第36話戦後処理とこれからの展望

オーク達は、一度帰国する事になった。

 洞窟の奥に作り上げた住処は広大であり、蓄えもそれなりにある。

 そこで暮らしたいと言う者も居るだろうし、今回の事が切っ掛けになるとはいえ、人間にもオークにも内容について納得がいかない者はいるだろう。


 今回の戦いの為に一時的に廃棄状態となっていた開拓村も復興しなければならないのだが、4つの村の長と話をした所、協力して1つの大きな町を作ろうという話になっていた。

 そこにテストケースとして、オーク達を住まわせる場所を作る事にした。

 

 元々前線は人手が不足しているのだ、何人増えても足りるという事は無い。信頼は自分の力で勝ち取るしかないので、厳しいようだが彼らには頑張って貰わなければならない。

 

 こちらで生活するメンバーを選抜した後に、こちらへ戻ってくる事になっている。

 緩衝材代わりに、【旋風の牙】と【鉄鎖の絆】を常駐させる、暫くは王とシウスもこちらに残る予定となっているので、揉め事にはならないだろう。


 オーク達の王国側からの開拓班はともかく木を切り倒して、木材の確保と切り株の除去作業をお願いした。

 街を作るには大量の木材が必要だ、それに石材も必要になってくるだろう。コランダム大森林の中ならば、木材と石材のどちらも高品質の素材を手に入れる事が出来るだろう。

 だが、オーク達が味方になったとはいえ、モンスター出没地帯なのだから油断は出来ない。

 ここらの縄張りには、オークと敵対しているコボルトも居るのだ。


 「なぁ、シウスはコボルト達と戦った事はあるよな?」

 「無論です。我々は縄張り争いをしている間柄、不倶戴天の敵とまでは申しませんが、お互いに争うネタは尽きませぬぞ?」

 「なるほど、だが意思の疎通は出来るんだな?」

 「はぁ、まぁ会話をする位ならばあやつらでも可能でしょうな」

 

 ならば、次はコボルト達を口説くとしようか。

 彼らの小柄な体躯は、目に付きにくく斥候として非常に優秀である。能力やスキルも偵察向きの力を持っているし、坑道の採掘作業も得意なのだ。

 力仕事に秀でているオークとタッグを組ませれば更に高い効率で成果を挙げてくれるだろう。


 「まずは、コボルトを従えようと思う。これから目指す国の形を実現するには、彼らの力も重要になってくるだろう」

 「我々モンスターを従えたいならば、力と勇姿を見せ付けるのが宜しい。我々は強い者、賢い者に従い尽くす事を誉とします」

 「人間と違って素直で良いな。従う振りをして寝首を掻くなんて平気で行うのが人間だ。モンスターの在りようはとても貴重な物だと思うよ」

 「他でもないケイ殿にそう言って頂けるとは光栄です。未熟な王ですが、我々が命を賭けて尽くしたのは、その命を己の為だけで無く、理想を実現する為に、我等全てに豊かさを享受させる為に戦い続けたからです」


 これからはこの辺境を大きく拡大してアーネストに、インフィナイト王国に力を付けさせなければならない。

 国家を巻き込んだ大穀倉地帯の形成には、圧倒的な規模での食糧生産技術と莫大な規模の土地が必要だ。

 既存の土地の殆どは用法が決まっている為、俺達がこれから切り開いていく土地が肝となる。

 モンスター達の力と人間の技術が合わさった、これから作っていくシステムは、これまでとは隔絶した規模と生産能力を有する事となるだろう。


 「俺達は大陸全土の食料供給を握る。質と量を兼ね備えたインフィナイト王国産というブランド力を高めていく事で、食料の供給を我が国とその周辺国家を巻き込んだ、大規模食糧生産連合国へ依存させる事で、胃袋を押さえる」

 「なるほど、その豊かさとケイ殿の強さがあれば、我々モンスター達は殆どがケイ殿に従うでしょう。いっその事、モンスター全てを支配する魔王として君臨なさると宜しいのでは?」

 「ああ、何かやだなそれ。いや、モンスターが嫌いとかじゃなくて、平穏に生きて生きたいんだが......今更か」

 

