第23話俺が考えた異世界大戦略。パンが無ければ作れば良いじゃない?発動
飢えるという事は、誰もが理解出来る悲惨な事だ。
何もしなくてもお腹は減る。
空腹を感じるが、食べ物が無い。
過去に起きた戦争でも、籠城する兵士が飢えて餓死寸前、或いは餓死している城を攻める。補給を断った相手との悲惨な戦いは、確かに存在したのだ。
食べる物が無くなり、城内の草木を食べつくし、牛馬を潰して食料にする。
荒縄を茹でて戻し、食材にするなど当たり前に行われていた。
やがて、それでも食べる物が無くなれば、土壁を剥がして食べる。
最後には、餓死した仲間や家族まで食べて飢えを凌ぐ事になる。
死んだ我が子を食べて生き延びる親の気持ちとは、如何なるものだったのだろうか?
こちらの世界でもそれは同じ事だ。
貧富の差が生まれれば、当然だが、食べたくても食べる事が出来ない人間が生まれる。
物流や生産が整っていない時代ならば、飢えという悪魔は必ず猛威を振るう。
衛生状況の悪さが病気を蔓延させるのと、飢えによって狂った人間達が起こす暴動。
この2つの理由は、誰かが解決しない限り、絶対に無くならない死因なのだ。
俺が訪れた王都でも、豊かな暮らしをする人間と、貧しい暮らしをする人間はいた。
だが、それよりも深刻なのは奴隷達である。
賃金など与えられない、日々の糧たる食事すら満足に出来ないでは、死を待つ他ないのだ。
俺はバルドを通して可能な限り奴隷を買い集めさせた。
金ならばどうにでもなる。俺が箱庭で蓄えた財は、この世界を基準にしても膨大な量である。
一国を養う程度は造作も無い。
買い集めた奴隷達を纏めて指揮するのは、【自由の鎖アンチェイン】の使徒達だ。
既に王都内部で土地を買い取り、巨大な畑を作り上げた。
住む場所に関しては、大きな長屋を建て、内部を空間魔法で拡張した。
やるならば徹底的にやらなければならない。
衛生管理を徹底する為、魔道具で下水処理可能な設備を整え、魔石を使用した大浴場まで作った。
衣服を洗う洗剤や、体を洗う道具に関しても徹底的にこだわり、下手な貴族よりも贅沢な暮らし完備した。
新たな生活を与えられた彼等は希望に満ち溢れており、積極的に働いてくれた。
まずは、食料の自給率を上げなければならない。
土壌改善は、俺が改良した肥料を混ぜ込み、土魔法でマナの活性化現象を発生させる。
すると、どこからともなく妖精が現れ始め、精霊達が集まってくる。
野良仕事の歌を歌いながら、奴隷達が畑を耕せば。
歌に乗って踊りながら、妖精達が癒しの魔法を振りまく。
楽しそうな雰囲気に釣られた精霊が集まり、大地のマナが満ち溢れる。
好循環が形成された農場は、あっという間に建て直しが完了した。
種を撒き終わって一服している皆に食事を振舞った。
ブルから絞ったばかりのミルク、焼きたての香ばしいパン、新鮮な野菜サラダ、ジャガイモを丁寧に裏ごしして作ったポタージュスープだ。
この農場が発展すれば、これから毎日食べる事が出来るんだぜ?と説明を聞いた皆の反応は、感激の涙だった。
こんなに美味い物を食べて、毎日楽しく暮らせるならば、そんな贅沢は無いと。
ひどい扱いを受けて、いつ死ぬ事になるのか、いっそ殺してもらえれば......と絶望していた生活が、一転して幸福な生活に変わったのだ。
衣食住の全てが揃って、初めて人は礼節を知ると言う。
俺という存在が齎した環境の劇的な変化は、ヒエラルキーの最底辺に居た、奴隷という立場にあった彼等を、良い方向へ導く事が出来たようだ。
老若男女を問わず、ここでは皆が家族である。
全員で助け合い、支えあい、喜びを分かち合う事が出来る。
人間という存在の善性が良く現れた結果のモデルケースだな。
【鬼小麦】
ケイが作り上げた小麦の強化種。
通常の成長の2倍で育つ、病気や環境の変化に強く、劣悪な環境でもモリモリ育つ。
反面、土地の栄養を急速に吸い上げるので、土地の手入れを怠ると枯れてしまう。
連作障害を起こさないのが最大の特徴、吸い上げる栄養素に偏りが無く、大地の環境さえ整えば、収穫量が格段に上昇する品種である。
こちらの世界では、植物や鉱物から、比較的手間が少なく天然酵母が取れる。
その為、俺の計画が進めやすい状況にある。
まずは、食料の供給量を格段に上昇させて、国を豊かにしていく。
働き手として、奴隷を重宝せざる終えなくなった時には、既に奴隷は全部俺が抑えているというわけだ。
この王都で営業している奴隷商は、既に全員を支配下においた。
他国から流入してくる人間を手に入れるのは不可能に近いのだ。
ここから先の展開としては、悪意のある冒険者や、盗賊達、心無い領主が人狩りを始めたらチャンスだ。
全員を悉く捕獲して、これを支配下に置く。
この国の王が余計な欲を出して、急激に上昇していく国力から、戦争という最悪の選択する事が無い事を祈る。
そうなったら、この国は俺が頂く。
アーネストが上手く舵取りをしてくれるから、この結末に行き着く事は無いだろうが、可能性としては0だとは言いきれないのが、人の業であろうか。
他国がこの小麦の価値に気が付き、戦争を仕掛けてくるというのがベターなのだが、周辺国との関係も非常に良好であるというのが、インフィナイトの国王が代々優れていると賞賛される証である。
ならばどうするか?
