第33話ファンタジー世界を現代兵器と戦術で蹂躙する2

 「王よ!何故聞き入れてくれないのです!」


 手から血を流しながら、鉄格子を叩くシウスだったが、門番は牢を開けてはくれない。

 たとえ自分より上位種であるオークジェネラルであろうと、王が出した指示を破って助けるわけにはいかない。


 「シウス様、諦めてください。王は戦へと赴かれました。どれだけ叫ぼうと聞こえていませんよ」

 「ぐ......ならば王に伝えてくれ!戦いの先にあるのは死だ!部族が滅ぶ事になると!」

 「私に仕事を放棄しろと?そんな事をすれば、職務怠慢だと、私が咎めを受ける事になります」

 「そんな事を言っている場合か!王が亡くなればそんな事は言っておれんのだぞ!?」

 「あの偉大な王が人間などに負けるはずがありません」


 見えていない......若い彼らには見えていないのだ。

 我が王も同様、危険と脅威は身に迫った時に初めて牙を見せるのだ。

 それを誰よりも早く嗅ぎ分けて最善の選択をするのが、将の役目だというのに......私は責任を全うする事が出来なかった。


 生まれ持った力が強いばかりに、あの子には......恐怖を与えてくれる存在が居なかった。

 力が及ばない存在が、理解が及ばない何かが、この世界には存在するのだという事を教えてやる事が出来なかったのだ。


 「ならば、一つだけ妥協してくれ、俺の命に代えてもお前には累が及ばないようにする。だから俺をここから出してくれ。俺は王を死なせるわけにはいかぬのだ!」


 命が惜しいから、ここから逃げ出したいから言っているのではない。牢番をしていたオークはそう感じた。

 シウスという雄がどのように生きてきたのかは、彼も伝え聞いてきた。

 古参の将の中でも智勇に優れ、幾度も危機を潜り抜けてきたからこそ彼はここに居るのだから......その彼が俺の命を賭けてまで戦場へ行こうとしている。


 「頼む!この通りだ!」


 自分のように牢番しか任されないような落ち零れに、土下座をしてまで頼み込む真摯な姿に、彼は心を打たれた。どのような結果になっても、後悔する事だけはあるまいと。

 何も語らず、黙って牢の鍵を外した彼はこう呟く。


 「む、牢の鍵が壊れているようだ、これは大変だ......すぐに修理しなければ!しかし、私は直し方が分からない、誰か直せる人を探してこなければ!......後ろの箱には武具しか入ってないし、道具も用意しなければ」


 不器用な牢番は、独り言を呟く振りをしながら牢を出て行った。


 「......ありがとう!必ず、必ず王の命を守って見せる」


 シウスは装備を手早く身に付けると、オークとは思えない俊敏な動きで、王が向かった戦場へと走り出した。



 

 釣り野伏せが成功してから、辺境軍は圧倒的な戦果を挙げ続けた。

 釣り出されてくる獲物を七面鳥撃ちするだけなのだから。

 被害を最小限に、最大限の結果を出せるのは当然だ。

 しかし、それを支えるのは優れた技術と連携であり、彼らの協力があって初めて可能な戦術なのだ。


 後退しながら撃破を繰り返しているので、戦場は既にレッドストーン目前に近づきつつあるが、戦略マップには撃破数13599匹のカウントが表示されている。

 全マップ表示で現在位置から、敵本拠地までの広域表示へ切り替えると、敵本拠地から本隊と思われる軍勢が接近してくるのが分かった。

 

 念話で全軍へ指示を出す。

 

 「敵本隊が接近中だ。全員警戒を怠るな!オークキングの行動を、如何に妨害して封殺するかが、重要なポイントになるぞ!遠距離攻撃班は接敵する前に、敵部隊の数と体力を限界まで削り取るんだ!」