 俺は好き勝手に生きる代償として、巻き込んだ皆を幸福へ導かなければならない。力には責任が伴うように、誰かの人生を自分の都合で書き換えたのならば、より良い方向へ導く義務があると思っている。

 自分の意思に妥協しないで生きるというのは、身勝手に生きる事ではない。少なくとも俺にとってはそうだ。


 「また難しい事を考えているのですね?ケイ様は思うが侭に振舞ってくだされば良いのです。貴方が歩む道が私達が進む道となるのですから」

 「どうなっても絶対に付いて行くんだから!離れろって言っても無駄だからね?永遠......なんでしょ?」


 やれやれ、どうも最近の俺は難しく考えすぎるようだ。

 常に付き添ってくれる彼女達を、誰よりも大切にして生きていくんだ。一番シンプルで重要な事を見失ってしまっては駄目なのだ。


 「ありがとう。走り続けたこの先には、何が待っているのか分からない。もしかしたら、人の一生なんか何回費やしても、この世界を全て回るなんて出来ないかもしれない。それでも、2人が居てくれたらきっと幸せに生きていくことが出来る」

 

 やっといつもの調子を取り戻した俺を見て、2人は顔を見合わせるとこう言った。


 「当然です。この鎖が結ばれている限り、絆もまた永遠です」

 「責任取って貰わないとね!花嫁を置いていく花婿なんて居ないでしょ?」


 俺がこの世界で手に入れた誰よりも大切な存在。

 彼女達の信頼に答えられる男になろう。前世では出来なかった事も、今生ならば何でも実現出来るはずだ。

 敗北を重ねて卑屈になっていた自分とはここで決別しよう。


 「俺達がこうやって動いている間にも、王都ではバルド達が動いてくれている。辺境を拡大するだけではなく、俺は奴隷を解放して自由な暮らしをさせてあげたい。仕事を与えて自活出来るように、やがてh家を構えて家庭をもち持ち、幸せを手に入れて欲しい」

 

 そうだ。俺は国を手に入れて奴隷達の地位を向上させてあげたいのだ。悲しみの連鎖を断ち切るには、更なる努力を積み上げなければならない。

 一つを考えると、もう一つが零れていくでは駄目なのだ。傲慢だが全てを救い上げて行きたい、その為には俺の力だけじゃ無理だ。皆の力を借りてより大きな流れを作り上げなければならない。

 俺には信頼できる仲間が足りない。自由に動かせる手足が必要だ。


 「求める予想は果てしなく、駆け抜ける道は険しく頂が見えない程の遥か彼方。だから皆の力が必要だ。イーリス、エリス、俺はまだまだ未熟だけど、一歩一歩確実に前に進んでいく。その中には、君達が取りこぼした何かを拾う事も含まれているんだ」


 それは復讐なのかもしれない。それは失われた家族や故郷の思い出なのかもしれない。

 人によって求める物は違い、手に入れる物も様々だ。

 俺は俺にしか出来ないやり方でそれを叶えていく、俺が俺らしく生きていくとは、俺にしか出来ない我侭を貫き通すことだと思う。

 皆には沢山苦労を掛けるし、心配させる事もあるかもしれない。それでも、守りたいものがあるんだ。


 「ケイ殿、貴方は若い様で老成した大人の考えも持ち合わせる不思議な方ですな。その不思議な魅力に、その包み込むような優しさに憧れて、貴方の背中を追う者が増えていくでしょう。どうか忘れないで欲しい、その想いが沢山の夢を背負っていく事を。ですが、重荷に感じる必要はありません。王とは自分でなる者ではないのです。王とは戴かれる者のみが成れる、貴方は好きなように振る舞い、ただ突き進むのが一番です」


 シウスが語り、跪く。

 続いてエリスがイーリスが跪く。


 「貴方が私を救ってくれた時のように、いつまでも純粋で、自由で、素直に、自分の思いに正直に生きて欲しい」

 「その行いの助けになれるよう、その心の支えになれるよう。苦しみも喜びも分かち合えるよう......幾久しく」


 「ありがとう。また救われてしまったね。大切な事を見失う事が無いように、いつまでも共にあり、皆を導ける存在になるよ」


 長い道のりに疲れる時は、肩を貸してくれる仲間が居る。

 俺は幸せだ。この幸せを広げて大きくしていこう。

 俺達は走り始めたばかりなのだ。

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