第37話コボルト救出
何だあいつは?目的のコボルト族を見つけたと思ったら、体長5メートルはあろう大蛇が暴れ狂い、洞窟に築かれたコボルトの拠点を襲っている。
「槍隊前へ!蛇をこの先に通したら負けだぞ!女子供を守るんだ!」
リーダー格だろう上位種のコボルトリーダーがそう叫ぶと、槍を装備したコボルトが後列から前列へ移動する。
シャー!と威嚇しながらバクリと口を開ける大蛇は、牙から毒液を滴らせながら獲物の様子を伺っている。
何十もの槍の穂先を向けられた大蛇だが、突き出されたコボルトの槍など脅威とは思っておらず、次々とその毒牙の餌食に変えていく。
強固な鱗が槍を先端を弾き飛ばしてへし折る。
勢い良く次々と槍を突き立てるが、一本も鱗を突破する事は無かった。
正直な所、相手が悪すぎるだろう。非力なコボルト族では、よほど素晴らしい装備でも持たない限りジャイアントアサルトヴァイパーへダメージを与える事すら困難だろう。
「鱗が駄目ならここはどうだぁあああ!?」
先ほどのコボルトリーダーが俊敏なフットワークで近づくと、左右へフェイントを掛けて毒牙を回避する。
そして、ついに槍の穂先が大蛇の目を捉える。
ゾブリと柔らかい物を刺し貫く手応えがあり、槍が大蛇の眼球を刺し貫いた。
ビクンビクンと震えた大蛇は激しい痛みに耐え切れず、ビタンビタンと跳ね回っては周囲を囲んだコボルト達を跳ね飛ばす。
「やったか?」
ベキリと穂先が折れた槍を捨て、地面に落ちている仲間も槍を広いながら、コボルトリーダーがつぶやく。
おとなしくなった大蛇だったが、今度は憤怒に染まった荒々しい鳴き声を上げながら近づいてくる。
その動きは俊敏で、地面に移動の後が残るほど力強く激しい動きをしながらも、今までの倍の速度で動き回る。
食い殺す事など考えず、一匹残らず殺してやるとばかりに、コボルトを轢き殺し、絞め殺し、噛み殺す。
「JYARARARARARA」
舌を震わせて鳴き声を上げる大蛇の殺気が濃密になり、いよいよコボルト達が死の覚悟を決めた時、救いの手が差し伸べられた。
砲弾の様な速度で飛び込んできた人間が、大蛇の頭を蹴り飛ばし、体ごと洞窟のある岩肌に叩き付けたのだ。
その威力は凄まじく、叩きつけられた蛇の形に岩が凹んでいる。
「大丈夫か?助けるのが遅くなって済まない」
「助ける?なぜ人が我々を助ける必要がある?我々は手先になったオーク達とは違うのだぞ?」
「命を救うのに理由が必要か?それに、俺はお前達と敵対した覚えなんか無いんだが?」
その人間は、両手に1メートル程の氷の槍を作り出すと、大蛇へ投擲した。
【氷槍アイシクルランス】
壁に埋まったまま動けないでいる大蛇を刺し貫くと、ビキビキと体中に氷が広がり、完全に凍り付いてしまった。どれだけの魔力が込められていたのだろう?ここまで濃密な水の魔力が伝わってくる。
地面に霜柱が出来始め、冷気が漂いだす。環境を変えるほど馬鹿げた魔法の行使は聞いた事が無い。
「そうか、それでも助けられた恩を無かった事にするほどコボルトは恥知らずでは無い。いまこの瞬間より私が従える部族は、お前の指揮下に入ろう」
洞窟の中には他の部族や、コボルト全体を統括するコボルトエンペラーが要るらしい、ならば、今回の事件について説明しておくついでに、仲間に勧誘してみよう。
好都合な展開にウキウキしつつも、コボルトリーダーに案内を頼むと、快く引き受けてくれた。
彼の名前はトリル、年齢は9歳と聞いてびっくりしたが、モンスターは成長が早く成人という概念が無いので、戦えるようになったら一人前らしい。
コボルト族は、簡単に言えば二足歩行する犬だ。目の前にいるトリルはゴールデンレトリーバーに服を着せたような可愛らしい存在である。
モフモフしたくなる感情を抑えて、後に続いて洞窟を進む俺だった。俺と会話をするのが楽しいのか、目の前でブンブンと左右に振られる尻尾が目に入る。
コボルトってば超カワイイんだけど!?エリスを連れて来ていたら大変な事になっていただろう。
様々な犬種が揃っているので、チワワなんかが出てこようものなら、俺もノックアウトされてしまうかもしれん......異世界恐るべし!この展開は予想していなかった。
こうして洞窟を進んだ先には、戦えない女子供が集まっており、子犬の群れを見つけた俺は、心の中で尻尾がブンブンと忙しなく動いてしまったが、表情はニコニコしたまま、もう大丈夫だよ?とコボルトジュニア達の頭を撫でていた。
ここで、俺の撫でるスキルが効果を発揮して、撫で撫でを順番待ちする行列が出来てしまったのは内緒だ。
ちゃっかりと並んだトリルのウットリした表情を見せてあげたかったよ。
どこでフラグが立っていたのか分からないが、コボルト達をあっさりと仲間に加える事が出来た。
コボルトエンペラーと言いつつも、プルプル震えるパピヨンが玉座に座っている光景は、ネタにしか見えなかった。
こうして、役に立ったらケイから撫でて貰えるという、謎の決まりが浸透して、事ある毎にコボルトの頭を撫で撫でする仕事が発生した。
それを見て対抗する嫁や駄姉、妹に先生に元同級生と腕がだるくなるほどに撫でまくった俺は、これが日常にならんだろうな?と密かに戦慄したのだった。
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