第32話ファンタジー世界を現代兵器と戦術で蹂躙する1

何だこれは!俺達は一体何と戦っているんだ!?

 

 生まれながらの王にして、種族の全てを統べる者として生まれた俺が、ただ一人のオークキングである俺が、敵と戦う事も許されないだと!?

 降り注ぐ砲弾の雨、バリスタによる射撃の嵐、打ち出される魔法、堀から突き出す無数の岩の槍、投石器から打ち出される様々な種類の弾。

 

 こんなに近くにいるのに、敵の街への道のりが永遠にも感じる。

 築かれた屍の山は1000や2000等という生易しいレベルでは無い、地下へ洞窟を掘り進み広大な帝国を作り上げた俺が......全兵士を引き連れて来たのだ!総兵士数20000人という圧倒的物量だけでは無く、部下を鍛え上げて進化を繰り返し行った我が部族の勇者達は、人間共の精鋭部隊にだって劣るものではない!

 

 それがどうだ?戦う事すら満足に許されず、次から次へと殺されていく。

 シウスが俺に言った通りになってしまった。進言を受け入れて引いていれば......俺の驕りが一族を滅びへと導いてしまったのだ。

 


 始まりは、森での爆発音からだった。



 突如降り注いだ金属片が突き刺さり、一瞬にして数十頭のオークがボロ切れの様になった。

 身体中を穴だらけにして、突如血塗れとなった同胞達が、地に倒れ伏していく。


 仲間の無念を引き継ぐように興奮して、目を充血させたオークジェネラルが、突撃の号令をかけて前進していくと、今度は粘液のようなドロドロした飛沫が周囲から噴出する。

 触れた瞬間に炎上する部下達の姿に驚嘆したが、最早止まる事は出来ぬと突撃を再開する。

 燃える肉壁となった仲間の無残な姿を横目に、後続部隊が森を突き進む。

 

 肉が焼ける臭いが充満した森の中を、再度直進し始めたオーク達だったが、今度は無数の爆発が襲い掛かる。

 燃えていた仲間達の周囲が突如光に包まれて、閃光と共に衝撃が、炎が襲い掛かってくる。

 

 まるで仲間自体が火魔法に変化して、周囲を襲ったかのような状況だった。

 しかし、仲間のオークメイジでもここまで強力な魔法は連発する事が出来ない。

 それに、裏切る理由も無いし、この軍勢には同行していないのだから、可能性としてはありえない。

 

 このオークジェネラルは優秀だった。

 自分達の仲間が、原因不明の攻撃や爆発で大打撃を受けている。本来ならば、怒りに任せて猪突猛進する血の気が多い種族であり、恐れを恥じる傾向にある指揮官タイプとしては、異端の考えを実行したのだ。


 全軍一時後退、指示があるまで治療と防衛に専念せよ。

 取って返したオークジェネラルは、名をシウスという。

 王が生まれる前から集落を指揮していた群れの古参で、豊富な経験と危険予知能力に優れていた。

 これは王に報告しなければならない!今我々が戦っているナニカは、決して触れてはならない物だと、今まで生き抜いてきた俺のカンが、人生で最大レベルの警鐘を鳴らしているのだ。


 


 良し!クレイモアが効果を発揮したようだな。

 死体を量産した悪魔の兵器は、猛威を振るい続けた。

 金属片を身体中に浴びたオークは倒れ伏し、魔力液を浴びたオークは燃え上がり、炎の壁に早変わりだ。

 気化した魔力液が空気と反応して、爆発が繰り返し発生すると、無謀にも突撃を繰り返すオーク達が爆発音に合わせて弾け飛び、集団が次々と爆発四散していく。


 このまま続けば大量の焼豚とミンチが量産されていくだろう......そう思った俺だったが、無謀な突撃を繰り返すオーク達へ指示を出すオークジェネラルが現れた。

 直ぐに後退を始めたオーク達だったが、その犠牲はすでに2000を超えていた。

 上々の出来だったが、これで満足した訳では無い、全貌を確認した訳では無いのに、軽く1万匹は超えるだろう集団を相手取って、与えた打撃がこの程度では、危険を取り除いた事にはならない。


 将兵を狙う必要が出て来たな。

 賢い奴がどれだけ居るかは不明だが、もっと数を減らす環境を整えなければならない。

 敵の数が多ければ多いほど、白兵戦で被害が出る可能性が上がってしまう。


 次はゲリラ戦術を指導した傭兵部隊が奇襲をかける頃合いだろう。

 クレイモアの位置と効果範囲を可視化出来る、特殊なマッピングアイテムをレンタルしているので、敵を罠に誘い込んで発動させる戦術も取れる。

 