【周辺国家も全部巻き込んで、国規模の超々大規模穀倉地帯化を画策している】のだ。
広がり続ける辺境の土地が、この計画における肝だ。
大陸南部に位置する温暖な環境を利用して巨大な食料庫として、世界に君臨するのだ。
まだまだ世界中で不足する食料を支配して、戦争の行く末すら調節する。
力の弱いほうに強力な支援を行い、支配を強めようと動く強い軍需国家には、周辺国諸共沈んでもらう。
こちらの思惑に耳を傾ける国家には上手い汁を吸わせてやり、邪魔する国家には食糧難と、周辺国家からの冷遇という楔を打ち込んでやる。
食料だけではまだまだ弱いが、この小麦だけでも強い力を持つ事が出来るだろう。
予想外の動きがあれば、裏で俺が全部潰せば良いのだ
俺が必ず奴隷達の環境を変えて見せる。
この時代に「物流の概念」を普及するのは難しいが、この考えを悟った時には全てを支配している位の進行速度で動いていれば良いのだ。
俺達には時間制限という概念が無いのだから、じっくり落ち着いて事を運べば良いのだ。
まずは、この国を掌握して、周辺国への影響力を高めるのだ。
出入りする商人達をこちらの組織に取り込んで、大規模な商業ギルドを立ち上げる。
自分達の利益を守ろうとするような、小賢しい既存のギルドは全部ぶっ潰す。
利に聡い商人達は、目の前に金貨をチラつかせてやるだけで良い。
それに、大商人になるような賢い奴は、俺が提唱する【概念】を理解すれば、地に頭を擦り付けてでもこちら側に属するだろう。
商人達は金という明確な対価を提示すれば、誰よりも紳士に取引を行える相手だ。
その強かな欲望と謀略を御するだけの【格】を見せ付ける事が出来ればという条件付きだがな。
ここで俺が懸念するべきは、他の転生者が現代知識チートを発揮して。
俺の様に動き出さないかという事だろう。
だが、そもそも俺と他者では所持している財と能力が違うのだ。
邪魔することがあれば、明確に格差を提示して、OHANASIする用意はあるが、引かないならば全力で粉砕玉砕大喝采する予定である。
謀略面で指揮を執る俺は、悪鬼の様な所業でも厭わず行う。
全てはこの世界の未来の為に、俺は出来る限りの全ての手段を使って戦うのだ。
「面白そうな事を書いていますね?ケイ様」
せっかくノッてきたのに、執筆中の本を横から掻っ攫われた。
「駄目だよケイってば、暗い笑顔で悪巧みしてたんでしょ?分かりやすいんだから」
「こういう事は、私も混ぜてくださいませんと」
ページを物凄い速度で捲るイーリスは、読み進むにとドンドン表情が硬くなっていく。
笑顔で横から中身を覗くエリスは......内容が全く理解出来ないらしい。
早々に理解を諦めて、後ろから俺の首に腕を回して抱きついたまま動かない。
「ケイ様が本気になったらどうなるか理解しました、ですが、今回のコレは計画の一端であり、全貌ではありませんね?」
「それを読んだだけで理解出来るあたり、イーリスは策士として非常に優秀だね。才能を感じるよ?」
流石は元公爵令嬢だけある、その高い教養で内容をすぐに理解したようだな。
日記のように面白おかしく書いていた部分もあるのだが、すぐに理解出来る辺り、頭の回転も相当早いらしい。 適性がありそうな人物に見せてくれと頼んでおこう。
彼女は俺が思っている以上に優秀なようだ。
とりあえず、武闘会が始まってしまうので、一旦は計画から離れることになるが、アーネストにも話だけは通しておこう。
彼の働き如何では、最悪の場合、この国を滅ぼす必要性が出てくる。
愛国心の強い男だから、そうなったら国と一緒に殉死してしまいかねない。
「ではケイ様!残りを書き上げて完成させてくださいまし。私が目をつけた文官向きの子達を集めてきます」
「私は......畑の手伝いをしてくるよ!(何が始まるのかわからないとは言えない)」
2人はそれぞれ動きを開始した。
俺はといえば、執筆の続きを開始するわけだが、さっきまで抱きついていたエリスの感触に悶々としてしまい、集中力が途切れてしまった。......ちょっとトイレに行こうかな。
とうとう、目覚めた息子を相手に、今後の人生相談をしなければ!そうだよ!個人面談は重要だよね!?
言い訳がましくトイレに行った先には、先ほど人を集めに出て行ったはずの、デキる嫁が待機していたという......なんとも驚愕のオチ付きだったが......個人面談のはずが、2者面談になってしまった。......ううむ、侮れぬ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます