第34話ファンタジー世界を現代兵器と戦術で蹂躙する3

辺境軍は圧倒的優勢で戦いを進めていた。

 こっちは防衛が目的なのだから、無闇に近づく必要が無いからだ。

 遠距離から攻撃を繰り返し、敵を近づかせない事が初手である。


 まずは地雷原が仕事をしてくれている。

 走りくるオークの集団を吹き飛ばし、屍を量産している。生き残った個体も部位欠損や重傷ばかりで、先頭を続行するのは困難だろう。

 感圧式の地雷の威力も素晴らしいが、やはりS-マインが猛威を振るっている事が大きい。


 魔法で遠隔起動したS-マインは、敵の中央で炸裂する。

 上空に飛び上がり、周囲に被害を撒き散らす。悪魔の散弾は一切の容赦が無い。


 投石器の攻撃範囲の広さも一役買っている。

 空から降り注ぐ死の恐怖に抗いながら走り続けるオークだが、上ばかり見ていれば地雷や、爆発で穿たれた穴に足を取られる。

 下ばかり見ていれば、着弾点の予想を付ける事も出来ず、運が悪ければ直撃も有り得る。


 バリスタの射手達も中々の腕を持っており、遠距離で命中させるのは勿論、一気に2匹を串刺しにする技まで見せられた。

 俺が製作したバリスタは、精度が抜群で撃ちやすく、丈夫で使い勝手が良いとの事だ。

 国宝ランクの素材で作り上げてますからね?技術も王国一なんて比較にならないからね?


 

 あっという間に屍の山が積まれ、撃破数が17421匹まで上がっている。

 順調に全滅へ向かっていたのだが、ここで敵陣から鼓膜をビリビリと震わせる咆哮が放たれた。




 何だこれは!俺達は一体何と戦っているんだ!?

 

 生まれながらの王にして、種族の全てを統べる者として生まれた俺が、ただ一人のオークキングである俺が、敵と戦う事も許されないだと!?

 降り注ぐ砲弾の雨、バリスタによる射撃の嵐、打ち出される魔法、堀から突き出す無数の岩の槍、投石器から打ち出される様々な種類の弾。


 数の暴力で圧殺してやろうと思っていたはずが、蓋を開けてみれば手数の多さと、未知の兵器で壊滅しかかっている。これがシウスの進言に従わなかった事への報いか。

 俺が愚かだったという事だろう。だが、このままではそんな愚かな王の為に死んでいった。数え切れない同胞に申し訳が立たない。


 こうなれば、俺の全てを燃やし尽くしてでも、奴等に思い知らせてやる!

 我々の部族がどれだけ勇壮で、誇り高い心を持っているかをな!


 「GUWOOOOOOOOOOO!!」


 精鋭中の精鋭を引きつれた俺は街を目指して突き進む。

 同胞達が命を賭けて切り開いた血道を通り、最後の決戦を挑む。


 「祖霊よ!我々に力を!覚悟を与えてください!」


 【ウォークライ】


 オーク達の目に狂気の光が宿り、全身の筋肉が膨れ上がる。

 全身に血が廻り、溜め込んだ体中のエネルギーを燃焼させる。

 肉の下に隠れていた鋼の筋肉が躍動し始め、全身が急激に引き締まる。

 

 「覚悟を決めた我々に敵などいない!」

 「オォオオオ!!」

 「苦しい時は横にいる友の姿を見よ!我が背中を見よ!同胞達の無念を思い出せ!」

 

 狂戦士を通り越し、凶戦士となったオーク達は、ここで全てを燃やし尽くさんと、生命力までも燃料として極限まで力を高めている。


 「道具や魔法だけに頼り、隠れて攻撃を繰り返す卑劣な人間に鉄槌を下すのだ!突撃ぃ!」


 今までの中で最高の力を持ったオークの精鋭達は、これまでのオークとは次元が違った。

 飛んでくるバリスタの矢を掴み取り、バキリとへし折る。

 投石器が放った大量の散弾による、面の攻撃を咆哮の圧力ではじき返す。

 同胞の屍を足場に、安全地帯を走り抜けてきた。


 オーク達の死体で埋まった、第一の堀を突破したオーク達は、ここで魔法の集中砲火を浴びた。

 火炎が周りを焼き尽くし、渦巻く風が火災旋風となり迫る......しかし、王が斧を振り下ろすと、勢いに乗って大きくなった火の渦は勢いを失い、さっきまでの勢いが嘘だったかのように、風に溶けて消えた。


