第35話人とモンスターの縁を求めて計画する

 戦いの舞台裏では、自由の鎖メンバーによる今後の予定に関する会議が行われていた。


 「突然だが、今回の戦いで敵対するオークを仲間にしようと思う」


 ケイからの提案だったが、モンスターを仲間にするという発言を予想出来た者は居らず、疑問や困惑の表情が浮かぶばかりであった。


 「そもそも、この世界の人間達が言うモンスターの定義とは何だ?」


 意思の疎通が不可能である。

 人間へ脅威を与える存在である。

 

 簡単に纏めるなら、この2点の条件に合致する存在だろう。


 「ならば、オークはどうだろう?確かに人間への脅威を秘めた存在ではあるが、意思の疎通は不可能では無い。困難なだけで、それが実現したならば親しい存在へと、関係を改善する事が可能じゃないだろうか?」

 「確かに、今までは敵対しているから、外見や行動からのイメージが先行して、交流を持つという考えを最初から捨てていました」

 「イーリスの言う通りだよね。女性を攫って繁殖するとか、武器を持って襲い掛かってくるっていう実際に発生した事例を元に話をしていたけど、オークと会話をしたとか、交流を持っているなんて聞いた事も無かったもん」


 「あっちの世界でもそういう存在でしたからね。トールキンの著作なんかがイメージとして強かったでしょうか?こちらの世界での実態なんて、我々を含めた人族ですら、調べた事も無ければ聞いた事も無いでしょう。先生はどう思いますか?」

 「......雫君が受けで、オークが強き攻め......くっ殺ね?キテるキテるわぁ!、意欲作が誕生するよか」 ビュン!


 ターーン!!と雪乃の頬を掠った矢が壁に突き刺さる。

 頬を赤い液体が流れる感触と共に、鉄の臭いを嗅いだ雪乃の表情が凍る。


 「邪悪な気配を感じたので、背後を攻撃したのですが......正解だったみたいですね。さっきの怪しい気配が嘘のように消えましたよ!......次にそんな気配を感じたら......どうなるんでしょうね?先生」

 「ええ?その、あああ、何も気配なんか感じなかったけど、もしそんな事があれば、今度は私がこの手で」

 「そうですか、先生なら大丈夫ですね!安心しました......殺さずに済んで」

 「大丈夫!大丈夫だからね!?エルフィーはおお、落ち着いた方が良いんじゃななないかな?かな?」


 こちらに助けを求める視線を向けるが、俺は知らぬと目を背ける。俺は忘れない、あのキモブタと受け専で掛け算されていた事を......許さない。

 っと、ダークサイドに落ちる所だったねぇ、話を続けようか。

  

 「作戦は簡単だ、死にそうになった奴を、俺が全員回収して傷を治す。死に際や屍は幻術で上手く偽装する。ここらの戦場を覆い尽くす程度ならば、然程問題無く魔法を展開出来るだろう」

 「神さんよぉ、それを簡単って言ったら、困難って言葉を何に対してなら使用して良いんだ?って話になるんだが?」

 「ガイゼル君、無駄ですよ、父さんと同じ顔をしてます。あの手合いは自分が非常識である事を自覚していませんから!......説明しても理解してくれませんがね?」


 どうして悲しそうな目で俺を見つめるの?ねぇ!フィオリナに何が起きたの?俺なの?俺が悪いの?

 困惑する俺に対して、ガイゼルまでが哀れみの視線を向けてくる。


 「ともかく!これは決定事項だからね!使徒のみんなには怪我人が出ないように、フォローをしてもらうから」

 「それでよぉ?俺達はどうすれば良いんだ?報酬を先払いまでしてもらったんだ。オーダーは完璧にこなすのが俺のポリシーなんでね。早いとこそこら辺の指示頼むわ」

 「こっちは死人が出なけりゃ何でも良いよ。そこだけキッチリとラインを引いてくれれば、どんな汚い仕事も喜んでやるってもんさね」


 ガイゼルが大人になったらゼストみたいになるんだろうか?この態度といい、切り替えの速さといいそっくりである。

 アメリアは20台も後半に入ったばかりなのに、妙に熟練した雰囲気を漂わせている。アレがでか過ぎる関係で、前で組んでいる腕が隠れて見えないだと!?なるほど......これがひみーー痛!イタイイタイ、イーリスさん?私の太ももがねじ切れそうになっていますよ?イタッ!そこか!ハーレムがどうとか言ってたのに、ここで怒る理由はサイズのぉわああああ!痛い痛いごめんなさい。