 これは罠だけでは無く、傭兵部隊同士の連携による包囲殲滅戦にも大いに役に立つのだ。

 所謂、戦国時代に島津氏の得意とした戦術、『釣り野伏せ』だが、傭兵部隊の熟練した統率能力と、伏兵や奇襲戦術への知識と経験、その全てがマッチした彼等の動きは、即実践投入可能な練度だった。

 作戦に参加する全ての将兵が、繊細な動きと連携を必要とするこの戦術だが、異世界ならではの解決方法が多々あり、前世で行われた作戦以上の戦果が期待できるだろう。


 風魔法による遠距離通信、闇魔法による視界の制限や幻覚、身体強化による移動速度の切り替え、土魔法による奇襲に適した地形への変更、使い魔による上空からの作戦指示。


 その全てがこの戦術の効果を何倍にも引き出してくれる力を持っている。

 この戦術はこの世界でも、戦争の歴史を大きく変える事になるかもしれない。

 

 【旋風の牙】や【鉄鎖の絆】には、この戦術の指導、道具の貸与等を条件として、この国と敵対する事を禁じた。

 これは魔法契約書による制約を含めた、契約に則って履行される為、心配は無い。

 俺の魔力以上で制約を破る事など不可能だし、彼等は全員がこの国出身で、愛国心を持っていた事も幸いした。この戦いが終わったら、【自由の鎖】への参加や協力を打診してみようと思う。


 それほどに彼等の能力は秀でているし、傭兵であるには珍しい程の優れた人格まで併せ持つ集団だった。

 ガイゼルがああなるのも頷けるほどにアットホームな【旋風の牙】、メンバー全員が互いを全力で支援し、損得を抜きにして、必ず帰還する事を最優先として掲げる【鉄鎖の絆】は実に俺好みである。


 この命が軽い異世界にあって、お互いの命を最大限に尊重する姿勢は、大変に貴重である。

 何より、奴隷だとか平民だとか関係無いと真顔で言い切る団長2名が非常に気に入った。

 ガイゼルをそのまま渋いおっさんにしたような【旋風の牙】団長ゼスト、まだ20代後半という、比較的若いはずだが、メンバー全員に慕われている、姉御肌の勝気な女性【鉄鎖の絆】団長アメリアの2人は是非とも欲しい人材だ。


 待機を命じられたオーク達を挑発するかのように、緩い山なりの軌道で矢を放つ傭兵達。

 治療と防衛を指示されたオーク達だったが、今まで一方的に攻撃されてストレスが限界まで溜まっていたのだ、それが目の前でヘロヘロの矢を放って挑発してくるのだから、爆発寸前のオーク達に耐えられるものでは無い。

 飛んでくる矢を叩き落とすと、全員で突撃してくる。


 掛かった、と振り返り闘争を始める傭兵達だったが、上空から俯瞰して戦場を観察する、使い魔の鷹を通して状況を把握している。

 携帯型のマッピングアイテムと、上空からの視点を利用して危険地帯を把握した彼等は、幻覚魔法や挑発を駆使して相手を誘い込む。

 

 「ようこそ、そしてさようなら」


 伏兵が現れ、左右と正面からの同時攻撃が始まる。

 3方向から魔法と弓矢による攻撃が間断無く行われて、一瞬にして多数の命を奪う。

 動揺している所に幻覚魔法で壁を構築する。一見ただの壁だが、焦ってパニック状態になっているオーク達には背後を断たれて絶体絶命の状態以外の何物でも無い。


 脳が真実を理解する事が出来ず、何も無い空間へパントマイムでもするように絶叫しながら拳を叩き付けている。

 決死の覚悟で突撃してきたオークも、集中砲火を浴びて沈黙するか、直接切り伏せられて死んでいく。

 伏兵の中には、精鋭中の精鋭である、辺境伯群が紛れ込んでいるのだ。

 

 彼等は常に開拓の最前線や、国境での争いに身を捧げている為、全員が超一流の実力者だ。

 オーク達の反撃など何も無かったかのように回避して、連撃を叩き込む腕前は中々のものだ。

 

 開始から半日で、オークの侵略部隊は被害人数6000という多大な被害を出した。

 ここまで来てようやく、オークジェネラルのシウスが王へ報告の言葉を持っていく事になる。


 しかし、慢心した王は、沢山の部下達の命を犠牲にして、やっと手に入れた貴重な報告を受け入れず、部下に不要な犠牲を強いたとして、地下牢へ幽閉されてしまった。

 同族の力を強化する金色のオーラと指揮能力で、味方の力を底上げした王は、戦場へと足を向ける。


 そこにあるのが絶望であると知る事も無く。

 

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