 続く罠は短距離転移による、辺境軍の奇襲だった。

 第2の堀の向こうから、【旋風の牙】と【鉄鎖の絆】メンバーが魔法と弓矢の遠距離攻撃を仕掛けてくる。

 辺境伯軍の精鋭が駆る、グリフォンライダー部隊も上空から奇襲を掛けて来る。

 勢いが付いた手槍の雨は、オークの体に突き......刺さらなかった。


 その手槍を掴み取ったオーク達が、お礼だと言わんばかりに手槍を投げ返してくる。

 慌てて上空へ非難したが、豪腕で投げ返された手槍が対空ミサイルのように乱れ飛んでくる。

 串刺しにされる事を覚悟した騎士達だったが、致命の手槍を悉く払い除けたイーリスに助けられた。


 真紅のバトルドレスは、背中が翼の様に広がり、スカートから伸びた多数の鞭が手槍を払い、絡め取っていた。


 「忝い、お嬢さんのおかげで助かったよ」

 「仲間ではないですか。ケイ様はこのような展開を読みきって、我々を配置しておいでです」

 

 見れば、激しい反撃を受けている、【旋風の牙】と【鉄鎖の絆】にも雪乃とエルフィーが援護として参戦しており、相手が投げた手斧や投石を打ち払い、悉く迎撃している。

 正確な魔法と弓矢が弾幕を形成しており、その技術力の高さに驚愕する。

 見る事も勉強だとケイから指示を受けた、ガイゼルとフィオリナも横で観戦している。


 そこに、超長距離から放たれた風と大地の魔力を纏った矢が飛んでくる。

 美しい緑のオーラを纏った矢が1匹、2匹と高レベルの変異体を打ち抜いていく。

 目にも留まらぬ速度で放たれた矢は、動き回るオーク達の行動など関係無いとでも言うのか、寸分狂わぬ精度でヘッドショットを決めていく。


 「精霊の力を借りたハイエルフが打つ弓を回避出来るわけ無いじゃない。奪った命に懺悔しながら逝きなさい!」


 エリスが弓を構えると、風の精霊が矢へ変化し、大地の精霊が鏃へと変わる。

 ギュルギュルと螺旋回転が加わった矢が放たれ、フォン!と音速を突き破って飛翔する。


 10、20と繰り返し放たれた矢は、空中で分離していき、最後には100を超える雨となって降り注いだ。

 体中を針鼠のようにされ、一瞬で刺殺されたオークは、絶叫する事も許されず、地面に縫い付けられた。


 どんどん倒れていく仲間に不安を過ぎらせたオーク達だったが、王の猛々しい雄たけびと雄姿見せられて、士気が持ち直した。

 飛んでくる矢を破壊し、その鋼の肉体ではじき返す王は、紛れも無く一騎当千の兵だった。

 大地を踏みしめ、亀裂が入るほどに力を入れて飛び上がる。

 ロケットのように上空へ登った王は、イーリスを見つけるとこう叫ぶ。


 「敵将と見た!我と一騎打ちせよ!」

 「あら?中々勇ましいですが......身の程を弁えなさい」


 言うが早いか、残像となって掻き消えたイーリスは、王の背後に回ると、後頭部を蹴って地面へと叩き落した。

 何をされたか理解が追いつかず、思考が止まりかけた欧だったが、地面が近くなった所で正気を取り戻し、無事に着地した。


 「何たる武力、何たる優雅な身のこなし、この我が赤子のように捻られるとは......惚れた」

 「王よ!如何なされた!」


 その言葉に正気を取り戻した王は、「何でも無い」と返事を返し、街へと前進を始めた。

 堀の向こうに立てられた木の柵を破壊し、着地した所で拘束魔法の一斉射撃を受けた。

 何十もの網に絡めとられたように、身動きがとれず、重圧が重く圧し掛かる。


 「この程度!我に通じると思うてかぁあああ!!」


 メリメリと何かが裂ける音が聞こえ、拘束術式に亀裂が入ると、一気に弾け飛んだ。

 破壊した木の柵を掴み、地面から引き抜くと、足場にして渡れと堀に架けて端を作った。

 水の下から飛び出してくる忌々しい槍の根元に向かって、破壊の意志を込めた闘気の弾を撃ち込み、粉々に破壊して安全を確保する。


 街まで残り400メートル、短いこの距離が遥か遠くに感じる。

 空の上や、敵部隊の向こう側に気配を見せた達人。

 シウスの言った通りだった。この世には理解できない領域に達した化け物が存在すると、我々が強いと感じる事すら許さない、高位の存在が君臨する世界があるのだと。


 下位竜を討ち取った時に感じた強者の風格など、本物と比べれば紙切れのようなものだった。

 全滅を確信した俺は、これからどうすれば良いのかわからなくなった。

 闇雲に突撃しても、仲間を死なせるだけ、引いた所で追撃されて皆殺しにされる。

 俺はどうすれば良い?シウス......教えてくれ!俺は......どうすれば。


 「----!!」


 この声は?


 「ーーーください!」


 シウス?牢屋に閉じ込めていたはずでは?