 判ればよろしいと腕組みするイーリスだったが、十分すぎる程大きいと思うんだけどなぁ......。


 「アメリアとガイゼルは部隊を率いて戦ってくれれば良い、最後にオークキング達と会話をする機会があると思うが、その時は援護頼むぜ?たぶんだが、それがきっかけになると思うんだ」


 こうして最後の戦いを迎えるにあたっての本当の準備は完了した。

 予想以上にオーク達が粘ったのには、素直に凄いと思った。あの若い王も、なんだかんだでかなりの求心力を持っていたし、それなりに強かった。

 そして、一番の収穫だったのは、王を殴りつける程に命がけで心を砕く、真の忠臣シウスの存在だった。

 彼程に人間味に溢れ、忠義を形にしたような存在はいないだろう。

 人間ですら、あそこまで出来る臣と王の関係は稀だろう。


 目論見は全て上手くいった。

 本来ならば父さんや母さんも出張ってきて、鬼の殲滅作戦を実行するんだろうが、今回の作戦を話したら喜んで賛成してくれた。

 ちなみに、ここでちょっとだけ補足しておくが、我が父は正真正銘の化け物である。

 

 超レアな大器晩成スキルを所持しており、そこにスキルを含む、全ての能力とレベルを封じ込める事で、レベルリセットを行うのだ。

 これはジョブにも適応され、上級ジョブですら村人まで逆行される。

 能力開放はいつでも瞬時に可能だが、LVが100になると強制的にLV1まで戻される。

 そうする事でスキルレベルが1UPするのだ。つまり、下記を参照すると......既に22回もLV100に到達しているという事になる。


  グレイ (33) LV73 ジョブ 重斧戦士ヘビーアックスウォーリアー 種族 ヒューマン

  HP 830/830 MP 684/684

 スキル 『生産技能』採取 LV37 農業 LV33 狩猟 LV44 木工 LV13 料理 LV5 細工 LV7 

      『便利技能』ステータス LV51 鑑定 LV60 大器晩成 LV23

      『戦闘技能』格闘 LV42 武具習熟 LV47 兵器習熟 LV33 指揮 LV35 怪力 LV34 挑発 LV39 肉体強化 LV41 力強化 LV35


 能力解放後は蓄積された経験が完全開放されて、適正レベルまで上昇する事になるが、職業適性ボーナスやスキルボーナスが発生すると同時に、大器晩成スキルLVに応じて存在の格が上昇するらしい。

 LV1~20だと1ランク、LV21~70は2ランク、LV71~Masterは3ランク上昇となる。

 ハイヒューマンを超えてオリジンへ到達できる時点で、人間辞めてるんだが......剣聖ライオネルは、複数の魂を取り込む事で壁を破り、神人まで到達した。

 融合した魂を開放してランクダウンしたが、現時点でもオリジンの格に止まっている。

 

 ランク2は種族を問わず、基礎LV2000を超えると言えば格の違いが判ってもらえるだろうか?ハイヒューマンの10倍である。

 ライオネルの場合は、アイテムの恩恵と魂の吸収でランク3へ到達した為、LVが6000台で止まっているが、ランク3へいたった時点で、基礎レベルは最低でも10000以上となる。


 我が父はどこへ行こうとしているのだろうか?

 あの父にしてこの子有りなのだが......教えて!【百科事典】ウィキペディア先生!!


 『解』そんな所まで補佐出来るか!自分で父親に聞け!


 おうふ......先生がご立腹でござる。

 拙者、初めて先生が感情を顕にする所を見たでござるよぉ......笑顔で怒るティアマ (聞こえてるんだけど?)

 バ、バックアタックでござる。最早命運も尽きたでござろうか?


 と、ともかく!色々と蛇足もあったが、辺境の英雄は本当に英雄だったのだ。語ろうとしないが、グレイ・メリッサ・???・???・???の5名で凄い事をしたらしい所まではミーシャに聞いた事がある。

 どのような特異点があるのか知らないが、この世界のこの国に転生した事は、偶然では無いのかも知れない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る