたMP56994420を時空魔法へ変換した。
【時の扉タイムゲート】は現在と過去を繋げる扉へと変化すると、座標を固定した。
「準備完了だ。この扉は俺が解除しない限り1日は維持可能だが、すぐに結論を出して引き返すぞ。ティンダロスの猟犬が嗅ぎつけてくる前に事を成さないと厄介な事になる」
「分かりました。ですが、私が全てを覚悟した以上、彼女達が否を唱える事は無いでしょう。アレは私の未熟が招いた破滅なのですから」
俺は扉を開けると、ローゼンシアとセレスタイトを連れて過去へと旅立った。
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