 「皆止まるのだ!王よ!これ以上はやめて下さい!もう決着は付いております!」


 身に着けた装備はボロボロで、シウスも単独であの森を抜けてきたのであろう。

 血だらけになりながらも、一人でここにたどり着いたのは、その鋭い勘と経験によるものだろう。


 「見ているのだろう!姿を現して欲しい!我々の負けだ......降伏する!」

 「何を馬鹿な!シウス!お前」

 「馬鹿は貴様だ!いい加減に目を覚ませ!子供の飯事に付き合って何人の同胞が犠牲になった!」


 躊躇う事無く振り下ろした拳には全身全霊の力が篭っており、流石の王も耐える事が出来なかった。

 地を転がり、顔を、体を打ち付けてゴロゴロと転がっていく王を見て、若き将軍達がシウスへ反論する。


 「シウス殿!王を殴る暴挙!許される物ではない!跪いて許しを」

 「馬鹿者が!止められなかった貴様らも同罪だ!大地を舐めて反省しろ!歯を食いしばれぃ!」


 内に秘めて表に出す事が無かった、シウスの全力と覇気を受けて動ける者は居らず。抵抗する事も許されず転がされていく。


 「見事だ。貴様の態度に免じて拝謁を許すぞ」


 雲を切り裂いて、光の柱が天から降り注ぎ、巨大な2匹の竜を従えた存在が舞い降りた。

 手を一振りすると、血と屍だらけだった大地が浄化され、清浄な空気が生まれて広がっていく。

 血なまぐさかった臭気は消えうせ、辺り一帯に神気があふれ出す。


 「愚かな王を教育すべきだった私の過ちでございます。如何様にも裁きを下してください。ですが、どうか......どうか御慈悲を賜りたく、若き命をお救いください」


 シウスは地にひれ伏し、許しを請う。

 その姿を見て怒りなど消し飛び、申し訳なさと共に後悔があふれ出してきた。

 王は俺の間違いを認め、シウスの隣へ跪くと、許しを請う。


 「愚かな私が全ての現況、シウスが裁かれるならば、先に裁かれるべきは私出なければ......他の者達は私の命令に従ったに過ぎぬ。この命にどれだけの価値があるかわからぬが、どうか許して欲しい」



 「そうだな......まずは飯にしよう!話はそれからだ」


 パチンとケイが指を鳴らすと、戦場が平地にへと姿を変える。

 溢れていた屍が消えて、沢山の机と椅子が並べられる。

 そこには大量の料理が並べられ、出来たばかりの暖かな料理は湯気を立てている。


 「まずは間違いを訂正しよう。この戦いでは死者など存在しない」

 「「は!?もう何万と同胞が死んで」」

 「あれは俺が見せた幻覚だ。本物はみんなあっちに避難させてある」


 次元に亀裂が入り、扉が開くとぞろぞろとオーク達が出てくる。


 「王よ!ご無事でしたか!シウス殿も!やはり、開戦当初の言葉に従うべきでした。シウス殿には頭が上がりませぬ」

 「無事だったのか!良かった!本当に良かった!」


 自分を生かす為に、自ら捨石となった部下達が現れ。その無事を確認したシウスの頬に涙が伝う。

 

 「お前達も、これで分かっただろう?本気になった人間の恐ろしさが。そして分かっただろう?両者が手を取り合ったならば、これまでとは違う世界が開けると」


 そこまで語ったケイは、ワインの注がれたグラスを掲げて音頭を取る。


 「さぁ、乾杯しようじゃないか。文字通り、命をかけて殺しあった間柄だ。他人よりもよっぽど話しやすかろうと思うのだが?」


 不思議な空気が漂う中、チンとグラスが触れ合う音がした。

 ケイのグラスと、シウスのグラスが鳴らした音だった。


 「愚かな我々の新しい門出をくれた貴方に感謝を」


 そこへアメリアとゼストが現れて、グラスを重ねる。


 「なんだい?男が揃って辛気臭い雰囲気でさ?酒は楽しく飲むもんだよ?」

 「楽しく戦って、みんな生きてました。めでたいめでたしじゃねぇか?男も女も、豚も人間も関係ないだろう?」

 「待ちたまえ!豚では無い!我々は誇り高きオークだ!」


 王がグラスを重ねると、胸を張ってそう告げる。


 「なら、何が違うのか聞かせて貰おうじゃないのさ?」

 「そうだぜ?語らにゃ分からねぇ事が、この世界にはごまんとある」

 「良かろう。我々誇り高きオーク族が人間に答えてやろうじゃないか?」


 ワイワイガヤガヤと雑談が広がり、人もオークも楽しそうに酒を酌み交わし、料理に舌鼓を打つ。

 この世界のどこにこんな光景があるだろうか?

 ここにあるのは、いつか誰かが夢見た光景であり、実現が不可能だった夢物語の続きである。


 「流石は旦那様、スケールが違いますのね?」

 「そうか?俺にとっちゃこれが普通なんだが?」

 「もう、それが普通じゃないって分からないのね!だから、貴方はケイなのよ」


 嫁に挟まれて見る宴の光景は、この先に広がる夢への始まりだった。

 笑顔が紡ぐ幸せの物語は、ここに第一歩を踏み出したのだ。

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