第38話坑道の闇の中

 コボルト達の参戦で更に勢いが乗った俺達は、コランダム大森林を開拓しながら、鉱山の採掘にも手を出した。

 大森林の中にはいくつも頭を出している岩山が点在する。

 大地全体に土のマナが豊富なせいか、採取できる薬草類も高品質な物ばかりだし、材木や鉱石も上質な物が多いのだ。

 商人達が目の色を変えて辺境と商売先を行ったり来たりするのは、そこに原因がある。


 「アーネストと話をしていたんだ。この辺境は金になる。長い間モンスター達に守られてきた、莫大な資源が眠っているからだ」

 「我々にとっては食料こそが貴重であり、人間が欲しがるような物は大して価値があると思っていませんでしたからね。唯一価値があるとするならば、宝石や金銀ミスリルなんかの希少な鉱物関係でしょう」


 シウス達オークには鍛冶技術を持った者が数名と、襲って捕獲した人間の中に鍛冶師が数名居るだけで、次々と採掘される鉄、錫、銅などの鉱石を使い切る事ができなかった様だ。

 築き上げた地下王国には、山のような鉱石が精錬されないまま積み上げられていた。

 王国の需要など遥かに超えて、周辺国家の分を賄っても余るほどに莫大な財を溜め込んでいたのだ。


 「これまでの3世代分程はあるでしょうな。王国を拡大しながら住居を用意する必要があったとはいえ、掘れば掘るほどゴロゴロと出てくる物ですから、こちらも困っておりました」

 「あれくらいならこっちの部族だって溜め込んでいるワン。コボルト族は鉱石の価値を知っているから、子々孫々皆が捜し求めて、全力で貯め続けてきたんだワン。ミスリルだけじゃないワン!蒼魔銀コバルト鉱石だってふんだんに備蓄してあるワン」


 このワンワン言ってるのは、コボルトエンペラー......という名のパピヨンへ進化している。コボルト達の王的役割をしているような感じの、外見は子犬そのものだが、最年長らしいワンダー君だ。

 コバルト鉱石があるのは素晴らしい。単体では価値が無いがモリブデン、ニッケル、クロム、タングステンなんかと合金にすると、素晴らしい価値の金属へと変わるのだ。

 化合物は組み合わせによって様々な発色をするので、顔料としても使用する事が出来る。


 「我々オークよりもコボルト達の方が鉱石には詳しいでしょう。敵だったとはいえ味方となると頼りになるのが分かり、私も同族達へ説明しやすくなりました」

 「こちらこそ、ケイ様がきっかけとはいえ、力に秀でたオークと協力する事で、これまで以上の高効率で動ける事が出来ると確信しておりますワン。過去には色々あったが、これからは共にケイ様を支えていくんだワン」


 いつの間にか仲良くなっている2匹だったが、王そっちのけで将軍が交流を深めている現状はどうなんだろうか?......え?王が未熟を悟って引退?シウスから指導を受けて一から勉強し直すだって?......なるほど、シウス凄いな。


 こうして2つの部族が溜め込んでいた大量の鉱石類は、アーネストが備蓄地点としてレッドストーンに作り上げた大規模な倉庫へと移送されることになった。

 保管庫内部は、俺の次元魔法で拡張されており、既に国庫の20倍という物資が収められているが、1割も埋まってないあたり、俺が張り切り過ぎたようだ。

 しかし、この1年でこれならば、これから開拓されていくこの辺境地域がどれだけ宝に溢れているかが分かって貰えると思う。


 「ケイ!坑道の奥が大変な事になっているらしいよ!」


 エリスが駆け込んできたのは、坑道の奥での出来事が原因みたいだが、一体何が待ち受けているやら。

 皆で坑道の奥を目指すと、最奥の地点に巨大な亀裂が走っており、その亀裂を超えた先に巨大な空間が広がっていた。

 奥に来るまではジメジメとした中で、光魔法が照らす中を走りぬけた為、少し暑苦しく感じていたが、亀裂の奥に入るとひんやりとした空気に変わった。

 何かあるな?空間全部を照らす事が出来るだけの明かりを俺が出した時、俺達は全員が驚愕の表情を作る事になった。


 壁一面に残る骨、骨、骨。巨大な物から小さな物まで壁一面にびっしりと骨が埋まっていた。

 ここは墓場、過去の繁栄がそのままの形で残された場所、時の悪戯によって出来た、現在と過去が邂逅する奇跡の空間である。

 この坑道を掘った山は、地殻変動で古い地層が隆起した場所だったんだろう。


 俺は前世の知識を持っているから理解出来るが、これは何も知らない人が見れば恐怖を感じるだろう。

 巨大な恐竜の化石がこちらを見つめているようにも感じられる。

 しかし、よく考えてみると俺の知識は現代の物だが、こちらはファンタジー世界なわけだ。

 そう考えると、竜には高度な知識が無かったのだろうか?死体を残して簡単に死んでいくだろうか?たくさんの予測が頭の中でグルグル回り始める。


 「すっごいねケイ、これは何?骨が壁一面に埋まってるよ?」

 「これは化石って言うんだ。専門的な知識を持っているわけじゃないから詳しくはいえないけど、ずーーっと昔、1000年とか2000年とかじゃなくて、その何十倍も何百倍も昔の世界が石になったのがコレさ。死体や植物なんかが、海や湖のそこに沈んでから泥や砂が積もって積み重なっていく、それが繰り返されると重みで固められて化石になるんだ」

 

 ギギギ......ミシミシ


 天井からパラパラと砂が落ちてくる。嫌な感じがしてきたぞ。変な音もするし......もしかしたら俺の予想が当たってしまった可能性がある。


 バキバキ、メキィ......バキン!


 壁が大きく振動して所々にひびが入り始めた。これはもう確定だろう、過去と現在が本当の意味で邂逅する事になりそうだな。

 ひびは大きくなり、どんどん広がっていく。天井から落ちてくる砂に石が混ざり始めたので、魔法で全体に防護壁を張る。


 「ここは危険だ。みんな撤収するんだ!後は俺と嫁達で引き受ける」

 「ちょっと、大丈夫なの?カイが居れば問題無いだろうけど、何が起きるか分からないよ?」

 「ふう、エリスは落ち着きなさい。我々をどうにか出来る存在など極々僅かです。貴方が手に入れた加護は常人の壁を一つ破った先の力を手に入れる加護なのですよ?」


 コボルトやオークを避難させるシウスとワンダーを横目に、俺達3人が会話をしている間にも亀裂は大きくなっている。

 やがて岩壁を突き破って、ボゴンと骨が突き出す。

 バラバラと破片が降り注ぎ、防護壁に弾かれていく。

 天井付近や、正面の壁で目覚めようとしている何かは、次第に存在感を増し始める。

 濃密な魔力が部屋に充満し始めているが、弱い者はこの魔力だけで魔力酔いを引き起こして倒れるだろう。

 

 バァアン!と爆発でも起きたように化石が吹き飛び、天井から、正面の壁から強い力が解放された。


 「GYAAAAAA!!!!」


 濛々と辺りを漂う土煙を、巨大な咆哮が吹き飛ばした。

 ようやく視界が開けた。俺達が目を向けた先には......。

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