 檄を飛ばす俺の意思に呼応するように、戦場の士気が高まり気炎が上がる。

 守るべきレッドストーンが近い事もあり、遠距離支援マシマシ、陣地構築済み、大量に敷設済みの高密度地雷原という三段構えでのお出迎えだ。

 攻撃力も防御力も最高の状態で迎え撃つ自軍は、これまでの戦闘の中でも、最高の殲滅力を発揮するだろう。


 しかし、これだけの好条件があるからこその圧倒的勝利だ、スペックでは大きく劣っている。

 実践で鍛えられているとはいえ、平均レベルは150程度だ。

 単独での戦闘は厳しい、特に特殊な個体との戦闘は死者が出る可能性がある。

 近接戦闘など発生させないに限るのである。一騎打ちは戦の誉れだなんて言っている場合ではない。


 対モンスター戦闘、戦略的な面での話をするならば、どんな状況でも犠牲が少ない方が良いに決まっている。

 大体、このオーク達との戦闘では圧倒的勝利をする事が出来ても、この先が待ち受けているのだから、辺境に存在するモンスターはオークだけでは無い。

 ここで1勝しただけで勝ち誇れるほど、辺境の厳しさを知っている彼らは甘くないのだ。

 常に、確実に、消耗を抑えて、負傷を少なく、短時間で、より多くの利益を求めて、全てを高効率で行おうとする貪欲な姿勢を持ち合わせている。


 我々には帰るべき場所があるのだ。

 目的はそれぞれだが、愛する存在や大切な相手を守る為。更なる豊かさを求めて。辺境の、王国の繁栄の為に。

 目的と理想を実現する為に自分の腕を振るうのは当然であり、彼らはこれからも辺境を切り開いて進まなければならないのだ。


 そこにチンケなプライドや、名声を求めてなどという考えは、唾棄すべき不純物である。

 一匹でも多くモンスターを屠り、少しでも強くなる糧に変える。

 勝利は更なる勝利を手に入れる為の足がかりでしかないのだから......求める理想郷はまだまだ遠い。



 「確実な手で仕留めな!アンタらの仕事は何だい?」

 「敵軍の殲滅です」 「負傷を追わない事です」 「味方の足を引っ張らない事です」

 「分かってるじゃないか!無駄死になんか絶対に許さないよ?今晩もみんなで飲み明かすんだからね!酒を不味くさせるんじゃないよ!?」


 アメリアの檄は単純明快だが、各自の目的を意識させる事、何よりも無駄死にしない事を徹底させる為に、戦いの前には必ず行われる。この部隊独特の儀式の様なものだ。

 彼女は仲間が欠ける事を許さない。誰よりも優しいからこそ、誰よりも厳しい。

 そんな彼女だから慕われ、愛され、惹きつけられる。

 多くの出会いと別れに触れ、その小さな背に沢山の想いを背負って来た彼女には、言葉だけでは語れない重さがある。


 「よし!行ってきな!いつも通りやって、当たり前のように帰ってくるんだよ?」

 

 口々に語る答えに満足したのか、おなじみのセリフで送り出されるメンバー達の顔は笑顔に満ちていた。

 これから戦場へ向かうとは思えない、だからこそ恐怖に縛られず、全力を発揮できる。

 こうやって彼女達は生き残ってきたのだ。



 「ふん、あいつ等に負けるような奴は俺達の部隊には居ないな?」

 「当然だぜ!」 「隊長こそビビッてるんじゃ?」 「任せてくれよ!」

 「子供の遊び場じゃねぇんだ!お前らの覚悟と積み上げた経験を見せ付けてやれ!」

 

 アメリアとは対照的に、ゼストは自分が最前線で引っ張るタイプだ。

 頼り甲斐のある背中を見せ付けて、グイグイ引っ張っていくスタイルの彼は、その安心感と全体を見渡す目で、戦場の風を支配してきたのだ。

 その実績と実力は、他の傭兵団にも知れ渡っており、彼が指揮する戦場は死人が極端に少なく、依頼の達成率は100%という破格の値を保っている。

 そのカリスマは、同業者の繋がりで他国まで知れ渡り、ゼストと敵対する事を拒む程である。

 

 「男は黙って背中で語れ!嬢ちゃん達を死なせるなよ?後で一杯やるんだからな!」

 「もしかしたら一晩あるかもしれませんぜ?」 「おいおい!あの子は俺が声賭けるんだからな?」 「バカ!俺だってーの」

 「ガハハハハ!なら話は簡単だ!モンスターをぶっ殺しまくって、男の生き様を見せ付けてやれ!行くぞぉ!!」


 彼流の激励は大いに男達を奮い立たせ、女達を安心させる。

 絶大なる信頼と責任を背負って、彼は今日も最前線を突き進む。



 

 異様なほどに士気の高い人間達が守る街を見つけた。

 オークの王はシウスの言葉を反芻する、それでも王は止まらない。

 種族の未来を背負うには若過ぎる精神、力を生かすも殺すも上に立つ者次第であると、民を導くには強いだけでは駄目なのだと......彼は己が恐怖と、数え切れない仲間の死を持って学ぶ事になる。 


 最後の決戦が始まる。

 数多の思惑が渦巻く戦場で、全てを見通し、最後の形を作り上げる為に物語を作り上げる指揮者が居た。

 奏でられた音楽のフィナーレは、誰もが聞いたことの無いクライマックスを迎える。

 


 後に使徒達は誰もがこう語る。

 誰よりも偉大で、誰よりも愚かだった。それゆえに放って置けない我等が神。

 いつも予想外の結果を導き出す彼の周りは笑顔にあふれていたと。

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